第二十一話「どうしようもなかった」
――不協和の果てに
次の日、カリスを出た。
昼間は何事もなく進んだ。
⸻
夜の街道は、異様なほど静かだった。
虫の声も、風の音もない。
まるで世界そのものが息を止めているかのような、張り詰めた沈黙。
「……おかしい」
零が小さく呟いた、その瞬間だった。
空気が“歪んだ”。
視界が揺れ、音がねじれ、そこに二つの存在が立っていた。
――【不協和音】ディソナンス
――【休止符】パウゼ
姿ははっきりしない。
だが“いる”という事実だけが、五人の神経を直接撫でてくる。
本能が叫んでいた。
こいつらは、今までとは格が違う。
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ーー 開戦
最初に動いたのは九条だった。
「来るなら来い……!」
踏み込み、拳を振るう。
だが。
「――外れだ」
声と同時に、拳が空を切った。
「……は?」
次の瞬間、背中に衝撃。
遅れて“当たった”。
「ぐっ……!!」
地面を転がる九条を見て、早乙女が歯を食いしばる。
「……今の、どうなってるんだ…?」
ディソナンスの声が、どこからともなく響く。
「攻撃は成立している。
ただし、“君の身体が追いつかなかった”だけだ」
九条が立ち上がろうとする。
だが、足に力が入らない。
思考と肉体が、微妙にズレている。
⸻
ーー 崩壊する連携
零が叫ぶ。
「みんな、距離を――!」
言い終わる前に、世界が止まった。
自分以外の音が消える。
風が止まる。
時間が、溜められたように静止する。
【休止符】パウゼ。
天音が一歩踏み出そうとした瞬間、足が地面に縫い止められる。
「……っ、動かねぇ……!」
身体が命令を拒否する。
思考だけが、空回りする。
カノンが必死に回復魔法を唱えるが、言葉が歪んだ。
「……っ、なんで……詠唱が……!」
言葉と魔力のタイミングが合わない。
魔法は発動すらしなかった。
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ーー 一方的な蹂躙
ディソナンスの声が淡々と続く。
「君たちは強い。
だが、“噛み合っていない”。
それだけで、戦いは成立しない」
早乙女が前に出る。
「ふざけんな……!」
魔法で腰の剣を投げる。
しかし刃が届く寸前、空間が“ずれる”。
攻撃は当たった――はずなのに、敵はいない。
次の瞬間、腹に衝撃。
「が……っ!!」
吹き飛ばされ、地面を転がる。
九条が叫ぶ。
「くそ……! だったら力で――!」
だが踏み込んだ瞬間、身体が遅れ、膝をつく。
「……っ、言うこと、聞け……!」
⸻
ーー 絶望
天音は歯を食いしばった。
(このままじゃ……)
拳を握る。
だが、動こうとした瞬間、世界が歪む。
「……っ!!」
視界がぶれ、足元が崩れる。
ディソナンスの声が、静かに響く。
「君たちは、まだ“揃っていない”」
「不協和のままでは、ここまでだ」
零が最後に演算を走らせる。
(まだ……まだ何か……)
だが。
思考そのものが、強制的にずらされた。
視界が白く染まる。
⸻
ーー 終焉
倒れる音が、重なっていく。
一人、また一人。
最後に天音の意識が沈む直前、聞こえたのは――
「このままでは退屈凌ぎにもならない」
「次に会う時は、もう少し“音”を揃えてこい」
そして、闇。
⸻
ーー その後
どれほど時間が経ったのか。
意識の底で、かすかに温かさを感じる。
誰かが、五人を抱え上げていた。
足音がある。
だが、軽い。
「……まだ、ここで終わらせるわけにはいかない」
低く、静かな声。
顔は見えない。
声も、どこか歪んでいる。
だが、はっきりと分かる。
――この存在は、魔王軍ではない。
五人はそのまま、深い眠りへと落ちていった。
その先に待つのが――希望か
それとも“絶望”なのか。
それは、まだ誰にも分からない。
つ、強かったですねー




