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学徒、異世界転移す。  作者: Harun
第一章「始まりの物語」
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第五十二話「概念」

ーー狙うべきもの


天音は、はっきりと理解していた。


狙うのは、レクイエムではない。

ピアノでもない。

それは、この場を支配している――“成立条件”そのもの。


拍があるから、動きが縛られる。

音が続くから、即興が成立する。

ピアノが鳴り続けるから、第三楽章は終わらない。


ならば――

壊すべきは、音ではない。


天音が構えたのは、〈天之〉。


エンドゥーが概念を貫くと言っていたのを思い出す。

ノクターンの時も無意識にそう使っていたのかもしれない。


現象が「そうである」と許されている理由を断つ力。


早乙女が叫んだ。


「天音!

あのピアノ――!!」


天音は、首を振る。


「違う」


視線は、鍵盤の先――

空間そのものを見据えている。


「“ピアノが鳴り続けている”っていう

概念そのものだ」


その言葉に、零が息を呑んだ。


「……なるほど」


「音源を壊しても、

“鳴り続けることが許されている理由”が残る限り、

第三楽章は終わらない……!」


レクイエムが、わずかに目を細める。


「そこに辿り着くとは」


「だが――」


言い終えるより早く、

空間が凍りついた。


九条が、再び突っ込む。


「だったらよ――」


拍を無視した、無謀な突撃。


当然、鎌が振るわれる。


吹き飛ばされる、その瞬間。


九条の影が、大きく揺れた。


その影の内側から――

零が滑り出る。


「今だ!!」


アリスモス・クリオス。


半径一メートル。

絶対零度。


音になる前の振動が、完全に停止する。


拍が、来ない。


次が、存在しない。


その一瞬、

天音の世界から、すべての“邪魔”が消えた。


音も、

拍も、

即興も。


残ったのは、

一本に繋がった因果だけ。


天音は、深く息を吸う。


魂で因果を掴み、

言葉を――世界に突き立てる。



ーー天之銀矢命


天を因とし

理を果とし


連なりし必然を

ここに示し

ここに断つ


我が刃は

物を斬らず

音を斬らず

命を奪わず


ただ

“概念”のみ

点睛を穿つ



――天之銀矢命


矢が穿った。


射たのは、ピアノではない。

オーケストラでもない。


“演奏が続いてよい”という因果そのもの。


鍵盤が、震える。


鳴ろうとする音が、

理由を失って崩れ落ちる。


和音が、完成する前に壊れ、

拍は次へ進む意味を失う。


ピアノは――

沈黙した。


完全な、終止。


レクイエムは、その光景を見て、

ゆっくりと大鎌を下ろした。


「……演奏を、壊されたな」


怒りはない。

悔しさすら、ない。


ただ、満足したような声音。


「第三楽章は、未完」


「だが――

確かに、ここまで辿り着いた」


天音は刃を下げる。


「終わりだ」


レクイエムは、小さく笑った。


「今日は、ここまでにしよう」


空間が、ほどけていく。


「君たちは、

音楽を“聴く側”ではなく、

“壊す側”に立った」


「その覚悟、忘れるな」


「魔王様との戦いの邪魔はしないと約束しよう」


アビス・タツキオンの姿が、

静かに溶けるように消えた。



静寂。


本当の、音のない世界。


零が、地面に手をつく。


「……勝った、というより」


「ああ」


天音が地面に大の字に倒れながら、頷く。


早乙女が、肩で息をしながら笑う。


「演奏、終わらせただけだな」


九条が、瓦礫の向こうで親指を立てた。


「十分だろ」


第三楽章は、終わった。


そして――

魔王城の奥が、静かに口を開く。

書きだめてた分が無くなってしまいました…

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