第十六話「終章」
――夜想曲
砕けた絵画の破片が、ゆっくりと宙に溶けていく。
夢の世界と現実の境界が曖昧な空間で、ノクターンは拍手するように手を打った。
「――素晴らしい」
静かな声だった。
「ここまで辿り着くとは、正直に言って予想外だね」
その視線が、天音に向く。
「特に君だ。
夢を理解し、受け入れ、それでも立ち続けた」
ノクターンは微笑む。
「称賛に値するよ。でもね――」
次の瞬間、空間が歪んだ。
無数の絵画が一斉に動き出し、刃のように宙を舞う。
「君たちは勘違いしている」
「私は“夢”だよ」
「夢に、どうやって刃を届かせるの?」
襲い来る幻想の嵐。
九条が前に出て受け止めるが、力が安定しない。
「くっ……!」
カノンが結界を張るが、徐々に削られていく。
零は歯を食いしばり、演算を続けるが――
「……っ、ダメだ……!」
「理屈が通らない……!」
ノクターンは静かに腕を広げる。
「そう。私は“存在していない”」
「だからね、攻撃も効かない」
「君たちの敗北は、すでに決まっているんだよ」
じわじわと追い詰められていく。
その時――
天音が、前に出た。
「……いや」
「違うな」
ノクターンが一瞬、首を傾げる。
天音は、目を細めて言った。
「夢の中に入ったからこそ、分かった」
「ここは“現実じゃない”」
「でも――」
「だからこそ、今の俺なら分かる」
ゆっくりと、拳を握る。
「夢と現実の“境目”が」
ノクターンの目が、僅かに見開かれた。
「……へぇー?」
天音は、仲間たちを見た。
「頼む」
「一瞬でいい」
「デカい隙を作ってくれ」
九条がニヤリと笑う。
「一瞬でいいんだな?」
「なら、任せろ」
九条が踏み込み、あえて制御を外す。
「メガ進化――ッ!!」
暴力的な力が爆発し、空間が歪む。
同時に、カノンが祈りを捧げる。
「……守護よ、今だけ力を!」
早乙女もカノンの力を増幅させるように、魔法を唱えた。
「アダマス」
結界がノクターンの動きを一瞬縛る。
零は即座に演算を走らせる。
「……今だ、天音!」
時間が、止まったように感じられた。
天音は、静かに息を吸う。
そして――
「天之銀矢命」
放たれた銀の矢は、音もなく空間を裂いた。
夢と現実の境界線を、正確に射抜いて。
次の瞬間。
ノクターンは、自分の身体を見下ろした。
「……ああ」
「そっか」
上半身の半分が、消えていた。
ゆっくりと、崩れ落ちながら、ノクターンは微笑う。
「やっぱり……」
「芸術は、美しいね」
その言葉を最後に、
ノクターンの身体は、光の粒となって消えた。
――完全消滅
静寂が訪れる。
長い沈黙のあと、九条が息を吐いた。
「……終わった、か」
カノンが膝をつき、安堵の息をつく。
早乙女は大の字に倒れた。
零は、天音を見る。
「……やったね」
天音は少し照れたように笑った。
「まあな」
「みんなが隙作ってくれたから」
その時――
空間が、ゆっくりと元の街へ戻り始めた。
そこには、普通の街があった。




