第三話「宮廷魔導士」
――王都で出会った、やたら振られる男
王都に滞在して三日目。
天音と零は、城下町を歩いていた。
人通りの多い石畳の通り。
屋台の匂い、行き交う人々の声。
平和――そのもの。
「……なあ」
天音が足を止めた。
「なんか、あれ見てどう思う?」
視線の先。
そこには黒髪の青年がいた。
服装は落ち着いていて、派手さはない。
むしろ真面目そうな印象。
だが――
「……えっと、急にごめん」
「その髪、すごく綺麗だなって思って」
声をかけている相手は、通りすがりの女性。
距離は近すぎず、声も穏やか。
言葉選びも丁寧。
一見すると、誠実な好青年。
だが。
女性は一瞬困ったように笑い、
「……すみません、急いでるので」
そう言って去っていった。
黒髪の青年は、少しだけ肩をすくめる。
「そっか。気をつけてね」
あっさり。
引き止めない。
しつこくしない。
――そして、すぐ次。
別の女性を見つけて、また自然に声をかける。
「こんにちは。もしかして道、迷ってません?」
「「……」」
「……あれ、ナンパだよな?」
「間違いなく」
だが、またもや失敗。
「ごめんなさい」
「そうだよね、急にだもんね」
また軽く笑って、引き下がる。
三回目。
四回目。
五回目。
全部失敗。
それでも――
落ち込まない。
苛立たない。
ただ、少しだけ残念そうに笑うだけ。
「……あいつ、メンタルどうなってんだ」
「普通、心折れるよ……」
その時。
黒髪の青年が、二人に気づいた。
「あ」
目が合う。
そして、にこっと笑う。
「この前、城で会ったよね?」
「……やっぱりあんたか」
「覚えてくれてて嬉しいよ」
軽い調子。
だけど、どこか人懐っこい。
「さっきから何してんだよ」
早乙女は少し考えてから、あっさり言った。
「ナンパ」
「いや、見てたけど……」
「全部振られてたよな?」
早乙女は肩をすくめる。
「うん。まあ、よくある」
「でもさ」
一瞬、視線が遠くなる。
「誰か一人くらい、俺の言葉を信じてくれる人がいたら、それでいいんだよ」
「……」
「……え?」
早乙女は照れたように笑う。
「ほら、俺さ」
「いつか“ちゃんと届く人”に会う気がしてて」
「だから、今は外れ続けでもいいんだ」
軽い口調。
でも、妙にまっすぐな目。
その瞬間、天音は思った。
この人、遊んでるようで
多分、誰より本気だ。
零も気づいたらしい。
「……お前、変なやつだな」
「よく言われる」
そう言って笑う姿は、どこか寂しげだった。
この時はまだ誰も知らない。
やがて一人の少女――◼️◼️◼️◼️へと繋がることを。
ふと、表情が変わる。
通りの奥。
人だかり。
ざわつき。
「……まずいな」
早乙女の声が低くなる。
次の瞬間。
空気が歪んだ。
魔力反応。
「は?」
「敵!?」
早乙女は一歩前に出る。
「下がって」
その瞬間。
詠唱もなく、空間が震えた。
――圧倒的な魔力。
光が走り、暴れていた魔物は一瞬で沈黙する。
静寂。
「……は?」
「今の……」
早乙女は軽く息を吐いた。
「はぁ……」
「やっぱ宮廷の仕事、向いてないな」
「いやいやいや!!」
「強すぎるでしょ!!」
早乙女は肩をすくめる。
「強いよ。そこそこね」
「でもさ」
視線を落とす。
「強くても、間に合わないことってあるんだよ」
「……」
「……それは」
一瞬、間が空く。
顔を上げて、二人を見る。
「俺、君たちについていく」
「戦えるし、逃げないし」
「……次は、ちゃんと“選ぶ側”でいたい」
「選ぶ?」
「守るか、見捨てるか」
「その場で決められる側」
沈黙。
風が吹く。
そして天音が、ため息をついた。
「……勝手にしろ」
「でも条件あるよ」
「なに?」
「ナンパはほどほどに」
「努力はする」
「する、じゃねぇんだよ」
早乙女は笑った。
本気で、楽しそうに。
「じゃ、よろしく」
「宮廷魔導師・早乙女」
その瞬間、天音と零は思った。
――この人、強いのに
――どこか“弱さ”を抱えてる。
そしてその弱さが、
いつか“誰か”を救うことになるのだと。




