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異世界オープナー  作者: マノイ
戦争になんて関わりたくない編

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7. ござる侍と抜けない刀

「ふわぁあ、眠……なんだ!?」


 いつものように寝ようとしたアケィラだが、表がとても騒がしくて目が覚めてしまった。


 野次馬根性で外の様子をそのまま確認する、と思いきや直ぐに興味が無さそうにカウンターに突っ伏した。


「なんだ。ただのひったくりか」


 確かに表ではひったくり事件が発生し、その犯人が近くにいた人物に取り押さえられたという事件が起きていた。声だけでそのことに気付き、理解したから興味を失ったのだろうか。


 外での騒ぎはしばらく続き、犯人が衛兵に連行されると静かになった。


「これでようやく眠れる」


 そう安堵したアケィラが昼下がりの惰眠を貪ろうとしたその時。


 カランカランと音が聞こえて来て、今日もまたぐうたらな時間を堪能出来なかった。


「いらっしゃいませーってさっきの侍じゃないか」

「さっきの?侍?」


 店に入った直後に意味不明なことを言われて戸惑う男性客。


 確かにその人物は袴に似た服を着て腰に刀を差している侍のような見た目をしているが、外に出ていないアケィラはどうして彼がそのような風体なのか分かったのだろうか。


 そして何故アケィラは『侍』というこの世界には存在しない概念を知っているのだろうか。


「良く分からないでござるが、開いているでござるか?」

「しかもござる!?狙いすぎだろ!?」

「さっきから何でござるか!?」


 アケィラの訳の分からない言葉の連発に気味悪いものを感じた侍は中に入るのを躊躇する。


「ああ、悪い悪い。気にするな。この店に初見の客が来るなんて久しぶり……でもないが、珍しいことでな。つい変なテンションになってしまった」

「そ、そうでござるか……」


 侍は少し悩んだが、店内に入ることを選んだようだ。

 キョロキョロと店内の様子を確認しながらカウンターへと向かって歩く


「何も無いでござるな。ここは本当に店でござるか?」

「ん?店の前の説明見なかったのか?」

「何でも開ける店でござるな。それはそれとして何か売り物もあるかと思っていたでござる」

「あ~悪いがうちはそういうの無いんだ。もしかして何か買うつもりで入ったのか?」

「そうではないでござるよ」


 単にあまりにも殺風景で店らしくないから気になっただけのようだ。


「そういえばどうしてこの店に?誰かに紹介されたのか?」

「さっきこの店の前でひったくり事件があったのは知っているでござるか?」

「ああ」

「その犯人を捕まえて衛兵が来るのを待っていたら、この店のことに気付いたでござる」

「マジか。そういうケースもあんのか」


 アケィラの知り合いに勧められたのではなく、フラっと入って来たことに普通に驚いた。これまでの経験上、そういうケースは多くはないのだろう。


「んで気付いて入って来たってことは、何か開けてもらいたいものがあるってことか」

「これでござる」

「刀?」


 侍が差し出して来たのは、腰に差していた刀だった。

 『開ける』という言葉とは結び付きそうにない。


「これが鞘から抜けないでござる。開けるとは少し違うけど、抜けるように直せないでござるか?」

「そう来たか……確かに開けるって感じじゃあないが……」


 少し悩みながらアケィラはその刀を受け取った。


「まぁ良い。やってやるよ」

「そうでござるか!」


 多少の解釈違いなど関係ないのか、むしろ面白い仕事だと言わんばかりに楽しそうに刀を見ている。


「で、抜けない理由と、鍛冶屋じゃなくてうちに来た理由は?」


 サビていたり鞘の形が合わないという話であれば鍛冶屋に持って行くべき話だ。

 だが敢えてオープナー・フルヤなんていう怪しげな店にやってきたということは、特殊な抜けない理由があるに違いない。


