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22. 『神実』の覚醒

 ベッドサイドに立ち、最早、夜神の顔をしたリリムの頬に触れる。


(俺が触れた程度でリリムが起きるとは、思えないけど。夜神くんがこのままなのは、俺も嫌だな)


 折角、一緒に『魅惑の果実』の世界に転生したのだから、色んな話をしたいし、一緒に経験したい。


(それに、夜神くんが何をしたのかも聞きたい。何をどうしたら、悪役令息の立場でここまで主要キャラたちを誑し込めるのかを、一番聞きたい)


『五感の護り』たる五人が揃ってキャラブレレベルで変化しているのは、どう考えてもリリム夜神の影響、としか思えない。

 この気持ちは最早、興味だ。カロン的にというより、神木的に知りたい。


 頬や頭や肩に、スリスリと触れてみる。

 案の定、触れた程度では、リリムは目を開けない。


「あの、何かヒントになるような話とか、ないですか? 些細なことでも何でもいいので、リリム様が眠る前の話、聞かせてください」


 こういう場合、小説やゲームだと何かキーになる行動があるはずだ。

 カロンは五人を見回した。


「それなら、やっぱりレアンとシェーンが知ってるんじゃないの? 僕らは旅行に行く前のリリムしか知らないもん。リリムが『魔実』だったことも、知らなかったんだからさ」


 ルカが、やっぱり不機嫌気味に吐き捨てた。


「ルカ、怒るなよ。けどまぁ、俺も多少は、教えてほしかったとは思うぜ。責められても仕方ないな」


 カデルがフォローしながら、ちょっとだけ怒っている。

 レアンとシェーンが気まずそうに顔を逸らした。


「最近のリリムは、俺と剣の練習したり、フェリムと勉強したりしていたな。シェーンとルカと礼儀作法の見直もしてた。あとはレアンと魔法訓練もしてたよな」


 カデルの話に、カロンは妙に納得した。


(見事に主要キャラに絡みにいってる。この世界を知るために努力したんだろうな。何やってるの、夜神くん。君が転生したのは努力しない悪役令息なのに)


 あまりにも夜神すぎて、意外ですらない。


(だけど夜神くんは、『魅惑の果実』を知っているはずなのに。そこまで努力して知ろうとしなくても……)


 カロン神木は、不意に思い出した。


『主人公陣営は格好良いのに、悪役が物足りない。リリムには、頑張ってほしいと思う』


 夜神がリリムを気になると言った理由は、頑張ってほしいからだ。


(つまり夜神くんは、リリムを自分の理想の悪に近付けるために……。完璧で格好良い悪役に自分がなるために、努力を?)


 眠るリリム夜神の顔を見詰める。

 もはや夜神でしかないその顔は、夜神がリリムというキャラを喰い潰した現状を物語っていた。


(マジで何やってるの! これじゃストーリー変わっちゃうじゃん⁉ リリムは中途半端だから悪魔に魅了されたり利用されたりするんでしょ。夜神くんじゃ付け入る隙がなさすぎじゃん!)


 カロン神木はベッドに突っ伏した。

 変わっちゃうというか、物語は既に冒頭から変わっている。

 それもこれもリリム夜神の努力の賜物なのだろう。


「えっと、カロン、大丈夫? 情報が足りないよね。俺たちも今、思い出すから」


 シェーンが気を遣ってカロンの肩を摩ってくれた。

 そういう意味で突っ伏したわけではないが、説明ができない。


「確か、森が光に包まれる前に、リリムが何か呟いてたんだ。よく聞き取れなかったんだけど、名前のような、単語のような……。カミキ、ヒナタ? とか言っていた気がする」


 ドキッとして、カロンは顔を上げた。


(俺の名前、何で……、もしかして、俺をこの世界に呼んだのは、夜神くん?)


 自分よりずっと先に転生していた夜神が、神木をカロンとして呼んだ。

 どういう力が働いたのかわからないが、転生者が特別扱いされるのも、力を持っているのも、異世界転生ものの小説や漫画では、特に不思議ではない。

 有り得なくはない話だ。


(そんなの……、こんなぐちゃぐちゃにしちゃった世界に呼ばれたって。レアンはカロンを好きじゃないし、フェリムはキャラブレしてるし、他の皆だって、リリムが大好きだし)


 カロンはリリムの頬を両手で包んだ。


(それでも、夜神くんは俺に会いたいって思ってくれたのかな。俺をここに呼びたいって、思ってくれたのかな)


 異世界に転生した後も、自分を想ってくれたんだろうか。


「俺も、会いたかったよ。配信なくても、毎日でも会いたいって、思ってたよ、夜神くん」


 リリムにだけ聞こえるように耳元で小さく囁いた。

 額をこつんと押し付ける。

 ぼんやりと温かさを感じた。


 リリム夜神の指が、ピクリと動いた。

 組んでいた指が解けて、ゆっくり持ち上がる。

 カロンの体を抱き寄せた。


「え? やが……リリム、様?」


 リリムの目が薄らと開く。

 その目が、カロンを捉えた。


「神木……?」

「そうだよ、俺だよ」


 リリムが呟いた名を食い気味に答えた。

 その名前について質問されても、上手く答えられない。

 リリムのはずの夜神が、薄らと笑んだ。


「……会いたかったんだ。会って話が、したくて」


 リリムの腕が強くカロンを引き寄せて、抱きしめた。


「うわ! ちょっと、待って」


 ベッドの上に添い寝するような姿勢になった。


「名前を、思い出したくて、笑った顔を、見たくて」

「え? リリ……ぅわぁ!」


 リリムの唇が、カロンの項に吸い付く。

 強く吸われて、腹の奥がぞわりとした。

 胸の奥が熱くなって、知らない力が吹き出す。


「ぁ……、や……、あつい……」


 目に涙が溜まって、何も見えない。

 リリムの舌が項を舐めて、熱い唇がようやく離れた。

 吸われた項が、ずっとゾワゾワしている。


 目尻に熱い何かが吸い付いた。

 涙を吸われて、リリムの唇だとわかった。


「ぁ……、はぁ……、リリ、ム……」


 何が起きたのかわからなくて、ぐったりと横たわる。

 リリムがカロンの指に指を絡めた。


「君を待っていた、カロン=ライン」


 カロンの頭を、リリムが優しく抱いた。

 目の前で微笑んだ夜神の顔が、何故かリリムに見えた。

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