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天のかけら地の果実(全年齢版)  作者: 群乃青
天のかけら 第三章
11/20

11.御津


 しんと、空気の冷えた室内にいきなり飛び込んできたのは浅利だった。


「お待たせしました。行先は日本橋の外資系ホテルね。部屋の位置も確認済みよ」


 入るなり報告を始めた彼女は、いくつかの証拠書類を二人の前に並べた。


「マンションではなく?」

「オーナーは誰も貸さないわよ。事故物件になるってわかっているのに何を好き好んで」


 相変わらずさらりと恐ろしいことを言ってくれる。


「まあ、タワマンだと意外と壁薄いしね・・・」


 いったい何を予測してのことなのか、蜂谷はため息をついた。


「とにかくその部屋ならこちらも監視しやすいから提供してもらったの。こちら側とあちら側。誘導合戦もいいところね。とりあえず、公安もマークしているから」

「・・・公安、も?」


 たまりかねて問うと、二人は口元だけの笑みを返した。


「もう薄々わかっているかと思うけど、まあ、そんなとこ」


 夏川瑛が、色々な機関の注目を浴びている。


「これが、ゴールドの力の一つよ。何しろ全世界の宝だからね、女王蜂は」


 瑛は必ず守られるということは理解できた。

 だけど、それは。


「蜂谷。今更だけど、覚悟がないならここで抜けてくれていいんだよ。誰も非難しない」


 瑛が遠く離れていくことを意味する。

 瑛は無事だ。

 だけど、次に会うときは。

 そもそも、会わせてもらえるかもわからない。

 それが、オメガバースの階級制度だ。

 でも、そんなことはわかっていた。

 覚醒したあの時から。


「覚悟なんて。今更じゃないですか」


 ブロンズの自分が、ゴールドの瑛に恋してしまったあの瞬間から。


「あはは。まあそうだね。愚問か」

「そっちこそ、ブロンズの俺をわざわざそばに置いていたのは、今日のことを予測していたからじゃないんですか」




 入学式の夜、蜂谷は高熱を出して寝込んだ。

 三日三晩うなされた挙句、目覚めた時には体質が変わっていた。

 平凡なベータから、希少なアルファへと。

 数値はぐんと跳ね上がり、ブロンズクラスではあるが限りなくシルバーに近いステータスとなった。

 少しルーツをたどればシルバーが幾人か存在するゆえに半ば予測されていたことだったため、家族も自分も驚かなかった。

 そもそも、オメガバースに対する嗅覚が鋭すぎる。

 ベータであり続けたほうが奇跡だ。

 もちろん、引き金は瑛。

 ただただ、瑛に惹かれたら身体が変わってしまった。




「うんまあね。ブロンズの人たちとも僕、結構交流あるから。というか、君のお父さんともけっこう親密なお友達?」

「・・・それ、早く言ってくださいよ・・・・」


 それはさすがに蜂谷も気付かなかった。

 何もかも父親に筒抜けだなんて、恥ずかしすぎて発狂しそうだ。


「いや、君があんまり自分のこと話したくないみたいだったから、まあ、時が来たら風呂敷ぜんぶ広げて回収しようかと」

「・・・じゃあ、回収されついでに確認していいですか」


 これは、切り札だ。

 これからにつなげるための。


「浅利先生」

「はい?」


 パンドラの箱を開く。

 それがたとえ、己の命と引き換えになるとしても。


「あなた、『御津みつ』さんですね?」

「・・・あらあ」


 浅利の瞳の色合いが変わる。

 肌からたちのぼる金色の『気』。


 『美津』と『御津』。

 『誉』と『火真礼』。


 同じ音の中に、大きな秘密を隠し持つ。


「『阿野火真礼』と姉弟のように親しくできるバース性の人はそういません。どうしても力負けしますから。同等、もしくはそれに近いとなると、野宮家の『御津』だと思いました」


 野宮家は戦国時代に阿野家から分家した家柄だ。

 その中で最高峰の印が『御津』ということは、宮坂のことを調べているうちに知った。

 そこから推測したのは、宮坂と同じく改姓していることと、あと。


「前々から聞きたかったのですが」


 もう、こうなったら皿まで食らわねばならない。


「宮坂さん、浅利さん、俺には確信がないから尋ねます」


 どんなに言葉を選んでも、興味本位ととられかねないことは重々承知だ。

 好奇心がないと言えば嘘になる。

 目の前にあるのは未知の世界なのだから。


「あなたたち、どちらですか?」


 覗いて、触れずにはいられない。


「それとも、どちらも、ですか?」


 箱の奥底のさらに奥を。


「あらまあ・・・」


 浅利美津は、のどかに笑う。


「さすがは、蜂谷さんの秘蔵の息子さんだこと」


 しかし、この瞬間に全てが変わったことを蜂谷は感じた。

 自分を取り巻く空気が、たちこめる香りが、そして、二人の瞳が。


「でも」


 き・・・ん、と高い音が部屋の中を駆け巡り、鼓膜を容赦なく突き刺す。

 目の前にいるのは、最高で最強の遺伝子保持者たち。


「雉も鳴かずばって、知らないの?」


 虎の尾を踏んだ。


「・・・御津さん」


 強すぎる光は、時として。


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