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学徒、異世界転移す。  作者: Harun
第一章「始まりの物語」
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第四十三話「思いをのせて」

ーー前線都市・グラナディア


魔王城に最も近い、人類の防壁――

前線都市グラナディア


高い城壁。

忙しなく行き交う兵士。

露店の声と、どこか張り詰めた空気。


それでも街は生きていた。


「思ったより普通だな」


「前線ほど、日常を大切にするんだよ」


「嫌なリアリティだな」


九条も、会話に入ってきた。


そのとき――


人の流れの向こうから、ひとりの女性が歩いてきた。


長い髪。

静かな所作。

派手さはないが、不思議と目を引く存在。


早乙女の足が、ぴたりと止まった。


「……」


天音と零が反応する。


「ん?」


「ねえ、また?」


だが今回は、軽口が出なかった。


女性が、すれ違いざまに小さく会釈をした。


その一瞬。


早乙女は、胸の奥がざわつくのを感じた。


(……なんだ、今の)


ただの通行人。

そう思うには、妙に心に残る。


彼女が歩き去ろうとした、その時。


「――あのさ」


思わず、声が出ていた。


女性は驚いたように振り返る。


「……私、ですか?」


「うん。なんか……」


言葉を探す。


「無理してない?」


「は?」


「初対面でそれ言う?」


女性は、目を見開いた。


一瞬の沈黙。


それから、困ったように微笑う。


「……そうですね」


「でしょ」


その笑顔は綺麗だった。

けれど、どこか“作られた”ものだった。



ーー 違和感と、静かな距離


それから数日。


早乙女は、彼女と何度か顔を合わせた。


名前は――セシリア。


街の記録係だという。


早乙女は、珍しく“口説かなかった”。


「なあ、今日いかねーの?」


「行かねぇ」


「気持ち悪いねー」


「うるせ」


その日の夕方。


城壁の上で、二人は並んでいた。


「……早乙女さんって、不思議ですね」


「よく言われる」


「いえ、そうじゃなくて……」


少し迷ってから、言う。


「踏み込んでこないのに、目を逸らさない」


「……」


「普通、どっちかなんですけど」


早乙女は苦笑した。


「じゃあ、俺は中途半端だ」


「……でも」


小さく、微笑む。


「それ、嫌いじゃないです」


その瞬間。


早乙女は、確信してしまった。


(ああ……これはーー)



ーー気づいてしまった真実


その夜。


早乙女は眠れなかった。


頭に浮かぶのは、彼女の言葉と――

時折見せる、諦めたような目。


(……あれ、覚悟してる目だ)


ふと、昼間すれ違った兵士の会話を思い出す。


「最近、魔力の流れがおかしい」

「観測役が潜り込んでるって話だ」


胸が、嫌な音を立てた。


(……)


翌日の夕方。


別れ際に、早乙女はあえてセシリアを呼び止めた。


「なあ」


「はい?」


「もしさ」


一拍置く。


「“やらなきゃ死ぬ”って命令されたら、どうする?」


セシリアの指が、僅かに震えた。


それで、十分だった。


「……やっぱりな」


「……」


「最初から、俺たちに近づく役目だったんだろ」


沈黙。


そして、セシリアは静かに目を閉じた。


「……すみません」


その一言で、すべてが繋がった。



ーー命令と破綻


空気が、歪む。


地面に浮かぶ魔法陣。


街のそれぞれにいた他の四人も、早乙女の元へ集まってきた。


「ッ!? 何だこれ!」


「転送陣だよ!」


セシリアは苦しそうに胸を押さえる。


「……命令、です……」


「やめろ!」


「……止めないで……」


「止めるに決まってんだろ!」


早乙女は、彼女の手を掴んだ。


その瞬間、魔力が暴走する。


カノンが声を上げる。


「……契約が、破られる……!」


「……っ……!」


苦しそうに、膝をつく。


「もういい……!」


彼女を引き寄せる。


「命令なんて、クソくらえだ!」


魔法陣が悲鳴を上げ、砕け散る。


——そして。


静寂。


セシリアは、早乙女の腕の中で力を失った。



ーー最後の言葉


「……ごめんなさい」


「……謝るな」


「……でも……」


かすかに笑う。


「あなたに会えて……よかった」


「……」


「……それだけで……救われました」


そのまま、静かに息が途切れた。


カノンは、目を伏せた。


「……命令違反による、魔力崩壊……」


「……そんな……」


早乙女は、何も言わなかった。


ただ、彼女を抱え上げた。


夕日が、彼女の美しい顔をただ、照らしていた。

セシリアの役目は、天音達が都市に着いたら近づき、最も油断しているタイミングで転送陣を発動させることです。転送陣が発動すると、無限の亡者が無差別に都市や人を襲い、パニックを起こしていたでしょう。

早乙女が最初に声をかけなかったら、ここでやられていたかもしれませんね。

セシリアが息絶えたのは、アゴンに強制の契約を結ばされていて、それが破られたからです。

以上、補足説明でした。

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