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異世界オープナー  作者: マノイ
戦争になんて関わりたくない編

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1. 常連と宝箱

本作品は好かれそうな内容とか考えずになんとなく書いたものです。あまり期待せずにお読みください。

「ふわぁ~あ、ねみぃ」


 何ら飾りつけがされていない小さな空の棚が数個置かれているだけの殺風景な部屋にて、一人の若い男があくびをしながらカウンターに上半身を突っ伏して座っていた。


 男から見て左右の壁に設置された窓から心地良いそよ風が部屋に吹き入り、同じくその窓から入ってくる街の雑踏が程よいノイズとして子守歌代わりになってしまっているのだから寝てしまいそうになるのも仕方が無いことだろう。


 と言っても、実はそれ以外に根本的な眠気の理由があるのだが。


「暇だ……客来ねぇ……」


 この部屋はとあるお店なのだが誰も来ない。来るかどうかも分からない客を待ち続けていたら、そりゃあ眠くもなるものだ。


「う~んっと、もう午後か。この調子だと今日もまた客はゼロかなぁ」


 男は体を伸ばして座りっぱなしで凝り固まった身体をほぐしつつ、なんとなくぼやいた。一人で店番などしていると、つい独り言が増えてしまう。


「客が来ないのにこうして無為に時間を潰すのは勿体ないな。よし、今日はもう早仕舞いして色街にでも……」


 勝手に店を閉じられるということは、男は単なる店番ではなく店主ということ。閑古鳥が鳴く店を盛り上げるための何かを考える様子は全く無く、街へと遊びに行こうとしてしまうダメ店主。


 それが男の、アケィラ・フルヤの日常だった。


 しかし今日はいつもと少し様子が違った。男が街へ行こうと意気揚々と店の入り口へと歩き出したその時、珍しくその入り口が外側から開けられたのだ。


「よぅ、やってるかい?」


 入って来たのは真っ赤な髪が印象的な一人の女騎士だった。


 いや、印象的なのはそれだけではない。


 白銀に揃えられた軽鎧は戦いの素人が見ても惚れ惚れする程に勇ましく高級さを感じさせる。

 背中に背負った大剣はあらゆるものを破壊しそうな圧倒的な力強さを感じさせる。


 そして何よりも、整いすぎていると言っても良い程の顔立ちによる美貌が、男女問わず多くの者を虜にする。


「チッ、カミーラか」


 しかしアケィラはそんな彼女に見惚れること無く、心底嫌そうに反応した。


「舌打ち!?おいおい、私は客だぞ?」


 その女性、カミーラは驚いている様子ではあるが何処となく演技っぽく、そう来るだろうなと分かっていて事前に用意していた反応をした感じがする。


 それが分かる程度には親しい間柄ということなのだろう。


「悪いが今日は店じまいだ」

「待て、何処に行くつもりだ」

「何処ってそりゃあ色街へ……」

「ダメだ!」


 知り合いとはいえせっかく来てくれた客。

 それを無視して、しかもかなり美しい女性をスルーして色街へと向かおうとするなどとんでもない男だ。カミーラが真っ赤になって怒って止めたのも当然のことなのだが、何故か必要以上に怒り必死な様子である。


「なんでお前に止められなきゃならねーんだよ」

「ダメったらダメだ!どうしてお前はそんなにも鈍……そ、そうだ!今日は客として来たんだ!お前に開けてもらいたいものがある!」

「だから今日は店じまいだって。明日にしろ明日に」

「い、嫌だ!今日じゃなきゃ嫌だ!中身が気になって仕方ないんだ!」

「そんなの知るか」


 焦ってどうにかしてアケィラを引き留めようとするカミーラだが、アケィラはどうしても仕事をしてくれそうにない。彼の頭の中は色街のことで一杯だったのだ。


「どうせ行ったところで何も出来ないチキンの癖に……」

「何か言ったか?」

「いや何でもない」


 娼館に通って女性に溺れる。

 それどころか、遠くからえっちそうなお姉さんを見ているだけで精一杯であることがカミーラにバレていた。だがそのことが分かっていても、自分を無視するのに他の女に色目を使うのは我慢できない、といったところだろうか。


