第二十話「それぞれの思い」
まだ日常回ですー
――街道・夜明け前
月明かりすら届かない、歪んだ空間。
風の音だけが、奇妙に反響している。
その中を、二つの“存在”が並んで進んでいた。
「……面倒だな」
低く、耳障りな声。
【不協和音】ディソナンスだった。
「何が?」
淡々とした声で返す【休止符】パウゼ。
「人間如きに、わざわざ我々が出向くことだ」
「それだけ、価値があるということ」
「価値、ねぇ……」
ディソナンスは鼻で笑う。
「ノクターンがやられたくらいで、過剰反応だと思わないか?」
「彼は慢心してた」
パウゼは即答する。
「夢の世界に閉じ込めれば勝てる、などと。
……でも、現実と夢の境目を理解している者には通じない」
「ほう?」
「彼らは、すでに“越えかけている”」
ディソナンスは足を止めた。
「越えかけている……何をだ?」
「人の枠」
短く、だが断定的な言葉だった。
「……なるほど」
ディソナンスは、愉快そうに喉を鳴らす。
「だから“気配”が歪んでいるのか」
「そう。
特に――二人」
「例の少年二人、か」
「そう」
パウゼは前を見据えたまま続ける。
「一人は、思考が異常に研ぎ澄まされている。
もう一人は……触れてはいけないものを抱えている」
「触れたら?」
「壊れる。こっちが」
ディソナンスが、ぴたりと立ち止まる。
「……それは、興味深い」
「だから、同時に仕掛ける」
「連携を試す、と?」
「そう。彼らが“仲間”である限り、そこが最大の弱点」
一瞬、沈黙。
風が止み、空気が張り詰める。
「……だが」
ディソナンスが、低く言う。
「もし、あれが“選ばれた”存在だとしたら?」
「“選ばれた”? 何に」
「さあな」
ディソナンスは笑った。
「魔王様のお言葉を借りただけだ」
「……」
「何かが、裏で動いている」
パウゼは、その言葉に一瞬だけ反応した。
「……でも、それを知る必要はない」
「我々の役目は、ただ一つ」
「壊すこと」
ディソナンスはゆっくりと歩き出す。
「だな。和音など、最初から存在しない」
「世界は、常に不協和音だ」
二つの気配が、闇の中へ溶けていく。
その進行方向――
そこにいるのは、
まだ何も知らない、五人の旅人。
ーーカリスの宿屋・夜
夕食を終え、宿の受付で部屋割りが決まる。
「じゃあ、部屋は――」
宿の女将が帳面を見ながら言う。
「男性三名で一部屋、もう一部屋にお一人。それと、女性用の部屋が一つね」
「はい」
カノンがぺこりと頭を下げる。
「……別々か」
天音が少し残念そうに言うと、零が即座に突っ込む。
「何期待してるの?」
「いや、違うって!」
「目が泳いでたよ〜」
「泳いでねぇ!」
カノンは少し困ったように笑って、
「大丈夫ですよ、一人、慣れてますし」
そう言って、自分の部屋へ向かっていった。
⸻
ーー男子部屋
天音、零、九条、そしてなぜか早乙女。
「……なんでお前いるんだよ」
「成り行きだよ成り行き!」
布団を広げながら、早乙女が不満そうに言う。
「つーかさ、せめて誰かと同室にしてほしかったんだけど」
「お前、十分だろ」
「心が折れるんだって!」
九条は端で黙って座り、腕を組んでいる。
「……賑やかだな」
「そりゃ街だしな」
零は窓の外を見ながら言う。
「だが、悪くない」
「わかる」
天音も同意する。
「嵐の前、って感じしねぇな」
しばらく沈黙。
やがて、早乙女がぽつりと。
「……なあ」
「ん?」
「俺さ、今回ばっかりは本気で生き残りたいんだよ」
誰も笑わなかった。
九条が静かに言う。
「……なら、明日も生きろ」
「簡単に言うなよ」
「簡単じゃないから言うんだ」
その空気を、天音が少しだけ崩す。
「ま、なんとかなるだろ」
「いつもそれだな」
「実際、なんとかなってるし」
零が小さく笑った。
「……それが一番怖いんだよ」
⸻
ーーその頃
別の部屋で、カノンは一人、ベッドに腰掛けていた。
窓の外を見ながら、胸元の小さな護符に触れる。
「……明日も、無事でありますように」
小さく祈り、灯りを消す。
⸻
街は賑やかだった。
この時間が――
五人にとって**最後の“何も起こらない夜”**だということを知らないふりをするように。
次回やっと入ります




