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学徒、異世界転移す。  作者: Harun
第一章「始まりの物語」
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第四十四話「戻らないもの」

ーー 丘の上で


夜明け前。


街から少し離れた丘。


早乙女は、ひとりで穴を掘った。


誰にも頼らず、黙々と。


彼女を穴に横たわせ、土で閉じた。


そして、誰にもセシリアわからないように魔法で削ったただの石を立てた。


静かに魔法を展開する。


淡い光。


カスミソウが淡く、優しく、マーガレットはただ静かに揺れている。


小さな花畑。


早乙女は、少しだけ笑った。


「……似合うな」


風が吹く。


花が揺れる。


早乙女は、背を向けた。


振り返らずに言う。


「……ありがとう」


祈りを込めて


ーーそれからの日々


それから数日間。


前線都市・グラナディアは、何事もなかったかのように動き続けていた。


衛兵たちは状況確認に追われ、

天音たちは事情聴取を何度も受け、

それでも街の時間は、淡々と流れていく。


あまりに普通で――

それが逆に、胸にくる。


天音は訓練場で天之を練習し、

零は一人で何かを考え込む時間が増え、

九条は鍛錬に明け暮れ、

カノンは本を読んでいた。


そして――


早乙女は、以前よりもずっと静かだった。


冗談は言う。

笑いもする。

でも、どこか“踏み込まなくなった”。


誰よりも人懐っこかった男が、

誰よりも距離を測るようになっていた。



ーー夕食の席で


数日後の夜。


宿の食堂で、全員が揃って食事をしていた。


木の皿に盛られた素朴な料理。

スープの湯気が立ち上る。


天音がぽつりと呟く。


「……なあ」


「静かだな、今日」


「……」


誰もが、言葉を探している空気だった。


その時。


早乙女が、ふっと息を吐いた。


「……なあ」


全員が顔を上げる。


早乙女は、箸を置いて、少し照れたように笑った。


「俺さ」


一瞬、言葉に詰まる。


「初めて、本気で人を好きになった」


空気が、静かに張り詰める。


天音も、零も、何も言わない。


「今までのはさ、全部ノリだった」


軽く言うが、声は震えていた。


「可愛いとか、気になるとか、そういうのじゃなくて」


「……守りたいって思ったの、初めてだった」


ー。


スプーンが、皿に当たる小さな音だけが響く。



早乙女は、苦笑した。


「でもさ」


「普通に出会ってたらさ、どうせ振られてたんだよな」


「……」


「俺、そういう男だし」


一瞬、間を置いて。


「でも、今回は違った」


声が、少しだけ低くなる。


「最初から、叶わないって決まってた」


「……」


「観測役だったから。

命令があったから。

最初から、結末が決まってた」


ぎゅっと、拳を握る。


「……それってさ」


「ちょっと、残酷すぎねぇ?」


誰も、否定できなかった。



ーー覚悟


早乙女は顔を上げた。


その目には、もう迷いはなかった。


「だからさ」


「俺、決めた」


「……何を」


天音の問いに対し、澱みなく言った。


「背負う」


零が静かに目を見開く。


「これ仕組んだのが、アゴンだってんなら」


拳を、ぎゅっと握り締める。


「俺は、あいつを許さない」


その言葉は、怒りじゃない。


静かで、冷たい決意だった。


天音が、ゆっくり立ち上がる。


「……俺もだ」


九条も同意する。


「当たり前だろ」


カノンも。


「……私も、共に」


そして、零も。


「……もともと、逃げ道はないよ」


一瞬、視線が交わる。


そして――


誰も言わなかったが、全員が同じことを思っていた。


「もう、引き返さない」


前線都市の灯りは、いつもより静かに揺れていた。




重いです…

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