第十四話「戻らない後悔」
――あの頃の記憶
暗い。
どこまでも、暗い。
空はなく、地面もなく、ただ黒い空間に“泣き声”だけが漂っている。
すすり泣き。
叫び。
助けを求める声。
その中心に、10歳ほどの早乙女が立っていた。
今よりずっと小さく、無邪気で、そして――目だけが異様に大人びている。
「……ここ、また来たのか」
彼は呟く。
周囲に浮かぶのは、ぼやけた“記憶の残像”。
――神童。
――将来有望。
――何でもできる子。
大人たちにそう言われ、期待され、愛されて育った日々。
その中で出会った、ひとりの少女。
同じくらいの年で、少し臆病で、よく笑う子だった。
「ねぇ、森の奥って、何があるんだろ?」
ある日、そう言われて。
「行ってみる?」
軽い気持ちで、二人は森に入った。
――それが、すべての始まりだった。
森の奥で、空気が変わった。
次の瞬間。
咆哮。
影。
牙。
「……っ!」
魔物だった。
早乙女は咄嗟に少女をかばい、戦った。
才能はあった。
力もあった。
魔物は、倒せた。
でも――
「……え?」
気づいた時には、少女の姿がなかった。
地面に残る、引きずられた痕。
血。
「待って……!」
必死に追いかける。
傷だらけになりながら、森の奥へ。
そして
見つけた。
……いや、「見つけてしまった」。
倒れた少女。
もう、動かない。
声をかけても、揺すっても、返事はない。
「……うそ、だろ」
「なぁ……起きろよ……」
返事はなかった。
早乙女は、震える手で少女を背負った。
血で濡れた服のまま、町へ戻った。
門の前で、人々が息を呑む。
少女の両親が駆け寄る。
「……あ……」
母親は、泣き崩れた。
父親は、何も言わず、ただ空を見上げていた。
誰も、早乙女を責めなかった。
怒鳴られもしなかった。
殴られもしなかった。
ただ――
「うぅ……っ」
泣く声だけが、耳に刺さった。
それが、何よりも苦しかった。
「俺のせいだ」
「俺が……守れなかった……」
その後悔が、心に焼き付いたまま――
時は流れた。
⸻
ーー仲間
気づくと、暗闇の中に今の早乙女が立っている。
周囲には、泣いている残像。
「……また、この夢か」
その時。
背後から、掴まれた。
「いつまで、逃げてんだよ」
聞き覚えのある声。
振り向くと、天音がいた。
怒っている。
本気で。
天音は、早乙女の胸ぐらを掴み、引き寄せた。
「なぁ!」
「お前、なんで俺たちについてきたんだよ!」
早乙女は、目を逸らす。
「……別に」
「なんとなく、だよ」
その瞬間――
天音の拳が、早乙女の胸に叩きつけられた。
殴ってはいない。
でも、衝撃は確かにあった。
「ふざけんな!」
「後悔しないためだろ!」
「今度こそ、守りたいって思ったからだろ!!」
早乙女の瞳が揺れる。
「……うるさい」
「もう……あんなの、二度と……」
天音は、叫んだ。
「だったら逃げんな!」
「今度は、ひとりじゃねぇだろ!」
「俺たちがいる!」
「それでも失うのが怖いなら――」
「一緒に怖がってやる!」
沈黙。
やがて、早乙女の目から涙が溢れた。
「……ずるいな、お前」
「そんなこと言われたら……」
声が、震える。
「……もう、逃げられないじゃん」
その瞬間。
夢の世界に、光が走る。
泣き声が消え、残像が崩れ落ちる。
闇が、割れる。
早乙女は、目を閉じた。
そして――
⸻
ーー現実
「……っ!」
早乙女が目を開いた。
目の前には、天音。
そして、戦っている九条とカノン。
胸が、熱い。
「……チッ」
早乙女は目元を拭い、いつもの軽い笑みを浮かべた。
「なんだよ……」
「起こすなら、もっと優しくしてくれよな」
天音は、少し笑って言った。
「うるせぇ」
「起きたなら、戦えるな?」
早乙女は、立ち上がる。
「当たり前だろ」
「今度は――」
「絶対、誰も死なせない」
次は〜
零〜
零〜




