第四十八話「廻る無限」
―循環
記憶を取り戻した五人は、再び死龍と対峙していた。
「……なるほどね」
「何かわかったか!?」
「演算が終わった。
これらは――」
一瞬、攻撃の手を止めて、言う。
「“循環”だ」
「忘却があるから、罪は消える」
「罪が消えるから、報いは生まれない」
「だが、報いがあるから――忘却は許されない」
レクイエムが言葉を引き継いだ。
「……互いが、互いを成立させているのですか……?」
「つまり?」
「どっちか一体だけを倒しても、意味がない!」
その言葉を証明するように、
九条の一撃がネメシスの胴を深く裂いた。
ネメシスが、地に伏す。
――だが。
レテの霧が、ネメシスを包んだ。
次の瞬間、
倒れたはずのネメシスが、何事もなかったかのように起き上がる。
「……っ!?」
「蘇生……いや、違う!」
「“忘れさせた”んだ!」
「ネメシスの死そのものを、レテが忘却させた!」
今度は、逆。
銀の矢が、レテの首を打ち抜く。
骨が砕け、レテが崩れ落ちる。
――瞬間。
ネメシスが、天を仰いで吼えた。
その体が、黒い炎に包まれる。
「暴走してます……!」
「“報い”だ!」
「レテの死に対する罰として、力を引き受けている!」
その時、レテが自分の死を忘れた。
レクイエムが、楽しげに指揮棒を振る。
「美しいでしょう」
「忘却が赦し、報いが縛る」
「二つで一つの、完全な循環」
「……じゃあよ」
拳を握る。
「その輪っか、壊せばいいんだろ」
零は、深く息を吸った。
(同時撃破は無理)
(倒す、じゃない)
(因果を、狂わせる)
「天音!」
「狙いを変える!」
「レテには――“忘れるべきじゃないもの”を!」
「ネメシスには――“向けるべきじゃない報い”を!」
一瞬の沈黙。
だが、全員が理解した。
「……共食いか」
「狂ってるな」
「でも、やるしかねぇな」
天音が、レテの前に立つ。
レテの霧が迫る。
だが、天音は退かない。
「忘れろよ!」
「ネメシスが“罪そのもの”だってことを!」
矢が、レテの額を貫く。
霧が乱れる。
同時に、零が演算を最大まで引き上げる。
「ネメシス!」
「その怒りを――」
「レテに向けろ!!」
確率操作。否、運命操作。
瞬間、零が動かなくなる。
そしてーー
ネメシスが、ぎこちなく首を振る。
次の瞬間。
――二体の視線が、初めて交差した。
レテが、ネメシスを“認識”する。
ネメシスが、レテを“断罪対象”として捉える。
循環が、狂った。
ネメシスの咆哮。
レテの悲鳴。
二体は、互いに噛みつき、引き裂き合う。
忘却は、罪を忘れられず。
報いは、向かう先を誤った。
――因果の崩壊。
やがて、二体は同時に崩れ落ち、
音もなく、闇に溶けた。
静寂。
オーケストラの音が、一拍、乱れる。
レクイエムは、目を細めた。
「……見事」
「循環を、破壊するとは」
彼は、ゆっくりと前に出る。
「第二楽章、終演」
指揮棒が、空を切る。
オーケストラが、全員、立ち上がった。
音が変わる。
今度は、逃げ場のない旋律。
「第三楽章」
「――ここからは、私自身が“死”を奏でましょう」
闇の中から、
大鎌 アビス・ドレパノン が、静かに姿を現した。
ここ一番好きです




