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異世界オープナー  作者: マノイ
貴族になんて関わりたくない編

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13/44

13. 魔法使いと開かないペンダント

「ふわぁあ、疲れたー!」


 いつものように眠そうにしているが、珍しく怠惰な結果ではなく疲れているからのようだ。珍しいのはアケィラの態度だけではなく場所もそう。


「久しぶりにこんなに本読んだな。嫌いじゃないが、少し肩凝ったわ」


 彼が出て来たのは街の図書館。

 店を臨時休業にして今日は調べ物をしていたのだ。


「でもおかげで、逃亡先候補の国をピックアップ出来たぜ」


 領主の呼び出しから逃げて平穏な毎日を取り戻す。

 そのための逃亡先として相応しい国は無いかと世界中の国の情報を調べていたのだ。


「後は移動に必要な物資の調達と、逃亡日の調整だな」


 物資についてはアイテムボックスがあるのでそこに出来るだけ詰め込むことになるだろう。お金については戦争関連の仕事でツケの類は支払いを終えているし、それ以外にも十分なお金をゲット出来ていた。


 問題は逃亡日の方だ。


「領主からの呼び出しは後日改めてと書かれていた。勇者君の予想では戦争の事後処理が一段落ついた後になるだろうってことだから、まだ余裕はあるはずだ」


 つまり準備期間は十分にあるということだ。


「その間に準備を済ませ、邪魔をしてきそうな奴らを追い払う必要がある」


 それは例えばカミーラやトゥーガックスがダンジョンに入っている時を狙う、ようなことである。その調整が一番面倒で頭を悩ませるものだった。


「誰にも邪魔されず、誰にも行き先を告げず、こっそりと夜逃げする。そうして俺は新天地で平穏な暮らしを享受するんだ!」


 そう力強く宣言するアケィラだが、果たして上手く行くのだろうか。

 特に、ここ最近の彼の不運を考えると成功するビジョンが全く見えない。


「さぁ~て、そうと決まったら今日は英気を養うために色街へと……げ!」


 色街への入り口。

 そこで待っていたのはカミーラ、ではなく、トゥーガックス、でもなく、予想外の人物だった。


「絶対にここに来ると思った。さぁ、仕事してもらうわよ!」

「なんでイナニュワがここにいるんだよ!」


 勇者パーティーの一人、かつ勇者の女の一人、かつ冒険者学校時代の同級生の魔法使いイナニュワ。


 いつものように魔法使いっぽい大きな帽子を被り、キツイ目つきでアケィラを睨んで通せないように仁王立ちしていた。


「なんでも何も、仕事を依頼しようと思ったら臨時休業だなんて書いてあるじゃない。絶対にここに来ると思ったわ」

「別に俺がここに来たって良いだろ!?お前は勇者の女なんだからさ!」


 正式にお付き合いしている相手がいるのだから、カミーラのように嫉妬して邪魔をする必要はないはずだ。


「女だなんて下品な言い方しないでよ。そりゃあ本当のことだけど……でもぉ……」


 途端に顔をだらしなく歪ませてピンク色のオーラを放ち、くねくねもじもじしてしまうイナニュワの様子は確かに女だった。


「うぜぇ」


 そんな彼女を無視してアケィラは先へと進もうとするが、そのことに気付いた彼女は再び壁となり立ちはだかった。


「だからダメよ。仕事を依頼したいって言ってるでしょ」

「臨時休業だって知ってるだろ。今日は何もやる気は無い」

「そんなこと言わないでやりなさいよ。私達、明日からしばらく街を出るから今日しか時間が無いの」

「何?街を出るのか?」

「ええ、魔王軍の残党狩りよ。決戦で敗れた魔族達が王国各地に散って暴れているらしいのよ」

「ほほう。それは良いことを聞いたな」


 王国各地というのがポイントだ。

 西へ東へと移動して狩りをするならば、それなりに時間がかかるに違いない。


 関わると面倒なことに巻き込まれかねない勇者にも行き先を伝えるつもりはなく、残党狩りで街を離れるというのはアケィラにとって朗報中の朗報だった。


