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学徒、異世界転移す。  作者: Harun
第一章「始まりの物語」
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第十八話「進む二人」

ーー 再び、神の前へ


気がつくと、天音と零は教室に立っていた。


それは、見慣れた風景だった。


「なんで…」


零が呟くと、前方の空間が歪み、

ゆっくりと“それ”が姿を現した。


――エンドゥー=ロリヘリメース。


二人のよく知る、クラスメイト・円堂に酷似した顔。

だが、その瞳には、人のものではない深さがあった。


「久しぶりだね。……と言っても、君たちの時間で言えば、ほんの一瞬か」


「ちょっと思い出に浸ってもらおうかと思って」


この空間を指しながらそう言った。


エンドゥーは静かに笑う。


「ノクターンを越えた。

 そして次は、セクステットの中核とぶつかる」


「―今のままじゃ、足りない」


その言葉に、天音が眉をひそめる。


「……また力をくれるってことか」


「正確には、“選ばせる”」


エンドゥーは指を鳴らした。


その瞬間、二人の前に、まったく性質の異なる光が現れる。


一つは――

燃えるように揺らめく、白銀の小さな星。


もう一つは――

音も熱もない、静止した氷の円環。



ーー天音の選択


エンドゥーは、白銀の光へ視線を向ける。


「天音。君にはこれを与える」


光は、ゆっくりと彼の手のひらほどの大きさに収束する。


「名は――

 《エントロピア・フレゴン》」


天音が息を呑む。


「それは、無限の温度を持つ“恒星”だ」


「だが安心しなさい。

 重力も質量も、現実を壊す影響は持たない」


「ただ――」


エンドゥーの声が、少しだけ低くなる。


「触れたものを、等しく終わらせる熱を持つ」


天音の掌に、白銀の星が浮かぶ。


熱いはずなのに、焼けない。

けれど本能が告げていた。


――これは、触れてはいけない。


「代償は軽いよ」


エンドゥーは淡々と告げる。


「使えば使うほど、君は“熱”に慣れる」


「恐怖も、痛みも、躊躇も……少しずつ薄れる」


「だが安心しなさい。

 君はまだ、人間でいられる」


天音は、拳を握った。


「……それで、仲間を守れるなら」


エンドゥーは微笑む。


「その覚悟があるなら、十分だ」



ーー零の選択


次に、エンドゥーはもう一つの光へ視線を向ける。


「零。君にはこれを」


それは、淡い氷色の円環。


空間そのものが、静かに凍りつく感覚。


「《アリスモス・クリオス》」


「対象と半径一メートル。

 その範囲の“運動”と“熱”を停止させる力だ」


零は目を見開いた。


「……凍らせる、ってことか?」


「正確には、“演算による停止”だ」


「熱も、衝撃も、魔力も。

 君が理解できる限り、止められる」


エンドゥーは少しだけ目を細める。


「ただし――」


「君は“理解しすぎる”」


「考えすぎれば、動けなくなる」


零は苦笑した。


「……まあ、そうだろうな」


それでも、視線は逸らさない。


「でも、守るためなら……考えるくらい、いくらでもやる」


その言葉に、エンドゥーは満足そうに頷いた。



ーーそして現実へ


「これで準備は整った」


「だが忘れるな」


「君たちは、選ばれた英雄じゃない」


「ただ――」


「“進むことを選んだ人間”だ」


光が弾ける。


次の瞬間、二人は元の世界へと引き戻された。


荒れた街道。

風の音。

仲間たちの声。


天音は、無意識に手を開く。


そこには、見えないはずの“熱”を感じた。


零は、足元の地面を見つめる。


空気が、ほんの一瞬だけ、凍った気がした。


焚き火が、ぱちぱちと小さく音を立てていた。


夜の冷たい空気の中、赤い火の揺れだけが、辺りをぼんやり照らしている。

少し離れた場所では、九条と早乙女、そしてカノンがすでに眠りに落ちていた。


起きているのは、天音と零だけ。


しばらく、どちらも口を開かなかった。


やがて天音が、火を見つめたままぽつりと言う。


「……さ」


「フィナーレも、ノクターンもさ」


零は視線を動かさず、続きを待つ。


「顔、似てたよな。クラスのやつに」


炎がはぜる。


その音だけが、返事の代わりだった。


「……フィナーレはさ」


天音は膝に肘をつき、手を組む。


「正直、あんまり実感なかった。向こうが暴れて、追い詰められて……気づいたら終わってた」


「でも――」


言葉が、少しだけ詰まる。


「ノクターンは、違った」


零が、ゆっくりと顔を向けた。


「……自分で、やったって思ってる?」


天音は小さく笑った。

でも、その笑いはどこか苦い。


「夢の中だったけどさ。

 あいつ、最後に『芸術は美しい』とか言って消えただろ」


「……あれ、ずっと残っててさ」


少し沈黙。


「俺が殺した、って思っちまうんだよ」


焚き火が、強く揺れた。


零はしばらく黙ってから、静かに言った。


「……この世界は、僕たちの世界じゃない」


天音が顔を上げる。


「コピー。似てるだけ。

 顔も、声も、性格も……元の世界の“再現”みたいなもんだよ」


「だから、同じじゃない」


天音は唇を噛む。


「……でもさ」


「それでも、似てるとさ。どうしても、重ねちまうだろ」


零は少し考えてから、焚き火を見つめたまま答えた。


「それでも進まなきゃいけない」


「セクステットは、ここからが本番」


「次は、今までみたいに迷ってたら死ぬ、100%だよ」


その言葉は、冷静だったけれど、逃げのない覚悟があった。


「今度は僕が背中を押すよ」


天音は小さく息を吐く。


「……おう」


そして、ふっと笑った。


「躊躇しないようにしようぜ。俺たち」


「迷ったら、終わりだ」


零も、わずかに口角を上げた。


「その通りだよ」


少しの沈黙のあと、天音が思い出したように言う。


「そうだ。能力のこと」


「まだ、誰にも言わない方がいいよな」


零は即答した。


「そうだね。切り札は、最後まで隠す」


「見せた瞬間、対策される」


「それに――」


一瞬だけ、視線を伏せてから続ける。


「自分たちの切り札を、簡単に預けるのも怖い」


天音は頷いた。


「だな。使うのは……本当に、どうしようもない時だけだ」


焚き火が、小さく爆ぜた。


その音が、夜に溶けていく。


二人はしばらく黙ったまま、火を見つめていた。


それぞれが、これから来る戦いの重さを、胸の奥で噛みしめながら。


――そして、誰も知らないまま夜は更けていった。


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