「これは我が家に代々伝わる由緒正しい名刀でござる。切れ味も使い勝手も良くて重宝しているでござるが、不思議と時々抜けなくなることがあるでござる」

「鞘が壊れているとかで無くて?」

「そうでござる。店で調べて貰ったことがあるでござるが、鞘は正常でござる。それに鞘を変えて貰ったこともあるでござるが、それでも抜けなくなる時があるでござる」

「つまり鞘じゃなくて刀に何か問題があるってことか」


 試しに刀を抜いてみようとするが、確かにビクともしない。

 だがその抜けない感触に違和感を覚え、アケィラは眉を顰める。


「こりゃあ、魔法的な何かが仕掛けられてんな」

「分かるでござるか!?」

「まぁ待て。詳しく調べるのはこれからだ。他には何か情報は無いのか?どんな時に抜けなくなるとか」

「どんなときに…………」


 侍は目を閉じて考える。

 これまでの抜けなくなった状況を改めて思い返しているのだろう。


「そういえば、これから街を出ようとするときに抜けなくなることが多かった印象があるでござる」

「街から出る時?」

「そうでござる。おかげでせっかく受けた依頼をキャンセルせざるを得なくて困ったことが何度かあったでござる」

「ふぅ~ん。依頼ねぇ……冒険者ってことか。ちなみに今も依頼を受けてるのか?」

「受けているでござる。魔王軍との決戦に参加するでござる」

「決戦なんてあんの!?」


 街を出て人々の話を聞いていればすぐに分かることなのだが、魔王軍の話に関わりたくないと思って意図的に耳に入れないようにしていたので気付かなかった。


「冒険者も多く参加するでござるよ。拙者も腕試しにと参加するつもりだったのでござるが……」

「愛刀が抜けないとなれば、参加は無理ってことか」


 俺ならそれを理由に戦わずに済むから大喜びだな、なんて思いながらアケィラは一つの仮説を脳内で作り上げた。そしてそれが正しいかどうかを確認する。


「とりあえず魔力で確認してみるか」


 得意の極薄魔力を鞘と鍔の隙間から流し入れ、中の様子を確認しようとする。


「ん?何だ?何も無いぞ?」


 調べてみたところ、ただの刀と鞘であり、特殊な魔力で仕掛けがなされている感じが見当たらない。


 だが魔力を流し込んだ状態で刀を鞘から抜こうとすると大きな反応があった。


「特定の行動に反応して刀から魔力が生成されるだと。無機物の中に魔力を溜めておくことは可能でも生成は不可能だ。一体どうやって……」


 生成された魔力を排除して強引に刀を抜くことは出来る。


 しかしそれでは全く面白くない。


 開かない物を開けるという謎解きを楽しむために、オープナーなんて店をやっているのだ。


 アケィラはワクワクしながら生成された魔力を調べ始める。


「あれ?わずかだけど魔力が外に漏れてる?」


 それはあまりにも細くて感知するのが困難な魔力の糸。

 魔力操作に長けたアケィラだらこそ、そしてじっくりと魔力を調べているからこそ分かったことだった。


 魔力の糸の先は何処に繋がっているだろうか。

 アケィラがそれを辿ると、それはござる侍の身体に繋がっていた。


「なるほど、魔力そのものは持ち主から貰っているということか」


 これで無機物から魔力が生成されたという謎は解けた。

 生成しているのではなく貰っているだけだった。


 だがそうなるとまた新たな疑問が生まれる。


「鞘を抜くという動作をする瞬間にござるから魔力が一気に流れ込んでくる。だがそこまで大きな魔力の動きがあれば、気を抜いてでも察知できるはずだ。それなのに気付かなかったのは何故だ」


 アケィラは改めて刀から手を離してテーブルの上に置いた。

 しばらくすると魔力が霧散するのを感じる。


 今度はしっかりと魔力を視ながら刀を手に取り抜こうとした。


「なるほど、魔力が流れ込む時の形も細い糸のままなのか。それなら察知はしにくいが、それはそれで精密な魔力操作が必要となる。一体どんなからくりが刃に仕掛けられてるんだこりゃ」