「良いだろう。依頼を受けてやる」

「やけに聞き分けが良いわね。何を企んでるの?」

「企んでなどいないさ。くっくっくっ」

「……まぁ良いわ。あんたのことだからどうせ悪だくみしても失敗するでしょうし」

「悪だくみなんてするか!」


 するのは正当な企みだ、とでも言いたいのだろうが、夜逃げが果たして正当なのだろうか。


 そんなこんなで二人はオープナー・フルヤまで戻って来た。


「で、何を開けて欲しいんだ?」

「これよ」


 イナニュワがポケットから取り出したのは小さなハート形のペンダントだった。

 蓋がついていて、開くと中に小さな写真などを格納できるスペースがあるロケットペンダント。


「ここのでっぱりを押せば開くはずなのに、開かなくなっちゃったの」


 良く見るとペンダントの裏側にでっぱりがあり、それを押すと蓋が開く仕組みになっているようだ。


「お前なぁ。これなら俺の所に持ってこなくても、他の店で直してくれるだろ」

「他の所だと時間がかかるって言われたのよ。あんたなら直ぐでしょ」

「まぁな。そういや明日には発つんだったか。しゃーねーな」


 仕方なく嫌々ながら仕事するようなフリをしているのに、その瞳は明らかにワクワクしていた。


 相変わらずのツンデレである。


「裏にボタンがあったらつけているだけで衝撃で開いてしまいそうな気がするんだが。不良品だろこれ」

「不良品じゃないもん!」

「もんって……そういうキャラじゃないだろ。ああ、そうか、勇者君からのプレゼントだからそう思いたくないのか」

「ぐっ……あんたねぇ、そうやって乙女の秘密を暴くとモテないわよ」

「モテたい相手には気を使うさ」


 だが残念ながらモテたくない相手に好かれているのだから、人生ままならないものである。


「確かに押しても開かないな。なら魔力で調査……するまでもないか」


 それだけ彼にとっては簡単な仕事だということだ。


「ちょっと。丁寧にやってよ」

「俺を誰だと思ってるんだ。依頼品に傷つけることなんかしねぇよ」

「そ、そう、なら良いわ」


 仕事に対する強いこだわりがあるのだろう。

 本気で不機嫌そうに答えられてイナニュワは少し面食らった。


「あんた真面目に仕事すれば大儲けできそうなのに、どうしてそんなに怠けてるフリ(・・)なんかしてるのよ」

「フリじゃねーよ。仕事なんて面倒だから本当はやりたくないが、生活の為に仕方なくやってるだけさ」

「そう見えないから言ってるんだけどね」

「目が悪いな」

「はぁ……どうしても言うつもりはないのね。まぁ良いけど」


 だがイナニュワはどうしても勿体ないと思ってしまう。

 尋常ではないほどに精度が高い魔力操作が可能であれば、オープナーだけでなく様々な業種から引っ張りだこになってもおかしくない人材なのだ。


 勇者パーティーの一員としてイナニュワは己の魔法技術に絶対の自信を持っている。そんな彼女であってもアケィラには全く敵わないと自覚している。


 それなのにその格上の相手が、やる気がなく、営業してるのかも分からない寂れた店でぐぅたらしているというのが心情的にどうしても納得できないのだろう。


「お前だって戦いなんてしないで勇者君と一緒にひたすらイチャイチャするだけの毎日を過ごしてた方が良いだろ」

「…………悪くは無いけれど、今の暮らしが気に入ってるから」

「命を懸けた戦いの生活が気に入ってるとか、俺には信じられないぜ」

「あんたなら命を懸けなくたって戦……」

「うし、そろそろやるぞ」


 わざと会話を打ち切ったのか、たまたまそのタイミングで調査が完了したのか。

 アケィラは工具を取り出し集中モードに入ってしまった。


 先が非常に細い複数の工具を使い、ペンダントのボタン部分を繊細な手つきで操作する。


「(こいつ魔法だけじゃなくて、物理的にも精密操作が可能なのね。王宮魔道具師として推薦されてもおかしくないわ。今度こいつに嫌がらせ受けたら、勝手に推薦してやろうかしら)」


