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華麗なる闇堕ちラスボスを全うしたい夜神くん  作者: 霞花怜(Ray)


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53. 冥界へ

「シェーン、カロン、待たせたな」

「久し振りだね、カロン~。僕に会えなくて寂しかったでしょ?」


 訓練室のドアが開いて、カデルとルカが雪崩れ込んで来た。

 ルカがカロンに抱き付いた。


「話し合い、纏まった?」


 シェーンの問いかけに、カデルが厳しい顔をした。


「結論から話せば、王室の態度は柔和している。教会の事情が変わってきた」

「智天使プシュケ様の神託が下ったんだ。竜を殺してはならない。神界の裁きを待てってね」


 カロンの胸が、ドキリとした。


「智天使プシュケ様って、何者?」

「女神アメリア様よりさらに高位の、天造の神様がいるんだけど、その側近の天使様だよ。天造の神っていうのは、神界を造ったとされる神様で、人間に名も姿も明かさない、神様の神様みたいな存在。その側近の三天使の一人が、智天使プシュケ様だよ」


 ルカの説明を聞きながら、フェリムとしていた勉強を思い出した。


「フェリムが教えてくれた神話にあったかも。天造の神の側近は熾天使・智天使・座天使、だっけ」

「よく覚えてるな、勉強が身に付いてて、偉い」


 カデルが頭を撫でてくれた。

 ちょっと照れる。


「三天使の中でも智天使は神の意志を伝え、裁きを与える。プシュケ様は竜を殺すな、冥界の魔王に攻撃してはいけないと、告げたんだ」


 ルカの話にカロンは驚きと関心を抱いた。


(この流れ、夢野先生が、自分が書くならこうするって言ってた内容と同じだ)


 もし書くなら、神界に大天使メロウが糾弾される下りを書くと話していた。

 その通りの状況が起きている。


(やっぱり夢野先生って、この小説世界の原作者なんだ。全く同じじゃなくても、似たような状況に流れてる)

 

 原作者自身もこの世界について、変わってはいるが構想から大きく外れてはいないと話していた。

 ということは、物語は終盤、ということになる。


「攻撃してはいけないってことは、討伐隊が出せないね。もしかして見送り?」


 シェーンの指摘に、カロンは思わず振り返った。

 それでは冥界に行く手段がなくなる。


「シェーンの言う通りだ。だから偵察に切り替えて、『神実』と『五感の護り』が冥界に行く提案をレアンがしてる」


 カデルが歯噛みした。


「こんな話し合いばっかり繰り返してたら、いつまでも冥界に行けない」


 ここまでだって、十日もかかっている。

 話し合いが纏まるのを待っていたら、いつ向かえるかわからない。


(だけど、大天使メロウが追い詰められているのは、事実だ。地上の誰かの中に天使の核を隠すか、自分の魂を隠すはずだ)


 その誰かはカロン自身かリリム、『五感の護り』である可能性が高い。

 カロンは軟膏を取り出した。


「今のうちに、ルカとカデルにも、軟膏、塗っとく」

「それ、何? 小瓶のデザイン、可愛いね」


 ルカが、カロンの手元を覗き込んだ。

 

「カロンの特別な魔力増強アイテムだって。女神様からのプレゼントだってさ」

「女神様はまだ、幽閉されているのに?」


 シェーンの言葉に、ルカが不思議そうに首を傾げた。

 カロンはルカの前で蓋を開けて見せた。


「アメリア様の使者が持ってきてくれた。俺とシェーンは試し済み。怪しくないよ」

「本気で凄いアイテムだったから、二人とも塗ってもらったほうがいいよ」


 使ったシェーンが後押ししてくれると、助かる。

 カロンは軟膏をとって、ルカの手に伸ばした。


「ルカは鼻もね」


 ルカの鼻の頭にチョン、と塗って、くりくりと伸ばす。


「良い香り……、バラみたいな匂いがするね」


 ルカが嬉しそうに、うっとりした。

 続いてカデルの手に軟膏を伸ばす。


「カデルは(スキン)だけど、全身には塗れないし、どうしようかな」


 天使の核を隠すと言っても、体のどの辺に隠すのだろう。


(魂なら魂の中、とか? 核は……腹、とか?)


