第三十九話「あの時」
ーー九条、カノン
転移の光が消えた瞬間、二人は息を呑んだ。
視界に広がるのは、焼け焦げた大地。
空気は重く、どこか焦げた匂いがする。
――覚えている。
ここは、かつて戦った場所と同じ景色だった。
「……っ」
カノンの喉が小さく鳴る。
その正面、ゆっくりと“それ”が姿を現した。
巨大な兵装。
歪に組み合わされた装甲。
無言で、ただそこに立っている存在。
《フィナーレ》。
だが、声はない。
感情も、殺意も、何も感じられない。幻影のようだ。
――それなのに。
「……くそ」
九条の胸が、締めつけられるように痛んだ。
“あの時”の記憶が、勝手に蘇る。
守れなかったこと。
何もできなかったこと。
フィナーレの幻影が、ゆっくりと砲口を向ける。
次の瞬間――
轟音。
光弾が地面を抉り、衝撃波が二人を襲う。
「――っ!」
カノンが即座に結界を展開し、衝撃を受け止める。
だが、足が震える。
「……九条」
その声は、かすかだった。
九条は、歯を食いしばりながら前を見つめる。
(またか……)
あの時と同じ構図。
自分は何もできず、守られる側。
フィナーレは無言のまま、再び攻撃態勢に入る。
それだけで、胸の奥がざわつく。
――不安、焦り。
でも、それ以上に。
(……もう、同じ後悔はしない)
九条は、一歩踏み出した。
「カノン」
「……うん」
短い返事。
それだけで、伝わった。
カノンの祈りが光となって広がる。
優しく、だが確かな支え。
その光を背に、九条は前へ出る。
(あの時の俺は、暴走することしかなかった)
(でも今は――)
“守る”という意志が、はっきりと胸にあった。
そして、共に進む決意をした。
フィナーレの幻影が、無言のまま砲撃を放つ。
九条は、避けない。
踏み込み、拳を構え、真正面から叩き込む。
衝撃。
光と衝撃波が交差し――
次の瞬間、フィナーレの身体に亀裂が走った。
音もなく、静かに。
砕けるように、崩れ落ちる。
声はない。
断末魔もない。
ただ、役目を終えたかのように消えていった。
しばらくして、九条はようやく息を吐いた。
「……終わった、のか」
カノンが小さく頷く。
「うん。たぶん……でも」
彼女は、九条を見て、微笑んだ。
「ちゃんと、前に進めてた」
その言葉に、九条の肩から力が抜けた。
足元に、淡い光の紋様が浮かび上がる。
次へ進め、と告げるように。
九条は拳を握りしめ、静かに言った。
「……行こう。」
カノンは、はっきりと頷いた。




