第二十九話「九条」
―― 深層意識
……静かだった。
戦場の音も、痛みも、すべてが遠のき、
九条はただ“立って”いた。
目の前に広がるのは、何もない白い空間。
足元には影だけが伸びている。
「……ここは……」
声を出しても、返事はない。
だが――
「分かってるだろ」
背後から、低い声が響いた。
振り返ると、そこにいたのは――
自分自身だった。
ただし、違う。
筋肉は異様に膨れ、目は血走り、
口元には獣のような笑み。
“メガ進化”したときの自分。
影の九条が笑う。
「どうせ、力が足りなかったんだろ?」
「だから俺を呼んだ」
「……違う」
九条は、拳を握った。
「今回は、違う」
影は鼻で笑う。
「何が違う?」
「お前はいつもそうだ。
守れなかった、勝てなかった、だから力を寄越せって」
「で、俺が出る」
「そして全部壊す」
影の背後に、これまで壊してきた景色が映る。
砕けた地面。
吹き飛ぶ敵。
「……」
九条は、言葉を失った。
「なぁ」
影が近づく。
「結局お前は、力を制御したいんじゃない」
「“責任を俺に押し付けたい”だけだろ?」
胸を突かれる。
否定できない。
確かに――
今までの自分は、そうだった。
「でも」
九条は、ゆっくりと顔を上げた。
「今回は、違う」
「……何が」
「守りたい奴らがいる」
影が、ぴたりと動きを止めた。
「力が欲しいんじゃない」
「お前を、俺の中に閉じ込めるんじゃなくて――」
「一緒に、前に出たい」
影の九条が、目を見開く。
「……は?」
九条は、一歩踏み出した。
「暴れるな」
「でも、消えるな」
「お前の力は必要だ」
「ただし――」
拳を握りしめる。
「俺が、舵を取る」
しばらくの沈黙。
やがて、影は小さく笑った。
「……やっと言ったか」
「それだよ、それ」
影は、ゆっくりと手を伸ばす。
「力ってのはな」
「押さえつけるもんじゃない」
「使いこなすもんだ」
二人の手が、重なる。
次の瞬間――
眩い光が、空間を満たした。
⸻
ーー 現実へ
「……っ!」
九条が、目を開く。
身体は痛む。
だが、意識ははっきりしていた。
「……あぁ……」
ゆっくりと、立ち上がる。
力が――
今までと違う。
暴れない。
今なら使っても大丈夫、そう言い切れる。
「……なるほどな」
小さく、笑った。
「これが……本当の“俺”か」
その視線の先には――
必死に立つ天音と、カノン。
そして、圧倒的な存在感で迫るパウゼ。
九条は、拳を握り締める。
「待たせたな」
「今度は――」
「ちゃんと、並んで戦う」
影の九条は、最初に出てきた暴走九条と一緒ですが、意識内なので流暢に話せます。




