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学徒、異世界転移す。  作者: Harun
第一章「始まりの物語」
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第四十七話「第二楽章」

――双葬龍詩


オーケストラの旋律が、深く沈み込む。


低音が重なり、音はもはや旋律ではなく

循環する呪いそのものだった。


闇の渦から現れた二体の死龍――

忘却の龍 レテ

報いの龍 ネメシス


二体は、互いを背にするようにして佇んでいる。


零は、その配置を見た瞬間、違和感を覚えた。


(……守り合ってる? いや、違う)


レテが霧を吐く。

触れた空間から、意味と記憶が削がれていく。


ネメシスが吼える。

その衝撃は、行為に対する罰のように、確実に肉体を抉った。


―ー忘却の侵食


霧が、静かに広がっていく。


レテの吐息は音もなく、

触れたものから輪郭だけを奪っていった。


「……っ?」


隣にいるはずの誰かが、いない。


「……おい?」


答えは返らない。


早乙女は背後を振り返る。


「……なんだよ」


そこにいるはずの仲間の顔が、

名前と一緒に、抜け落ちている。


「守らなきゃいけない」

その感覚だけが残り、

誰を、どう守るのかが分からない。


九条は剣を構えながら、荒く息をついた。


「……俺は……」


「誰と戦ってたんだ?」


連携は、完全に崩れていた。


声をかけても噛み合わない。

動きが合わない。

攻撃のタイミングが、すべてズレる。


ネメシスの一撃が、地を砕く。


吹き飛ばされながら、

天音の頭に浮かぶのは、

“知らない誰か”の背中だった。


(……誰だ?)


(俺は、なんで――)


限界が近づいていた。


その中心で、

零だけが、必死に立っていた。


(……違う)


霧の中で、目を閉じる。


(消えてない)


(“忘れさせられてる”だけだ)


演算を展開する。


空間。

魔力。

心拍。

呼吸のリズム。


五つ。


確かに、五つの存在がそこにある。


「……いる」


声が、震える。


「全員……いる!」


霧に向かって、叫ぶ。


「忘れてるだけだ!」


「でも、ここにいる!」


「一緒に戦ってきた!」


「逃げなかった!」


「間違えなかった!」


「……紛れもない、仲間だ!」


その言葉が、

誰に向けたものなのかも分からないまま。


――それでも。


胸の奥が、微かに揺れた。


カノンは、膝をついていた。


頭が重い。

祈りの言葉が、思い出せない。


それでも、

零の声だけが、胸に残った。


(……仲間)


(……一緒に)


その瞬間。


遠い記憶が、浮かび上がる。


薄暗い教会。

埃をかぶった古い書棚。

まだまだ未熟だった年頃の自分。


――アナムネシス。


「想起」

「魂に刻まれた真実を、呼び戻す奇跡」


当時は、使えなかった。


祈っても、何も起きなかった。


でも――


カノンは、ゆっくりと立ち上がった。


「……今なら」


震える手で、胸元の聖印を握る。


「今なら、できる」


霧の向こうにいる“誰か”たちを思い浮かべる。


名前は、まだ出てこない。


顔も、曖昧だ。


それでも。


一緒に笑った。

一緒に怒った。

一緒に、生き残ってきた。


その事実だけを信じる。


「――神聖魔法」


静かに、確かな声で。


「《アナムネシス》」


光が、生まれた。


それは強い光じゃない。

ただ、温かい。


霧を裂くのではなく、

霧の中に染み込むように広がっていく。


最初に、早乙女の目が見開かれた。


「……あ」


「……あぁ、そうだ」


次に、九条が歯を食いしばる。


「……思い出した」


天音が、拳を強く握る。


「……はは」


「忘れるなんて、もう二度とごめんだ。」


五人の視線が、自然と交わる。


名前が、戻る。

声が、重なる。

呼吸が、揃う。


霧が、わずかに後退した。


レテが、初めて動揺を見せる。


忘却が、通じない。


その中心で、

零は静かに息を吐いた。


「……ありがとう」


カノンは、力尽きて膝をつく。


それでも、微笑んだ。


「……仲間、ですから」


第二楽章は次で終わりです。

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