プロローグ
私の名前は三枝 錬。
現代日本に生きる錬金術師だ。
胡散臭いかもしれないが、正真正銘の錬金術師である。
ただの石を黄金に変えることもできるし、ファンタジーなものを生成することも可能だ。
そんな現代にひっそりと生きる錬金術師である私だが、この度、異世界転移を果たしてしまった。
それも学校のクラスの連中と一緒にだ。
正直に言って仲がいい連中ではないため、緊急事態において信用は全くしていない。
それに魔術結社に所属しているクラスメイトも存在している。
魔術結社は錬金術師からするとヤクザやマフィアなどの犯罪集団と同じ連中だ。錬金術師が作った魔術の媒介となる魔力結晶石や秘薬の類を奪いにくるやばい連中と言えば分かりやすいだろうか。
簡単に言うと敵対組織である。
そんな連中と一緒に異世界に転移されてしまった。
緊急事態と言って差し支えない。
さて、異世界に転移してしまった原因だが、非常に簡単だ。人為的に召喚された。
それも何たら帝国と呼ばれる異世界の中では大国にあたる国の魔法使い集団に召喚された。
まあ、テンプレというやつである。
実は現代日本における錬金術師や魔術結社などが所属する日本魔術界の中では、失踪事件が近年相次いでいたため、ほとんどの組織が対策を取っている。
ただし、それが真っ昼間に行われたのは想定外だった。今までは夜中や人気がいないところで召喚が行われていたため、予想外という事もある。昼間に対策を講じることを怠っていたというより人目に付くところで魔術を使うわけにはいかない。
話しを戻すが、私たちを召喚した理由は何たら帝国の皇帝曰く世界を侵略する魔王を倒してほしいとのこと。ここもテンプレである。
ほんとは嫌だと言いたいが、魔術結社に所属しているクラスメイトの八代 昇が魔王を倒すことを承諾してしまう。
昇は私が錬金術師ということは知らないが、昇のことは日本魔術界の中では有名だ。
魔術師として100年に一度の逸材や、魔術関連の製造物を生産している錬金術結社を陥落させて服従させたなど、錬金術師からしたら悪い噂のオンパレードだ。
実際に陥落させられた錬金術結社は今や散り散りになり、結社を形成することができない。
そのため、錬金術師たちは魔術界において身分がかなり低いし、低賃金で魔術関連の製造物を生産し魔術界に供給を行っている。
魔術師からすると錬金術師は脅威になりうる。それを体現してしまったのが悪かったと言えばそれで言い訳のしようないが、結社を陥落させることはあまりにも事態が性急過ぎだ。
憎しみが頭の中によぎるが、今はそれどころではない。
魔王討伐を昇の奴が承諾し、他のクラスメイトは周りの空気に飲まれてしまっている。
一部のクラスメイトは魔法が使えるとはしゃいでいる。
早急にこのグループから離れよう、そう決断させるには十分な状況だった。
2ヶ月程この世界における魔法や常識、戦闘訓練を学び、その後に戦線に送られた。
高々、2ヶ月ちょい訓練した新兵が戦線で活躍できるのかと思ったが、案外活躍できたいた。
しかし、そこにはある理由が存在する。
転移者はこの異世界では耐久値がお化けになるらしい。そのため魔王軍からの攻撃を受けても何度でも立ち上がる。相手は槍や剣を振るっても砕け、魔法を放っても爆風の中から無傷で現れる。
そんな奴らが戦線に現れたので、相手も怖気づいてしまう。
そして戦線は構築状態になった。
さっさと攻めて魔王軍を壊滅させるべきだ。
そう思ったのは私だけはない。現代日本で魔術師同士の戦闘経験がある昇は戦場で無双していた。
ただ、目付け役として帝都から随伴してきた魔法師曰く、転移者が持つ耐久値を無効かする術が魔王軍にあるみたいだ。
実際に帝国は何人も召喚して戦場に送ったが、ある程度戦線を押し上げたところで、転移者が戦線で打ち取られているとのことだ。
そのため、帝国軍上層部としては転移者がいれば戦線を押し上げることは簡単とみているが、魔王軍と決戦して打ち破れるかというのは疑問符が付くそうだ。
だからこそ、目付け役の魔法師は慎重論を唱えている。
ただ、昇からしたら魔術師としての自信がある。慎重論を押し切って戦いに出る。
昇に触発されたクラスメイトたちも一緒に出陣する。
もうやめてくれと言いたいが、このグループを離脱するためには機を見る必要がある。下手に団結力のある今、戦場に出たくないといっても爪弾きにされるだけだ。
戦場に出た昇は、まさに鬼神のごとき強さだった。
周囲一帯を焦土とかす炎属性の魔術を連発して、魔王軍を構成する無数の虫のような大群を消し炭にしていく。空中にも蝙蝠の羽根を生やした悪魔のような人型がいたが、昇が魔術を放つと空中にいた魔王軍を追尾してすべて叩き落していった。
だが、ある地点に踏み込んだときにそれは起こった。
体が重い。全身から魔力が抜けていく。
「すぐに退避しろ!!」
昇の声が聞こえ、クラスメイト達が必至で後退する。いままでのように相手の攻撃を受けても無傷ではなく、クラスメイト達も傷ついている。
私は敵の魔法を正面から受けて”信号”が途切れた。
帝都にあるとある廃墟。
「義体で体を動かすのはやっぱり疲れる。ただこれでやっと昇たちから離れることができる。」
私はこの世界に来てから、本物と見まがう義体を創り出し入れ替わって行動してた。
「さて、日本に帰りますか」
そう独り言を呟いて、魔術式が書いてある床に手を当てると景色が一瞬で変わる。
日本に戻ってきた。
戻ってきた場所は家の地下室。地下室から出てこの家の主の”創造主”にこれから会う。
「創造主。只今戻りました。」
貴族の書斎を思わせる部屋の中心の椅子に腰かける見たは16歳ぐらいの白髪の男性に語り掛ける。
「ああ、戻ったか。錬。異世界はどうだったかな?八代家の倅も巻き込まれたと聞いたがいい気味だ。」
「はい、特殊は空間ではありましたが、我々の悲願である上位者がいるか可能性があるかと」
「そうか。あとで記憶を見せてもらう。今はゆっくりと休め。」
創造主がゆっくりと近づき私の頭に手を置いたとき私の意識が真っ暗になる。
次に目を覚ましたのは、屋敷の一室である私の部屋のベットだった。