第五十話「終焉は死のみ」
やっと五十話です
ここまで読んでくださった方が居ましたら、嬉しい限りです
――音は、止まらなかった。
「……え?」
カノンが思わず声を漏らす。
黒いピアノは、
演奏者が席から降りた今も、演奏を続けている。
鍵盤は、誰にも触れられていない。
それでも、確かに音が鳴っていた。
低く、重く、
心の奥を撫でるような旋律。
「……自動演奏?」
「いや、違う」
即座に否定する。
「これは“装置”じゃない」
演算が、次々と弾き出される。
「楽譜が、空間に刻まれてる」
「ピアノはただの媒体だ」
「つまり……?」
「第三楽章そのものが、止まらない」
答え合わせのように、
オーケストラがピアノに呼応する。
指揮者はいない。
それでも、音は乱れない。
むしろ――
人が抜けたことで、完全になっている。
レクイエムは、大鎌を肩に担ぎながら微笑んだ。
「気づいたか」
「第三楽章は、私が弾くものじゃない」
彼の足元で、
音符のような光が脈打つ。
「これは“レクイエム”」
「一度始まれば、終わるまで止まらない」
次の小節。
音が、変わる。
短い休符の後、
重音が増えた。
途端に、身体が重くなる。
「……っ、また来た!」
今度は違う。
恐怖や躊躇ではない。
「これ……“焦り”だ」
「詠唱の速度が、強制的に揃えられてる……」
ピアノの旋律が、
全員の“行動テンポ”を縛っている。
零の思考が、わずかに遅れる。
「……くっ」
「動ける瞬間が、拍の“隙間”にしかない」
つまり。
第三楽章では、
自由行動は不可能であり、
回避も攻撃も、音楽に合わせるしかない
そして――
レクイエムは、その外にいる。
「私は、この楽章の“演者”であり――」
鎌を構える。
「唯一の即興だ」
次の一音。
ピアノが、低く鳴る。
その瞬間、
レクイエムの姿が音に紛れて消えた。
「っ、来るぞ!!」
天音が警戒を促す。
見えない。
予測できない。
音楽だけが、正確に進む。
第三楽章の本質。
それは――
止まらない音楽の中で、
“自由に動ける敵”と戦うこと。
そして、ピアノが鳴り続ける限り、
この楽章は終わらない。
零は、歯を食いしばった。
「……だから」
「ここで“何かを壊す”必要がある」
視線が、
鳴り続ける黒いピアノへ向く。
だが、それが“解”かどうかは――
まだ、分からない。
――第三楽章・真価、発動中。




