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13. シェーンの御役目

 秘密の相談をした日のうちに、レアンが二人分の休学申請を出していた。

『神実』の気配を感じるっぽい。的な、ぼんやりした言い方で、カロンが木こりの仕事をする森の場所をレアンに伝えた。

『魔実』のリリムがいうのなら、とレアンは信じてくれた。

 休暇申請を出した二日後には早速、出掛けようという手筈になった。

 レアンは守備が良い。


 カロンが住んでいる村は学院がある王都からは遠い。

 数日間の旅になりそうだ。

 そんな風に考えながら支度を整えていたら、ドアがノックされた。


(レアンか。もう準備が済んだのかな。何をしても早い)


 リリムは何も考えずに扉を開けた。


「すまない、レアン。僕のほうは準備がまだ……」


 扉を開けた先に立っていたのは、レアンではなく、シェーンだった。


「レアンじゃなくて、ごめんね、シェーンだよ。がっかりした?」


 シェーンが苦笑する。


「ぁ……、すまない。レアンと約束をしていたから、てっきり、レアンかと……」

「ふぅん、約束か。二人で出掛けるの? 揃って休学届けを出していたよね」


 シェーンがリリムを退けて、部屋の中に入って来た。


「待て、シェーン。今は、ちょっと」


 ベッドの上に置かれた大きなバッグと、中途半端に詰め込まれた荷物をシェーンが眺めている。


「皆に内緒で、二人だけで何を企んでるの?」

「企んでいる、わけでは」


 思いっきり企んでいるから、否定しづらい。

 悪さしようと思っている訳ではないが、少し後ろ暗い気持ちになった。

 そのせいで、何となく目を逸らした。

 逃げた視線を追いかけて、シェーンがリリムを覗き込んだ。


「最近のリリムは、面白いね。後ろめたさが、すぐ顔に出る。俺に隠し事をしてますって、顔に書いてあるよ」


 ドキリとして、すぐには顔を上げられなかった。


「隠し事は、しているけど。悪いこと、しようとは思っていない」


『神実』を探しに行くと、シェーンになら、話してもいいのかもしれないが。まだ『五感の護り』として覚醒していない今のシェーンには話せない。

 リリムの覚醒は勿論、レアンの覚醒すら、誰も知らないはずだ。


 シェーンが、クスクスと笑った。


「本当、正直だね。嘘ついて誤魔化せばいいのに。一月前のリリムなら、頭ごなしに怒鳴って、誤魔化していたのにね」


 小説の中のリリムなら、そうするのだろうが。

 その解決法は、リリム夜神の中にはない。

 かといって、上手く誤魔化す言葉も咄嗟に浮かばない。結果、沈黙になった。


 小さく息を吐く気配がして、シェーンの腕がリリムに伸びた。

 腰を抱かれて引き寄せられて、ドキリとする。

 思わず顔を上げたら、思ったより近くにシェーンの顔があった。


「リリムは覚えていない……、いや、知らないかな。ルドニシア家が、どんな家柄か」

「侯爵家で、王族の親類、だろ」

「そうだよ。でも、それだけじゃない」


 シェーンが、リリムの耳に唇を寄せた。

 ビクリとして引けた腰を、シェーンが押さえつける。


「ルドニシア家は王族の護衛で間諜なんだ。闇属性のヴァンベルム家が謀反を起こさないよう見張る役割もある」


 そういえば、そんな設定があったかもしれない。

 闇属性は派生が悪魔だから、むやみに王族に近付かないよう、目付がいた。ヴァンベルム家は地位を与えられながら監視される家柄だ。

 光属性や自然属性とは、微妙に扱いが異なる魔法属性だ。


「僕が、レアンに何かすると、疑っているのか?」


 このタイミングで御目付役の家柄のシェーンが接触してきたのは、そういうことなんだろう。

 リリムがレアンに危害を加えると懸念されている。


「順当に考えればそうだし、俺はそういう名目でリリムに会いに来た。疑われても仕方がない立場なのは、リリムにも理解できるよね?」


 シェーンが耳元で囁くから、息がかかってゾワゾワする。

 変な声が出そうになって、口を引き結んだ。 

 返事の代わりに、小さく頷く。


(ほんの少し前のリリムなら、レアンに危害を加えるような真似をしても、誰も不思議に思わなかったろう。疑われるのは、仕方がない)