 このままでは本当にアケィラは色街に行ってしまう。

 大丈夫だとは思うが、ひょんなことから商売女に捕まって流されていくところまでいってしまう危険性は無くは無い。


 ゆえにカミーラは最終手段を取ることにした。


「よし、決めた。お前が開けてくれないなら、ここで勝手に開けてやる」

「やめろ馬鹿!!!!」


 効果は覿面で、アケィラは真っ青になってカミーラの細い首を絞めた。

 だが彼女は全く苦しそうな様子を見せない。

 戦闘民族とだらけた店主との力の差、という奴である。


「お前が持ち込んでくるもんはシャレにならないやつばかりなんだよ!そんなのをここで開けられてたまるか!」

「う~ん、そうだったか?」


 アケィラに真正面からキッと睨まれて思わず目を逸らしてしまったのは、気恥ずかしさだけが原因ではない。


「少し前に、開けたらここら一帯が吹き飛ぶほどの威力の罠が仕掛けられている箱を持ち込んだだろ!」

「そ、そうだったかな~?」


 この店の周囲には建物がいくつかあり、少し離れた所では多くの人が行き来していることもあり、一歩間違えれば大惨事になったことだろう。


「その前は差し入れだなんて言って、一週間は笑いが止まらなくなるキノコを持って来ただろ!」

「あ~あれは流石の私も辛かったなぁ」


 軽い媚薬効果のあるキノコと間違えて採取してしまったことはカミーラの永遠の秘密である。


「そして極めつけは前回!」

「前回?何か問題あったっけか?」

「大ありだっただろうが!もう一歩で国中が呪われて滅ぶところだったんだぞ!」

「ああ、そうだったな。私には効果が無いからそう言われてもいまいちピンと来なくて……」

「このチート野郎、いや、チート嬢が……」


 カミーラは呪いに対する耐性があり、どれほど強いものであっても完全に無効化してしまうのだ。


「どうせ今回もまたとんでもない呪物なんだろ……こんなところに持ち込まずギルドで対処して貰えよ」

「まぁまぁそう言わずに、いつも高額の報酬を払ってるだろ」

「お世話になってます!でも最近は割りに合わないと思ってます!」


 ぐぅたら店主が客がゼロの日常を過ごしていても生きていけるのは、彼女が稀に持ち込む仕事を請け負うことで多くのお金を得ているからだった。そのことを考えると彼女を無下に扱うことは出来ないはずなのだが、これまでの命をかけた仕事の数々を思い出すと拒否したくなるのも自然なことだろう。


 カミーラとしては好意で仕事を持ってきているつもりなのだが、それが逆効果にもなっていることを残念ながら彼女は気付いていなかった。


「はぁ……しゃーねーな。他所で開けられたら世界が終わるかもしれねーし、ギルドだってミスするかもしれねぇし……俺が開けてやるよ」

「やった。それじゃあ出すぞ」


 アケィラが仕事を引き受けてくれたことに上機嫌なカミーラは、アイテムボックスからあるものを取り出して床に置いた。


「な……!?」


 それを見たアケィラは口をあんぐりとあけて間抜け面で驚いている。

 それもそのはず。




「ダンジョンから宝箱ごと持って帰る奴が何処にいる!!!!!!!!」




 この世界には多くの魔物が巣食い多くの宝が眠るダンジョンと呼ばれる場所がある。そのダンジョン内に宝箱があるのだが、開けて中身を取り出すと宝箱が消えて無くなるという不思議仕様になっている。


 その不思議を調べるために、冒険者が宝箱を持ち帰ったことが過去にある。だがいざ調べてみると、宝箱そのものは一般的な材質であり、ダンジョン内でだけ特殊な性質を持つものということが分かったのだ。


 つまり宝箱を持ち帰ったとしても金にならず邪魔なだけである。


 しかも今回カミーラが持ち帰ったものは横幅二メートル、高さも一メートル近くあろう大物だ。真っ赤に輝き、謎の装飾が為されていて高級感を醸し出しているが、素材は結局安物だろう。


「アイテムボックスがあるからこのくらい余裕さ」

「……このチート嬢が」


 異空間に物をしまっておくことが可能なアイテムボックスというスキル。一辺が一メートルの立方体くらいの空間を扱えれば上級者だ。横幅二メートルの宝箱を入れてなお余裕があるほどの広さのアイテムボックスを扱えるなど、間違いなくチート級だった。


