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学徒、異世界転移す。  作者: Harun
第一章「始まりの物語」
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第三十七話「囚われない者」

ーー狂詩曲、開演


最初に動いたのは、ラプソディだった。


「さぁて」


その一歩は、あまりにも自然だった。


だが――


「っ!?」


天音が目を見開く。


ラプソディの姿が、消えた。


いや、正確には――“存在しているはずの位置にいない”。


次の瞬間、背後。


拳が振るわれた。


「ぐっ……!」


早乙女がとっさに割り込み、結界を作って受け止める。

だが衝撃は“殴られた”というより、“空間ごと叩きつけられた”感覚だった。


「な、なんだ今の……」


ラプソディはくるりと回り、楽しげに笑う。


「いやぁ、ごめんごめん。

 ちょっと無視しちゃった」


「……は?」


次の瞬間、彼は地面を蹴った。


だが――跳ばない。


“跳んだ結果が、先に来た”。


空中にいたはずのラプソディが、いつの間にか零の正面にいる。


「ッ――!」


零は反射的に演算を回す。


(軌道……速度……衝突予測……)


だが、答えが出ない。


否――出る前に状況が変わる。


「くっ……!」


短剣が閃く。


刃は曲がらない。

軌道も変えない。

なのに――当たらない。


「物理法則ってさ」


ラプソディは笑いながら、地面を“踏まずに”宙を歩く。


「守るから縛られるんだよ」


「……ッ!」


零は歯を食いしばる。


演算が、通じない。


確率も、座標も、因果すら――

“前提条件”が破壊されている。


「それならっ……!」


確率操作で未来を捻じ曲げようとするが、

ラプソディは“確率の外”から殴ってくる。


「ははっ、いい顔だね!」


ラプソディの拳が九条を掠め、衝撃が遅れて爆発する。


「ぐっ……!」


カノンが駆け寄ろうとするが、次の瞬間、彼女の足元が崩れた。


いや、崩れていない。


“落ちる”という結果だけが先に来た。


「きゃっ……!」


「大丈夫だ、カノン!」


九条が庇うが、その背中に蹴りが叩き込まれる。


「かはっ……!」


「ほらほら、どうしたの?」


ラプソディは踊るように回転し、短剣を放る。


空中で弾かれた刃が、ありえない角度で曲がり――


「――危ない!」


天音が咄嗟に前へ出る。


衝撃。


吹き飛ばされ、地面を転がる。


「……っ」


立ち上がろうとして、天音は悟る。


(……強い)


いや、違う。


理屈が通らない。


零は膝をつき、荒く息をついていた。


「……演算が……追いつかない……」


「でしょ?」


ラプソディは楽しそうに手を広げる。


「ボクの能力は簡単だよ」


「――“物理法則を無視する”」


「まあ、ほんとは違う部分もあるけど、

 説明めんどくさいし、」


「」


一同の背筋に、冷たいものが走る。


「だからさ」


ラプソディはゆっくりと構えた。


「君たちがどれだけ頑張っても――」


「普通にやってたら、勝てない」


空気が張り詰める。


九条は拳を握り、歯を食いしばった。


零は思考を回し続けるが、答えは出ない。


カノンは祈るように杖を握る。


そして天音は――


ラプソディを、真っ直ぐ見据えた。


(……それでも)


(ここで止まるわけには、いかない)


戦いは、まだ始まったばかりだった。



空間が歪む。


ラプソディの拳が、また世界を無視して迫る。

天音は歯を食いしばり、零は演算を回し続けるが――限界は近かった。


「……っ、もう……!」


零の声がかすれる。


このままでは押し切られる。

それを悟った瞬間、二人は同時に“踏み込んだ”。


――◼️◼️◼️


天音の掌に、小さな恒星のような光が灯る。

零の足元から、世界の動きを凍らせる演算領域が展開される。


その瞬間だった。


ラプソディの動きが、ぴたりと止まる。


「……」


空気が張り詰める。


ラプソディは、ゆっくりと二人を見た。

その目から、先ほどまでの狂気が消えている。


「……なるほど」


低く、噛みしめるような声。


天音が身構える。


「何がだよ」


だが、ラプソディは答えない。

その代わり、ほんの一瞬――何かを探るような視線を向けた。


(……この感覚……)


(まさか……いや、確証はない)


ラプソディの脳裏に、◼️◼️◼️◼️“◼️◼️”◼️◼️◼️◼️◼️◼️。


だが、すぐに首を振る。


「……いや、違うか。

 証拠がない以上、決めつけるのは趣味じゃない」


そう呟き、ラプソディはゆっくりと武器を下ろした。


「君たち、もういい」


その言葉に、一同が息を呑む。


「え……?」


「認めるよ。今日はここまでだ」


あまりにも唐突だった。


「な、なんだよそれ……!」


天音が叫ぶが、ラプソディはただ肩をすくめる。


「気まぐれだと思ってくれて構わない」


「ただ一つ言えるのは――」


一瞬だけ、意味深な笑みを浮かべる。


「君たちは、“触れちゃいけない線”に足を踏み入れ始めてる」


次の瞬間、空間が歪む。


「じゃあね。答えは……その時が来たら」


そう言い残し、ラプソディの姿は霧のように消えた。


――沈黙。


誰も、すぐには動けなかった。


「……終わった、のか?」


早乙女が呟く。


「……たぶん、ね」


零はそう答えながらも、眉をひそめていた。


(……確実に何か知ってる)


天音は拳を見つめる。


まだ、熱が残っていた。


「……よく分かんねえけどさ」


「助かったのは、間違いないよな」


その言葉に、皆が小さく頷く。


だが、誰も気づいていた。


――“危機が去った”のではない。

――“先延ばしにされた”だけなのだと。


そして遠く離れたどこかで。


ラプソディは一人過去を思い出し、空を仰ぎながら呟いていた。


「……。まさか、な。」


その声は、誰にも届かないまま、風に攫われていった。

第二位は倒せませんでしたー

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