 シェーンが、リリムの耳に息を吹きかける。


「ぁっ……」


 体の力が抜けて、シェーンの胸に倒れ込んだ。


「俺はね、今のリリムを疑ってはいないよ。今のリリムに、そんな真似はできない」


 リリムの体を抑え込んで、シェーンが自分の体に押し付ける。

 指先でリリムの髪を弄んだ。


「じゃぁ、なんで」

「レアンがリリムを奪いそうだから。子供の頃、レアンにリリムを紹介したのは、俺なんだ。後悔しているよ。会わせなければ良かったって」


 そんなのは、今更だろうと思う。

 学院に入学すれば、どのみち顔を合わせていた。

 遅いか早いかの話で、特に問題でもない。


「シェーン、僕は、レアンに危害を加えない。だから、もう放してくれ」


 これ以上、体を接触させていたら、シェーンを覚醒させてしまうかもしれない。

 胸を押して離れようとしても、シェーンの腕が拘束するように絡んで、離れられない。

 瘦せ型の細身なのに、思った以上に力が強い。


「そんなに俺から離れたい? レアンとは、どこまで何をした? こんな風に抱き合ったり、した?」


 ここ数日のレアンとの接触を思い出す。

 何度か抱きしめられたが、挨拶か、不可抗力な拘束的な意味合いだった気がする。


「挨拶とか。今の、シェーンのように、逃げないように抑えられたりは、した」

「ふぅん、そう。俺のコレも、逃げないための拘束だと思う訳だね」


 乾いた声が聴こえて、顔を上げた。

 シェーンの目がリリムを見下ろす。


「放してほしい?」


 問われて、リリムは素直に頷いた。


「レアンとはもう、キスした?」

「は? するわけがない……」


 咄嗟に答えてから、考えた。

 レアンは既に:(アイズ)として覚醒しているから、今更する必要がない。


(幼い頃のリリムは、レアンとキスしたようだけど。僕は覚えていないというか、知らない。だから僕はしていないけど、それもした内に入るんだろうか)


 微妙に目を逸らしたら、顎を持ち挙げられた。


「本当かな? 噓を吐いている顔だね。今のリリムは顔に出やすいんだから、嘘を吐いても、バレちゃうよ?」

「嘘は、吐いていない。僕は、していない」


 少なくとも、この一月ではしていない。だから嘘ではない。


「僕は、ね。レアンからは、されたってコト?」

「挨拶程度の、軽いのなら。シェーンがいつも、する感じのキスだ」


 シェーンの腕が、ピクリと震えた。


「挨拶、か。正直なだけじゃなくて、かなり鈍感になっちゃったね、リリム」

 

 シェーンの顔が、更に近付いた。


「だったらさ、リリムから挨拶してよ。リリムが俺にキスしてくれたら、放してあげる」


 ドキリと、胸が跳ねた。

 鼓動が徐々に早くなる。


(シェーンは、気が付いているのか? 自分が『五感の護り』だと気が付いて、覚醒して欲しいと、求めているのか?)


 レアンの話通りなら、『五感の護り』はキスで覚醒する。


(小説の中では『神実』の強い抱擁で覚醒していたけど。それなら、『魔実』の僕と抱き合っているシェーンは、今ここで覚醒しているはずだ)


 これだけ強く抱き合っていても、今のシェーンは覚醒している様子ではない。

 小説の設定より、レアンの言葉のほうが正しいようだ。


(どうするべきだ? ここで僕がシェーンを覚醒させたら、カロンとの絆が……。しかし、謀反を疑われたままでは、僕自身も危険だ)


 悩みあぐねるリリムを、シェーンが熱を帯びた瞳で見下ろす。

 見上げていたら、その瞳に吸い込まれてしまいそうになった。

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