「私から見ればアケィラの方がチートなんだが……」

「何馬鹿なこと言ってやがる。冒険者学校の首席(エリート)が」


 二人が何故、これほどに親しげなのか。

 それは冒険者学校の同期であり、その時になんやかんやあって交流を深めたから。


「私はただ力があるだけだ、だがお前は……」

「あ~はいはい。そういうのは良いから。わ~ったよ、開ければ良いんだろ開ければ」


 カミーラに最後まで言わせず、アケィラは面倒臭そうに宝箱へと向かった。


「どんなものだろうが、オープナー・フルヤの名に懸けて絶対に開けてやる」


 オープナー・フルヤ。

 それがアケィラがオープンしている店の名前だ。


 どんなものでもなるべく開けます。


 そんな微妙な売り文句と共に『解錠屋(オープナー)』と自称する恐らく世界で唯一の店。


 何故世界で唯一なのかは、単純に商売にならないから。


 この世界では解錠のスキルが存在しているため、スキル持ちに依頼すれば封印された箱であっても簡単に開いてしまうからだ。ゆえに彼の店は常に閑古鳥が鳴いている。カミーラなど(・・)の支援がなければとっくに破産しているだろう。


「んじゃ視るか」


 アケィラは瞳に魔力を集中させて宝箱を視る。


「おいおい、そんなに警戒しなくても触って確認しても平気だぞ。アイテムボックスに入れる時に私が触ったが何も起きなかったからな」


 ダンジョン産の宝箱には様々な罠が仕掛けられている。それが深い層のものであればあるほど凶悪であり、触れただけで強力な呪いにかけられたり爆発するなんてこともありえるのだ。カミーラは触れたと言うが、状態異常に対して高い耐性を持つ彼女が触れた所で無効化されて気付いていないだけの可能性もある。


 ゆえにアケィラは不用意に触れることはせずにまずは遠くから視ることにしたのだ。


「耐性持ちのお前の言葉に何の意味がある。こちとら一般人じゃ」

「どこが一般人だよ……」

「何か言ったか?」

「いや、何も。それで何か見えるか?」


 アケィラは集中してじっと宝箱の周囲を観察する。するとすぐに濃密な魔力の層が宝箱全体を覆っていることに気が付いた。


「尋常じゃ無い程の濃密な魔力で覆われてやがる。こんなの素人が触れただけで気が狂っちまうぞ。だが濃いだけで魔力の質は罠って感じじゃないな。だとすると何故こんなものが纏わりついてやがる」


 カミーラの質問に返答したように見えるが偶然であり、アケィラは自分の世界に入りブツブツブツブツと呟きながら宝箱の調査を行っている。カミーラもまた今のアケィラに話しかけても意味が無いと分かっているため、彼の横顔を堪能することに決めた。


「この魔力のせいで宝箱そのものにギミックがあるか視えないな。しゃーない、潜る(・・)か」


 アケィラは更に集中して瞳に魔力を集中させ、宝箱周囲の魔力をより細かく解析する。そしてその先にある宝箱本体の本質を暴こうとする。


「……………………捉えた。全く抵抗が無かったな。外からの刺激には全く反応無しか。本体は……普通の箱だな。いや、なんだこれ。箱そのものは普通だが、箱の中から禍々しい気配を感じるぞ。そうか、あの魔力の層はこれを抑えるための物だったのか」