 そういうことをしようとするから、アケィラは逃げたくなるのだ。

 そしてそういう風に思われて面倒なことになりかねないから、アケィラは己の実力が広くバレないようになるべく仕事を受けないようにしているのかもしれない。


「うし、出来た」

「もう?」

「ボタン部分の機構が少しズレてただけだ。強い衝撃を受けたか、初期不良かのどちらかだな」

「なら決戦が原因ね。不覚にも攻撃を受けちゃったから」

「おいおい気をつけろよな」

「あら珍しい。心配してくれるの?」

「ミュゼスゥみたいに俺の所に治してくれって来られたら面倒なんだよ」

「またそうやって素直じゃないんだから」

「お前がそれを言うか」

「あはは、そうだったわ」


 ツンツン同士、妙なところで気が合ったようだ。

 冒険者学校に勇者君がいなければ、この二人がケンカップルとして仲を深めるなんて未来もあったのかもしれない。


「ほらよ」

「ありがとう。うん、確かに直ってる。スムーズに開閉するし、傷もついてないし、完璧な仕事よ」

「当然だ」


 これにて依頼は完了。

 となると次は報酬の話になる。


「それで、その、報酬、なんだけど……」


 お金をポンと渡してハイ終了。

 アケィラはそう思っていたのだが、何故かイナニュワが突然もじもじし始めた。


「お前の身体なんて興味ねーよ」

「はぁ!?」


 照れるという行為を、お金ではなく体で払うつもり、という意味だと理解してしまった。


「というか勇者君がいるのに身体を差し出して来ようとするな。怖すぎるわ」

「誰もそんなこと言ってないでしょ!」

「いや、待てよ。これは非常にまずい状況では。お前が一人でここに来たなんて勇者君に知られたら何を邪推されるか……」

「彼には言ってあるに決まってるでしょ!」

「ふぅ、良かった。いや、まだ安心できない。最近のあいつの俺に対する心酔度合いがちょっと怖いんだよな。自分の女を差し出して喜んでもらおうだなんて考えてもおかしくない」

「彼がそんなことするわけ……ないでしょ!」

「今一瞬ありえるかもって思っただろ」

「…………ないわよ」

「そこは自信を持って否定しろよ!」


 やはり絶対に勇者に勘付かれずに夜逃げしなければならない。

 そう強く心に誓ったアケィラであった。


「そんなことより報酬よ!はいコレ!」

「これは……魔力タンクのペンダントじゃないか」


 魔力を大量に貯めておけるペンダント。

 アケィラも使っていたもので、このペンダントには大量の魔力が籠められていた。


「私が魔力を籠めておいたわ。あんたのはミュゼスゥを助けてくれた時に使っちゃったんでしょ。だからこれをあげる」


 魔力量が多くないアケィラにとって、大量の魔力が手元にいつもあるというのは嬉しいはずだ。


「いや、要らない」

「なんでよ!」


 だがアケィラは即行で断ってしまった。

 その理由は仕事の内容の難易度とつり合いが取れていない程に高価なものだから、というわけではなかった。


「お前だって知ってるだろ。他人の魔力は自在に操れないって」

「う゛……そ、そうだけど、あんたなら使えるかなって思って」

「無茶言うな。多少指向性を与えられるくらいだ」

「それだけでも凄すぎなんだけど」

「凄くねーよ。解錠には全くつかえねー」


 たとえばミュゼスゥを救った時に大量の魔力を消費したが、あれはアケィラが指示した場所に的確に流し込んだ。もし他人の魔力だと自由に動かせないから正確な場所へと移動させられない。精密な操作を必要とするオープナーという職業にとって、思い通りに動かない魔力などただの不要な力の塊でしか無かった。


「やっぱりダメか。これなら感謝の証として受け取ってもらえるかと思ったのに」

「感謝の証?」

「ミュゼスゥを助けて貰ったことよ。凄い感謝してるのに、あんたその話題になると逃げて絶対に感謝を受け取ろうとしないじゃない。こっちは申し訳なさで押しつぶされそうだってのに」