 カデルの体をじろじろ見回す。

 うまくイメージできないが、とりあえず腹なら体の中心だし、良い気がした。


「カデル、お腹出して」

「え⁉ 腹?」

「? うん。お腹に塗っておきたいかなって」


 カデルが恥ずかしそうにしながら、服を捲った。


(うわぁ、シックスパック、すげぇ! 格好良い腹、憧れる……)


 見惚れながら、軟膏を塗っていく。

 時折、カデルがぴくぴくと震えた。


「ごめん、くすぐったかった?」

「いや、うん……少しな」


 心なしか、カデルの顔が赤い気がする。


「カロンもリリムに負けないくらい罪作りだよね」


 シェーンが小さな声で零した。


(カデルもルカも、軟膏に反応ない。大丈夫ってことだ。あとは、レアンか)


 レアンなんて、天使に乗っ取られそうになっても自力で弾きそうな気がする。


(隠れるなら『五感の護り』って思ったけど、違うのかな。フェリムはリリムと冥界にいるけど。もしかして、フェリムなのかな)


 こればかりは、行って確認しないとわからない。


(夢野先生の話し方、ほとんどリリムで確定みたいだった。原作者の意見だし、天使の核はやっぱり、リリムに隠されてんのかな。とにかく冥界に行って確認するしかないか)


 リリムがメロウに乗っ取られたら、本気で『神実』VS魔王が現実になる。

 そういう事態だけは、絶対に避けたい。


「いつまでこんな場所で遊んでいるつもりなワケぇ? これだから人間は愚鈍だよねぇ。さっさとしないと、大事なものを失うってのにさ」


 目の前に、羽の生えた可愛くない犬が現れた。


「ラス? リリムと一緒に冥界に行ったんじゃないの?」

「行ったよ? 我、悪魔だから。行き来するのなんか、余裕だから」


 可愛くない犬が、胸を張った。


「ラス、もうちょっと待ってよ。まだレアンが到着してないんだから」


 シェーンが、がっかりした顔をしている。


「え? シェーンはラスがこっちにいるって、知ってたの?」

「そりゃ知ってるよねぇ。シェーンは我とフェリムの協力者だからねぇ」


 ラスが悪い顔で笑った。


「ラスとフェリムの? リリムの、じゃないんだ?」

「いいねぇ、ルカ。鋭いツッコミじゃん」


 ルカとラスが握手して何かわかり合っている。

 ちょっと似た二人だから、きっかけがあれば仲良くなれるんだろう。


「フェリムとシェーンはリリムを助けたい。我は今、リリムに死なれたら困る。だから、協力することにしたんだよ」

「何、それ。リリムが死ぬって、何!」


 カロンはラスを鷲掴みにした。


「リリムの中にメロウの天使の核がある。最初に気が付いたのは、前任の冥界の魔王ハデスなんだけどね。リリム本人は気が付いてない」

「そんな、リリムの中に……」


 力が抜けて、ラスから手が離れた。


(夢野先生が指摘した、一番可能性が高い場所にあった。やっぱり、リリムだった)


「天使の核を壊すと、それを持っている人間も死ぬ。今の状況だと、リリムを殺さないと、メロウを殺せないワケ」


 ラスがちらりとカロンを眺めた。


「殺さずに、メロウの天使の核だけ取り出せる! 俺が持ってる軟膏なら!」

「おぉ! さすが『神実』だね。良いアイテム持ってるじゃん。じゃ、早速行こうか」


 ラスがカロンの手を引いた。


「行くって、冥界に? ラスが連れて行ってくれんの?」

「そうだよ。人間がどうにかするの、これ以上、待ってらんないよ。リリムは自分の手でメロウを殺すつもりでいるんだからさ。もし自分の中に天使の核があるって気が付いたら、自分で自分を殺しかねないからね。急がないとじゃん?」


 寒気がして、全身が震えた。


「早く、行こう。俺たちでリリムを助けなきゃ」

「リリムの作戦に乗っかってる振りして連れて行くから、皆も合わせてね~」


 ラスが足下に魔法陣を展開した。

 カロンは首を傾げた。


「リリムの作戦て?」

「カロンたちを『魔実』の魅了で虜にして、メロウを誘き出す作戦だよ。『神実』と『五感の護り』を欲しがってるメロウを誘き出すには、アリな作戦だよね。あのリリムが魅了を解禁したのは、意外だったけどねぇ」


 魔法陣から魔力が迸る。

 足下が黒く染まった。

 魔法陣が動き出して、シェーンが慌てた。


「ちょっと待って、ラス! レアンは?」

「レアンは別件で連れて行くから、今は四人で行くよ~。いない人は後回し~。これ以上、待ってられないよ~」


 真っ暗な闇が、煙のように舞い上がる。

 地面が消えて、体が落下した。


「え? 落ちんの? 嘘だろ!」


 体が闇に堕ちていく。


(この感じ、この世界に来た時を思い出す。うわ、気持ち悪くなってきた)


 気を失いそうなカロンにカデルが腕を伸ばした。


「カロン、大丈夫か?」

「ん……ちょっと、しんどい」

「俺が抱いているから、摑まってろ」


 ぎゅっと胸に抱かれて、温かさを感じた。

 一人で落ちた時とは違う安心感だ。


(天使の核は、リリムの中にあった。メロウは自分の魂も隠したのかな。メロウの魂がリリムの中に入り込む前に天使の核を壊せば、何とかなるよな)


 足下に視線を落とす。

 一滴だけ零れたインクの染みのような不安が、胸の中に滲んでいた。

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