 外敵から中身を守るためではなく、中にある何かを抑えるために魔力が使われている。

 それはつまり。


「普通のアイテムの可能性もあるが、ヤバい奴を封印しているタイプだったらまずいな」


 封印タイプの宝箱の中身は千差万別だ。

 超高性能な回復薬、装備、罠、あるいはモンスターが潜んでいるなど、種類を特定するのは難しい。

 禍々しい気配であっても、いわくつきなだけの装備だなんて可能性もあるため悪い物との断定もできない。


 だがいずれにも共通することは、中身が封印の厳重さに相当するものということ。


「あれ?この魔力の質と宝箱の模様。どこかで見たことがある気がする」


 この宝箱の正体に繋がる何かがアケィラの記憶の片隅にあるらしい。彼はそれを必死になって思い出す。


「そうだ!これって冒険者学校の図書館で……っておい馬鹿お嬢!」

「ひゃ!見てない!何も見てないぞ!」


 何故かカミーラは顔を真っ赤にして意味不明の弁明をする。果たして彼女は何処を見ていたのだろうか。


「何の話だ。そんなことより、これ何処から持ってきやがった!」

「え?何処ってダンジョンの中だけど……」

「んなことは分かってる。ダンジョンのどの階層から持って来たのかって聞いてんだよ!」

「…………ど、何処だったかなぁ?」


 アケィラの怒声に、カミーラは露骨に焦った様子で汗をだらだら流しながら視線を逸らした。この女、嘘がつけないタイプである。


「言ったよな。何度も言ったよな。ソロで深層に潜るなって!」


 深層。

 それはダンジョンの奥深くであり、凶悪な罠と魔物が牙を剥く地獄のような世界。実力者がパーティーを組んで挑まなければ死は間違いないと言われている。


「も、もも、潜ってないって!」

「嘘つけ!これは深層じゃなきゃ見つからないもんだ!」

「しまった!」

「やっぱりてめぇソロで潜ってやがったな!?どれだけ強かろうが、深層はどんな実力者でもたった一つのミスで死ぬ可能性が高いから、ソロでは絶対に潜るなって口を酸っぱくして何度も何度も何度も何度も言っただろうが!」


 そのアケィラの忠告を無視して、深層にソロで挑んでしまっていた。

 深層以下でしか見つからないはずの宝箱がここにあるということはそういうこと。カミーラは絶対に怒られるからと隠しておきたかった秘密を自分からバラしに来てしまったのだった。


 だがここで素直にそのことを認めてしまったら最悪の結果が待っている。

 ゆえに彼女は必死になって嘘を重ねて弁明しようとする。


「ち、ちち、違う。違うんだ!それは……その……中層、中層の隠し部屋で見つけたんだ!ほら、よくあるだろう!隠し部屋にずっと下のアイテムが隠されていることって!」

「ほう、そうか。それは大発見だな。ならギルドに報告しなきゃまずいよなぁ。『邪神のかけら』入りの宝箱が中層で発見されたとなれば、そのダンジョンは封鎖して徹底した調査が必要になるからな!」

「え……あ……」


 邪神のかけら。

 それは深層以下の宝箱で稀に発見できる超強敵モンスターのこと。万が一にも解き放ってしまえばパーティーの壊滅は間違い無く、しかもそのモンスターは撃破しない限り消えずにその階層をうろつき、放置しておくと上の階にまで登ってくるという。そのダンジョンの上層が使えなくなるどころか、外に出て大殺戮を行うという最悪の事態にもなりかねない。


 それが中に入っていることをアケィラはすでに見破っていた。


 そんなものが入った宝箱が本当に中層で発見されたとなれば、そのダンジョンの封鎖と再調査が必要になるのは当然のことだろう。


 もしもそれが嘘だと分かったらどうなるか。それくらいはポンコツお嬢の頭でも理解できたようだ。


「さぁ、一緒に冒険者ギルドに行こうか。ギルマスにしっかり報告しないとな」

「本当は深層にソロで潜って見つけました!大変申し訳ありませんでした!」


 カミーラは即座に態度を翻し、超高速で土下座して謝った。

 悪質な虚偽報告は冒険者ライセンスのはく奪につながるからだ。


 その様子を見てアケィラは両手で頭を押さえて顔を左右に振った。


「全く……いくらお前でも本当に死ぬかもしれないんだぞ。コミュ障だからってソロやってないでちゃんとパーティー組めよ。そうすりゃ俺もここまで言わないからさ」

「こ、ここ、コミュ障じゃないし。ただ私の実力に着いてこれない奴しかいないだけだし」

「はいはい。そうですかそうですか」


 カミーラと同等の実力者などこの世界には数えるほどしか居ないのだが、深層を探索するだけならば候補は山ほどいる。それに美しい彼女とお近づきになりたいと思っている人は男女問わず多いのだ。選ぼうと思えば選び放題なのに、仲間を作ってマージンを取らないことがアケィラには同級生として(・・・・・・)腹立たしかった。


「私はお前以外とは……」

「と・に・か・く・だ。約束、覚えているだろうな」

「!?」


 ビクっとカミーラの身体が大きく震え、土下座したまま顔だけを上に向け、縋るような目を向けてきた。


「どうか……どうかそれだけは……!」

「ダメだ」

「そんなご無体な!」

「約束は約束だ」


 もしも今度、カミーラがソロで深層に潜ったら。




「この店、出禁な」

「いやああああああああ!」




 その叫びは町中に響き渡るほどのもので、すぐに衛兵が飛んで来てカミィラが捕まりそうになったのであった。


10/29 全44話予定で、38話まで完成してます

(間違いなく人気出ないですが、万が一にでも出ちゃったら続きが書けるようにもなってます)

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