第四十二話「待つもの」
ーー封印の魔法
光が、ゆっくりと収束していく。
最初に感覚を取り戻したのは天音だった。
足元の感触。冷たい石床。湿った空気。
「……戻った、のか?」
視界がはっきりすると、そこは先ほどとは違う広間だった。
天井は高く、円形の部屋の中央には古代文字が刻まれた巨大な石板。
淡い青白い光が、床の文様に沿って脈打っている。
次の瞬間、空間が揺れた。
一人、また一人と、仲間たちが転移してきた。
「……全員、いるな」
その言葉に、誰も否定しなかった。
それぞれが、別々の試練を越えてきた。
言葉にしなくても、互いの表情でわかる。
――何かを、乗り越えてきたのだと。
部屋の中央へと視線が集まる。
そこには、巨大な石碑。
風化しながらもなお、はっきりと読める文字が刻まれていた。
《レテ・アンソロピノン》
古代語だ。
零が、低く呟く。
「……“人の忘却”。
あるいは――“人が人であることを失う場所”」
その瞬間、場の空気が一段重くなった。
誰かが、ごくりと喉を鳴らす。
この遺跡が、ただの試練場ではないことは、もう明白だった。
早乙女が拳を握りしめる。
「……ここまで来て、引き返す理由はないよな」
九条はゆっくりと立ち上がり、頷いた。
「むしろ、ここまで来たからこそだ。
アゴンに近づいてる」
カノンは目を閉じ、一度だけ深く息を吸う。
「……覚悟は、できています」
全員の視線が、自然と天音へ集まった。
天音は少しだけ間を置き、それから静かに言った。
「行こう。
ここまで来たんだ……終わらせに」
誰も異論はなかった。
石板の奥、ゆっくりと開いていく扉。
その向こうには、赤黒い空と、禍々しい影が揺れている。
――魔王城。
ここから先は、もう引き返せない。
一行は互いに視線を交わし、そして同時に一歩を踏み出した。
それぞれの想いを胸に。
それぞれの覚悟を背負って。




