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華麗なる闇堕ちラスボスを全うしたい夜神くん  作者: 霞花怜(Ray)


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31. カデルの覚醒

 すさまじいスピードで遠のくリリムの背中を見送って、カロンは途方に暮れた。


(そんな……、一人にされても、どうしたらいいのか)


『五感の護り』を覚醒するには、項にキスして魔力を吸い上げる。

 リリム夜神に教わった方法であり、実際、カロンもリリムにその方法で覚醒してもらった。


(小説の中じゃ、強い抱擁だったのに。そこも難易度、上がってんじゃん)


 抱き付けばいいなら偶然を装って出来そうだが。


(偶然、項に吸い付くは、有り得ないだろ。どうすんの?)


 座ってぼんやりと考えていたカロンの後ろに、カデルが座り込んだ。


「カロン、疲れたなら寄りかかっていいぞ。俺はデカいから、背もたれになるだろ」


 カロンの肩を、カデルが引いた。

 体が倒れ込んでカデルの胸にすっぽりと収まった。


(あ、楽ちん……。楽ちんだけど、俺、カデルに凭れ掛かって、軽く抱かれたようになっているような)


 後ろに倒れ込ませた体を左腕で支えて、空いた右腕でカロンの体を軽く抑えている。

 逞しい胸板に触れて、ドキドキした。


「やっぱり、カロンは可愛いな。なんでか、触れていたくなる」


 カデルの手が、カロンの髪を梳く。

 くすぐったくて、気持ちイイ。


(それはきっと、カデルが(スキン)だからなんだけど。その話、しても平気かな)

 

 カロンは、ちらりとカデルを見上げた。


「あの、さ、カデル」

「ん? どうした?」


 カロンの髪を撫でながら、カデルが見下ろす。

 その目が蕩けて見えて、思わず目を逸らした。


「カデルは、会ってからずっと、俺に触れるの、心地良いって言ってくれるよね?」

「あぁ、心地いいよ。ずっと触れていたい」

「それって、カデルが『五感の護り』だからじゃないかって、思うんだ」

「……俺が?」


 驚いた声が小さく響いた。


「けど、王族からは既にレアンが(アイズ)に選ばれているぞ」

「家柄じゃない。『五感の護り』は魔法属性だよ。レアンは光で、シェーンは風だ。火属性はまだいない」


 確か、そういう設定だったはずだ。

『五感の護り』は魔法属性が被らない。だから、王族の三皇子が総て選ばれる。

 王族ファクタミリア家は『神実』の(シード)を産む家系としても秀でている。だから、生まれる兄弟も魔法属性が被らない場合が多い。

 (シード)は『五感の護り』の中から『神実』が選ぶから、王族に『神実』を取り込むためには守護者に選ばれるのが必須だ。

 王族としては一人でも多くの守護者『五感の護り』を血縁から作りたい。


「それは、そうだが。俺に適性があるのか? 俺は王族の割に平凡で、特徴がない人間だぜ」


 カロン神木の、キャラブレアンテナが反応した。


(カデルはもっと自信満々な俺様キャラだ。『五感の護り』だって、(シード)だって、自分から俺を選べって主人公に迫るようなキャラだった)


 最初に会った時からちょっとした違和感はあったが、レアンやフェリムの強烈なキャラブレに気持ちが全部持っていかれて気が付かなかった。


「適性なら、あると思う。俺はカデルの優しい言葉とか、触れ方とかに癒されてるから」


 そっとカデルの手を握る。


「……そうか。カロンがそういうなら、あるんだろう。守護者になったら、カロンを一番近くで、守れるな」


 嬉しそうな声が聴こえて、顔を上げた。

 声よりずっと嬉しそうな顔をして、カデルが笑んだ。

 その顔が可愛くて、ドキドキする。


「ぁ……、俺は、カデルを、覚醒させられるんだけど、試しても、いいかな?」

「あぁ、良いぜ。どうするんだ?」


 カロンの脇に手を差し込んで持ち上げると、前を向かせる。

 小さなカロンの体は、カデルと向き合う形になった。


「あ、あのね、項に、……キス、するんだけど」


 言うだけで、恥ずかしい。

 頬を赤らめたカデルが、カロンの体を抱き寄せた。


「これで、しやすいか?」


 体が倒れて、カロンの顔がカデルの背中に回る。

 太い首が、良く見える。


「うん、じゃぁ……、するよ」

「あぁ、頼む」


 日焼けした項に、指でするりと触れる。

 ピクリと小さく、カデルの肩が動いた。

 

(き、緊張する。けど、思い切って!)


 カロンはカデルの項に唇をあてた。

 吸い付いて、魔力を吸い上げる。

 カデルの腕が強張って、カロンを強く抱きしめた。


「ぁっ……、っ!」


 カデルが、耐えるように歯を食いしばる。

 カデルの体の奥の魔力を、更に吸い上げる。

 舌で肌を舐めあげて、ちゅっとキスすると、唇を離した。


「どう? 辛くない?」


 顔を覗き込もうとしたら、肩を引かれた。

 カロンに顔を寄せて、カデルが頬にキスをした。


「カロンの本当の魔力は、強くて温かいんだな。今ならカロンが『神実』だと、実感できる。俺は『五感の護り』(スキン)だ。だから、カロンに触れると心地いいのか」


 カロンの頬を優しく撫でるカデルの眼は、いつもより蕩けていた。


(良かった。無事に覚醒できたみたいだ。(スキン)って自覚できたみたいだし……)


 カデルの顔が近付いて、額や頬にキスを落とす。


「俺が『五感の護り』なら、(シード)になれる可能性も、あるよな」

「そう、だね」

「カロンの(シード)になりたい。俺を選んでくれ、カロン。初めて見た時から、一目惚れだった」

「……え?」


 あまりに突然の告白に、カロンは固まった。


(待って、流石に会って三日でこのイベントは……。いやでも、小説の中のカデルは確か、会った瞬間に主人公に俺を選べって迫るけど。あの展開が、今ってこと?)


 小説の中のカデルは俺様だから、冗談ぽくも本気でそんな告白をするが。

 この世界のカデルの言葉は絶対に冗談などではない。


「カロンが『神実』なら、可能性はないと思った。だけど、俺が『五感の護り』になれたなら、俺を選んでくれたなら、俺にも可能性があるだろ?」

「そう、だけど。でも、そんな急には……」


 カデルがカロンを強く抱きしめた。


(俺が選んだわけじゃない。俺はただ、知っていたから。カデルが『五感の護り』だと知っていたから、覚醒させただけだ)


 小説の中のカロン=ラインのように、感じて選んだわけじゃない。

 

「そうだよな。会ったばかりで急に言われても、困るよな」


 カデルが抱く腕を緩めた。

 悲しく笑んだ顔が、カロンを見上げた。


「これから! 仲良くなろうよ。まだ会って三日だし、俺ももっと、カデルを知りたいからさ。自分が『神実』だって実感、あんまりなくて、(シード)とかも、よくわかんないんだ」


 ほとんど正直な気持ちだ。

 この世界の何もかもに、まだ全く慣れない。


「うん、そうだな。仲良くなろう。俺はいつでもカロンを想っているから。何かあれば、俺を頼れよ」


 あまりにも真っ直ぐに正直に向けられる気持が、嬉しくてこそばゆい。

 素直に嬉しいと思っている自分と、ドキドキが止まらない胸が、どうしようもなく甘く締まった。

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