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天のかけら地の果実(全年齢版)  作者: 群乃青
天のかけら 第三章
20/20

20.すごく、好き


「あの、ベッドルームにあった監視カメラはどうなったんですか」


 ふと、思い出したので聞いてみた。


「あれ?気付いていたの?」


 宮坂がきょとんと目を丸くする。


「はい。最初はわからなかったんだけど、途中で。ホテルに運び込まれた時に男たちがあらかじめ設置したみたいで」

「ああ・・・。そっち」


 物憂げにため息をつかれて、首をかしげた。


「あれはね。怒りの女神と化した瑛がね。完璧すぎるくらい破壊しまくったから大丈夫。正直、あいつらのやったことの証拠として欲しかったんだけど、まあ、瑛も嫌だろうから」


 事件にかかわったすべての人を聴取して、関係先も査察が入ったという。

 怪我を負った人は厳重な監視下のもと、治療をすすめていて、瑛の母の回復も順調だとか。

 時間の流れとともに、色々な真実が明るみになっていくが、解決もされている。

 アメリカで起きたオメガへのテロ行為も、大河を日本へ誘い出した手筈も全て掌握済みらしい。

 アルファの恩恵にあずかれずに道を誤った者、生物兵器としてバース特性に興味がある者たちが次々と捕縛された。


「あのね。そもそも通信回線からデータを破壊する能力って、もはやアベンジャーズだよ。俺や美津を越えてるね」


 そんなことを言われても、覚えていないから答えようもない。


「ま、色々なことはおいおいにね」


 そして、優しく頭を撫でられた。


「あらためておかえり、瑛。元気になって僕は嬉しいよ」

「・・・ありがとうございます」






 騒動から五日後の月曜日。

 ようやく出勤できた。


 何もかも丸投げなのは人としてどうかと思ったのだけど衝動がどうにも止まらず、出かけようと試みては挫折してを繰り返し、やっと落ち着いた今朝だった。

 初めてはそんなもんだよ、と宮坂と浅利が笑い飛ばしてくれたが、何もかもお見通しなだけにいたたまれない。

 そもそも、何日も欠勤した。

 仕事は同僚たちにカバーしてくれたおかげで支障を出さずに済み、正気に戻ったこの朝から頭を下げて回ったが、皆、まあ初めてだから仕方ないよなと、ぬるい笑みを返してきた。

 実は、このオフィスの従業員のほとんどがバース特性だとこの時初めて瑛は知った。

 憎たらしいことに、蜂谷はアルバイトの時から知っていたらしい。

 まったく何も知らないのは瑛だけだった。


「・・・あとで、話がある」

「おお、こわ」


 色々な矛先を、蜂谷に向けることに決めた。

 それがわかっているのに、蜂谷はただただ笑う。


「そういや、大我はどうなったんだ?」


 自分は少ししか危害を加えていないが、筒井は恨みを思う存分ぶつけていた。骨の一本くらい折れていてもおかしくない。


「ああ、それ」


 ちょっと唇を尖らせたのを見た。

 でも、気が付かなかったふりをしよう。今は。


「事件の時はね。一服盛られていたんだよ。だからあーなって、こーなって、意識を失っていたけど、身体はもう大丈夫。高位アルファはだてじゃないし、あの筋肉も見掛け倒しではなかったようだね。罪にも問われない。今、宮坂さんに回収されている」


 思いっきり省いた回答だけど、だいたいわかった。

 オメガのレイプは重罪だ。

 でも、薬を盛られていたことが立証されて無罪放免になったのだろう。


「宮坂さんが回収?」


 意外な話だ。

 ランチの時の二人は険悪だったのに。


「なんか、気に入ったんだって。ああいうの、すごく好みって・・・」


 ああいうのって、どういうのなんだろう。

 とにかく、このどさくさで大我は宮坂の手に落ちたということなのか。


「それは、また・・・」


 本当に。

 自分は何も知らなかった。

 でも、これから知ればいいと、思う。

 思えるようになった。

 不思議なことに。





 わたしのぼうや、しあわせになる。

 だいじょうぶ。わたしの、たからもの。



 この言葉があるから。

 だから、大丈夫。

 生きていける。

 ただ。



 おかあさん。



 かのひとのことを思い、そっと口の中で呼んでみる。



 おかあさん、おかあさん。



 自分をうんでくれたひと。

 自分をまもってくれたひと。

 言葉を、贈ってくれたひと。

 あなたのことは忘れない。

 だから。

 あなたもおれのなかにいて。

 ずっと、ずっと、おれのなかで生きて。

 おれのなかで、しあわせになって。



「瑛?」


 名前を呼ばれて、はっとする。


「どうした?」


 いつもこの男は自分をこんなにも気遣う。


「いや・・・。なんでもない」


 ただ。


「薫、好きだよ」


 気が付いたら、笑っていた。

 傍にいるだけで、こんなに暖かい。


「すごく、好き」


 言葉を、贈りたい。

 大切な、ただひとりの、お前に。



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