 今度は刃の表面を魔力を通して確認してみる。

 だが何らかの仕掛けは感じられない。


「う~ん、こりゃ刀そのものに術式が埋め込まれているタイプか」


 だとするといくら表面を調べても分からない。


「刃の中にまで俺の魔力を染み込ませて調査すれば術式特定と解除は可能だと思うが……」


 そこまで考えてアケィラは調査を止めた。

 強引に魔力で調査して、せっかくの術式が壊れたら勿体ない。確証は無いが答えに予想がついているため、他の方法で開けることにした。


「ど、どうでござるか?」

「そうだな……あんた、強さは?」

「強さでござるか?未だ修行中の身、まだまだでござるよ」

「そういう謙遜とかどうでも良い。そうだな。魔王軍との決戦に参加するつもりだとか言ってたな。じゃあ普通の刀を使って参加したらどこまで活躍出来そうだ?」

「普通の刀でござるか?オーガクラスまでなら無傷で倒せるとは思うでござるが、それ以上となると……」

「へぇ、オーガを無傷ね。中々やるじゃねぇか」

「それが刀が抜けないのと何か関係あるでござるか?」

「さぁな」


 ござる侍の強さを把握したアケィラは、何処かから小さなベルを取り出し、それをチリンチリンと二度鳴らした。


「さて、後は待つだけだ。座って待って……あぁ、椅子が無かったな。ほらよ、これに座ってろ」

「え?待つ?どういうことでござるか?」

あいつ(・・・)が来たら説明する」


 アケィラはそれだけをござる侍に伝えると、客がいるにも関わらず眠そうにテーブルに突っ伏したのであった。




 それからしばらくして。


「アケィラ君!」


 オープナー・フルヤの扉が物凄い勢いで開かれ、ある人物が飛び込んで来た。


「よお、遅かったな。仲間の女共とイチャコラしてる最中だったか?」

「え……あの……その……」

「マ、マジだったのかよ。わ、わりぃ」


 ちょっとした冗談のつもりが一気に気まずくなってしまった。大失態である。


「そ、そんなことより僕に何か用ですか?」

「慌てて来なくても良かったのに。ちゃんとピロートークしてやったか?」

「その話は今はいらないでしょ!?」


 この男、失態したと思ったのに開き直って冗談にならない冗談を更に重ねる酷い奴だった。


「にしても面白い魔道具だな。本当にこんなんで呼べるなんてな」

「アケィラ君だから心配してませんが、意味なく使わないでくださいね」

「わーってるよ。誰が意味無く勇者君なんか呼ぶか、めんどくさい」


 自分からわざわざ厄介ごとを呼び込むなんてあり得ない。

 ミュゼスゥを助けたお礼として渡され、これを鳴らしたら何処に居ても全力で助けに行くとは言われているが鳴らすつもりは毛頭なかった。

 今回は厄介ごとを押し付けるために呼んだので例外だ。


「勇者でござるか!?」


 アケィラの言葉に大きく反応したのはござる侍。

 とんでもない有名人がやってきたと、目を真ん丸にして心底驚いている様子だ。


「あはは、どうも、勇者なんて呼ばれてますが普通の人ですよ。ええと、僕を呼んだのはこの人に関係する話ですか?」

「おう、お前ら近々魔王軍と戦うんだってな」

「はい。四天王の一人、『大軍のビッグウォー』が大軍団を率いて攻めて来るという情報が入ったので、迎撃しに行きます」

「ビッグウォー……集団を組織して戦う能力に優れた魔人だったか。数の暴力にゃ勇者様一人じゃどうしようもないってことね」

「僕の力なんて大したこと無いですよ」

「はいはい、そういうの良いから」


 アケィラはテーブルの上にあった刀を手に取り、ござる侍に向かって放り投げた。


「わ!わ!危ないでござる!」


 慌ててそれを受け取ったござる侍を横目で見ながらアケィラは勇者に告げた。


「こいつオーガ程度なら無傷で倒せるんだってさ。戦力になるだろうから連れてきな」

「本当ですか!? あ、でも無理強いは出来ませんよ」

「平気平気。冒険者ギルドの戦争参加依頼を受注済で、元から戦う気だったらしいから」

「それは助かります!」


 アケィラがやろうとしていたことは、ござる侍に勇者との繋がりを与えることだった。だがそれが刀が抜けないこととどう関係しているのだろうか。


「でも俺から見たらまだまだだ。戦争前にこいつを少し鍛えてやれよ」

「鍛える、ですか?」

「ああ。それで丸々解決だ」

「解決?」


 一体何が解決するのだろうと首を傾げる勇者。

 一方で何が解決したのだろうと疑問に思うござる侍。


「どういうことなのか説明して欲しいでござる」

「それを抜いてみれば分かる」

「え?」


 怪訝な顔をしながらござる侍は刀の柄を握ってみる。


「抜けた!?どうしてでござるか!?さっき何かしたでござるか!?」

「俺は何もしてねーよ」

「じゃあどうして!?」


 このまま何も説明せずにはい解決、というのがダウナー系主人公に相応しいのかもしれない。


 だが今回に限ってはそれはよろしく無いだろう。


 今後また抜けなくなる時が来るのか、どういう条件の時に抜けなくなるのか。

 それが分からないと、いざという時にまた刀が使えなくなるのではと不安になり安心して使えないからだ。


「簡単な話だ。魔王軍との決戦に行ってたらお前死んでたぞ」

「え?」

「でも勇者君に鍛えて貰うことで死ななくなった。だから抜けるようになったんだよ」

「もしかしてこの刀は、拙者が死なないように守ってくれていたでござるか」


 これまで抜けなくなった時も、戦いに向かったら死ぬ可能性が高かったのだろう。

 その刀には未来を予知して持ち主を守るためのギミックが仕込まれていたのだった。


「そういうことだ。心当たりは?」

「…………母上」


 感無量といった感じで刀を抱きしめるござる侍の様子を見れば、それ以上何かを聞く必要は無い。


 アケィラは仕事は終わったと言わんばかりに、再度テーブルに顔を突っ伏したのであった。

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― 新着の感想 ―
フルヤっていうのは、やっぱりそういう…… まあなんやかやと、面倒見の良いいい人ですねえ。
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