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学徒、異世界転移す。  作者: Harun
第一章「始まりの物語」
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第四十六話「第一楽章」

――鎮魂序曲


オーケストラの低音が、空間を満たしていた。


床の亀裂から湧き上がる黒い靄。

そこから現れる、無数の魂の影。


鎧を纏った兵。

怯えたまま固まった民。

名もなき死者たち。


音楽に導かれるように、彼らは一斉に前進してくる。


天音が目を見開く。


「……数が多すぎる!」


「チッ、でもやるしかねぇだろ!」


「まとめて吹き飛ばす!」


九条が踏み込み、全力の一撃を叩き込む。

前列の魂が弾け飛び、霧となって散った。


――だが。


次の瞬間、同じ場所から、同じ数だけの魂が立ち上がる。


「……減ってません!」


「いや、正確には――」


零の言葉より先に、魂の軍勢が再び距離を詰める。


それに対し、天音と早乙女は。


「なら、もっと前に出る!」


「一気に畳み掛けるぞ!」


彼らは、単純な物量戦だと判断していた。

だからこそ、短期決戦を選ぼうとした。


だが――


零の中で、レクイエムの言葉が引っかかっていた。


「第一楽章」


(……なぜ、“第一”なんだ)


(なぜ、わざわざ楽章と呼んだんだろう…)


オーケストラの演奏は、一定だった。

テンポも、旋律も、変わらない。


(攻撃しても、数が減らない)

(再生しているわけでもない)

(……違う)


零の思考が、限界まで加速する。


(これは“倒す敵”じゃない)


(これは――)


天音が踏み込もうとした、その瞬間。


「待って!!」


叫びと同時に、零が天音の前に割って入る。


「零!?」


早乙女と九条が焦りの声を上げる。


「何してんだ!」


「押し切れるぞ!」


「駄目だよ!!」


魂の腕が、すぐ目の前まで迫る。


「これは戦闘じゃない!」


「演奏だよ!!」


一瞬の沈黙。


零は、歯を食いしばって続ける。


「第一楽章って言ったでしょ!」


「楽章ってのは、“終わる”んだ!」


「……!」


カノンが、はっと息を呑む。


「この魂たちは、楽譜の一部!」


「倒そうとするほど、こっちが削られる!」


「狙いは――耐久だ!」


魂の攻撃が、すぐそこまで来ていた。


「……じゃあ」


天音は、拳を握りしめる。


「どうすりゃいい」


「耐える」


「演奏が終わるまで!」


その言葉に、全員が覚悟を決める。


攻めない。

前に出ない。

守りに徹する。


天音は最小限の迎撃に切り替え、

九条は防御の要に回り、

早乙女は隙間を埋めるように立ち回る。


カノンは、ひたすら回復と浄化に専念した。


時間が、異様に長く感じられた。


魂の軍勢は、減らない。

だが、これ以上増えもしない。


そして――


オーケストラの音が、ふっと途切れた。


次の瞬間。


魂の軍勢が、一斉に崩れ落ちる。


音もなく、影は霧となり、床に溶けるように消えていった。


静寂。


誰もが、息を整えることしかできなかった。


その中央で、レクイエムがゆっくりと拍手をする。


「素晴らしい」


「本当に、素晴らしい」


彼は、心底感心したように微笑んだ。


「第一楽章の本質に、気づいた」


視線が、零に向く。


「耐え切るという選択」


「それができる者は、そう多くありません」


零は、息を吐いた。


「……褒められても嬉しくないよ…」


レクイエムは指揮棒を構え直す。


「では――」


「第二楽章へ」


空間が、再び震えた。


低音よりもさらに重い、

異質な気配が、舞台の奥から迫ってくる。


――死龍の楽章が、幕を開けようとしていた。

セシリアが呼び出すはずだったのは魂の軍勢のことです。

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