「お、おう、そうか、何か悪いな」


 その感謝が重すぎて厄介な物をプレゼントされそうになっているから逃げていただけなのだが、それが彼女達に重荷になってしまっていたことにアケィラは今更気が付いたようだ。


「このままだと勇者様は本当に私をあんたにプレゼント……」

「いやぁ、魔力タンク嬉しいな!他人の魔力も扱えないかずっとチャレンジしてみたかったんだよ!最高の報酬だぜ!」

「…………それはそれでなんかムカツク」

「うるさい。俺は喜んだ。物凄く喜んだ。これで彼女を助けたことの貸し借りは無し。いいな」

「…………」


 このまま強引に押し切ってやろうと思ったアケィラだが、イナニュワはどうしても納得できないと言った表情だった。仕方なくアケィラはフォローしてやることにした。全ては面倒な話をさっさと終わらせるために。


「あのなぁ。お前達は大きな勘違いをしてるぞ」

「勘違い?」

「お前達は仲間の危機を俺に助けて貰ったと思ってる。だからその助けに応じた感謝を示したい。そうだな」

「ええ、そうよ」

「じゃあお前達にとっての仲間ってのはどの範囲だ」

「え?」

「ミュゼスゥは俺にとって同級生だ。しかも俺を敵視しなかった一人でもある。だから普通に仲間意識があるぞ。お前達が助けを求めなくても、たとえば道端で呪われた彼女にソロでばったり会ったら助けたいと思って助けたさ」


 別に仕事だから助けた訳ではない。

 共に学校生活を送った仲間であるミュゼスゥだから自発的に助けたいと感じて助けた。


 そこには他人という壁は無い。


「パーティーで敵と戦っている時、味方が大怪我したから魔法で回復したら、重荷になるほど感謝するか?仲間としてやるべきことをやっただけであり、感謝はしても自然な範囲のものだろ。俺がやったことはその程度のものだ」


 学校でのことで勇者やイナニュワがアケィラに負い目を感じているからこそ、そんな仲間意識の存在など考えられなかった。アケィラがそこまでミュゼスゥのことを身内に感じてくれているだなんて思わなかった。そこに大きな気持ちのズレがあるのだとアケィラは言う。


「だからあんまり気にすんな。お前達に重く感謝されてもマジで困る」

「…………あはは、らしくないわよ」

「激重感情だなんて面倒なものを持ってきやがったから仕方なくだよ仕方なく」

「ふぅ……すぐには割り切れないけれど、分かったわ」

「(納得したなら俺のことなんか気にせず、しっかり残党狩りに勤しんでくれよな)」


 これでミュゼスゥの件についてようやく終了したのだろう。

 勇者たちはスッキリした気持ちで街を離れ、アケィラへの執着の影響で万が一にも街に急遽戻ってくるなんて可能性も減ったはずだ。例えば残党狩りしている間に、アケィラが喜びそうなものを見つけたから急いで戻って来た、なんて可能性もなくはなかった。でも執着心が薄れたのであれば、残党狩りが終わったら渡しに行こう、のように後回しにしてくれるに違いない。


 らしくない説得も、今後の逃亡を考えてのことだった。


 だが残念ながら、その策が裏目に出てしまう。


 店を出ようとするイナニュワが、最後にとんでもないことを言ったのだ。




「私達に足りないのは、あんたをもっと理解することだったのね」

「は?」




 理解していないからこそ、今回のような気持ちの齟齬が生まれてしまう。

 だったらもっと理解を深めるべきだ。


 つまり今後はより一層勇者たちが絡んでくるという話になるのだろう。


「待て待て待て待て!」


 慌てて否定しようと、店の外に出た彼女を追ったが、どうやら転移魔法を使ったらしく、彼女の姿は見つからなかった。


「ぐおおおお!どうしてこうなった!」


 アケィラは一人、通行人に怪訝な目で見られながら、膝をついて嘆き首を垂れるのであった。

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