第三十六話「偶然と運命は紙一重」
ーー狂詩曲ラプソディ
遺跡へと続く山道は、どこか異様に静かだった。
風は吹いている。
鳥の声も聞こえる。
だが、どこか“世界そのものが息を潜めている”ような感覚があった。
「……嫌な予感がするな」
早乙女が肩をすくめる。
「同感だよ」
零は足を止め、周囲を一瞥した。
その時だった。
「おやおや。ずいぶんと賑やかな旅だねぇ」
軽い調子の声が、前方から響いた。
全員が反射的に構える。
岩の上に、ひとりの男が腰掛けていた。
気だるげな姿勢、楽しそうに足をぶらぶらさせている。
戦う気があるのかすら分からない――だが、
その存在感だけで“格が違う”と分かる。
「……セクステット」
九条が低く呟く。
男は楽しそうに笑った。
「ご明察。いやぁ、さすがだね。
ボクは【狂詩曲】ラプソディ、ノグティス・カナトス。よろしく、勇者御一行?」
ふざけた口調。
だが、目だけは一切笑っていない。
九条が一歩踏み出す。
「ここで倒す」
殺気が一気に膨れ上がった、その瞬間――
「待て!」
天音の声が飛んだ。
九条がぴたりと止まる。
「……天音?」
「今は、やめとけ」
天音は一歩前に出て、ラプソディを見据える。
「……あんた、今ここで戦う気、ないだろ」
ラプソディは一瞬だけ目を見開き、次の瞬間、楽しそうに拍手した。
「ははっ、正解!
いやぁ鋭いね。そうそう、ボクは“好きに生きてる派”でさ」
「魔王の命令とか、正直どうでもいいんだよね、
ボク別に忠誠誓ってないし。」
その言葉に、空気がざわつく。
「……じゃあ、何しに来たの?」
零が一歩前に出る。
ラプソディは肩をすくめた。
「別に?
ただ、テキトーに旅してただけ」
「……戦う気は?」
「うーん……半分くらい?」
軽い言い方とは裏腹に、空間がじわりと歪む。
その瞬間、零の頭の中で演算が走った。
――勝率、ゼロ。
何度計算しても、どんな分岐を辿っても。
“勝つ未来が、存在しない”。
(……なるほどね)
零は一歩前に出た。
「戦わない選択肢を、提示してほしい」
「ほう?」
「今ここで争えば、こちらに勝ち目はない。
……だが、あなたにも、こちらと戦う理由はないはずだよ」
ラプソディは顎に手を当て、少し考える素振りをした後、にやりと笑った。
「いいねぇ、その冷静さ」
「じゃあ、こうしよう」
彼は軽く指を鳴らす。
「ボクを“認めさせて”くれたら、今日は見逃す」
「……認めさせる?」
「そ。力でも、覚悟でも、何でもいい」
その瞬間、空気が一変する。
遊びの顔が消え、
狂気と期待が混じった瞳が、こちらを射抜いた。
「君たちが“退屈じゃない”って証明できたらさ」
ラプソディは地面に降り立ち、ゆっくりと構える。
「本気で遊んであげる」
――その瞬間。
空間が、震えた。
「……来るぞ」
天音が息を呑む。
ラプソディは愉快そうに笑った。
「さあ、始めようか」
「【狂詩曲】ラプソディの、即興演奏を――」
こうして、
偶然の遭遇は、逃れられない戦いへと変わった。
急に来ましたねー




