4.未成年飲酒!
ギルドにてスライムコアの換金を完了したタローは遂に身分証明書と異世界のお金を手に入れた。身分証明書はタローと名前だけが書かれている非常にシンプルなものだ。
お金は銅貨78枚を得た。ギルドに渡したいくつかのスライムコアは綺麗な状態だった。受付に食事と宿の相場を尋ねるとギルドを出た。
「腹も減ったし、隣の酒場でも行ってみようかな。お酒も飲んでみたりして」
タローは元の世界では高校生であったため飲酒の経験はない。正月にお屠蘇を口に含む程度だけだ。
ギルドに併設されている酒場の扉はギルドのものよりも随分とボロボロだ。酒に酔った男たちがぶつかっているせいだろう。
ギィギィと軋む扉を開けて中に入るとまだ陽も沈む前から大勢が酒に溺れていた。
タローは賑わっているテーブルを避けてすかすかのカウンターに座った。カウンターの向こうにいた女性が彼に気づいて声をかける。
「あら?見ない顔ね。ここは初めてかしら?」
女性はタローよりも随分と小柄で屈強な男たちとは対照的だ。しかし、彼女はこの酒場の店主だった。
「はい。今日この街に来まして」
「そうなんだ。何もないとこだけど、ゆっくりしていってよ」
「ありがとうございます」
「それで、君はお酒?それとも食事?」
女性にタローは尋ねられる。彼はポケットから10枚の銅貨を取り出してカウンターの上に置いた。
「これで食事とお酒を1杯ください」
「はいよ。酒は強いのがいい?」
タローはこの異世界で誰に迷惑をかけることもないが、度数の強い酒を不安に思って弱い酒を頼んだ。ちなみに酒場の食材はギルドのクエストによって仕入れが行われている。そのため食事はかなり安く食べることが出来た。
彼は食事が届くまで酒場の中を眺める。
酒を煽っている男たちのテーブルの上には、木の実類とチーズ。そして動物からそのまま切り出されたように見えるブロック肉。残念なことに骨はついていないようだった。
興味が尽きることは無かったが、やがてタローの前に料理が置かれる。パン、サラダ、シチューの3種類だ。その隣には木樽になみなみと注がれたビールらしき液体。泡が側面を伝ってカウンターを汚した。
タローは箸を探すが見つからない。当たり前だ。サラダの乗った皿を避けると下にフォークとスプーンが置かれていた。
「いただきます」
異世界だというのに当たり前のように手を合わせて小声でつぶやいてサラダを口に入れる。シャキッとしたみずみずしさは伝わるが、改良に改良を重ねた野菜に慣れた彼にはいささか青臭すぎた。
タローはビールらしきもので流し込もうと木樽を傾ける。
「ぶっ!」
また別の苦々しい味にタローは驚いて吐き出しそうになるのを咄嗟のところで口を閉じる。その代わりに鼻からわずかに漏れた。
「にがぁ・・・」
タローは酒を頼んだことを後悔した。口内に残る辛みと食道を通るアルコールの気持ち悪さは彼にはまだ早かった。
わずかに減った酒を端に除けると口直しにパンをかじる。ふわりと香ばしさが鼻を抜けようとしたが鼻腔に貼りついた酒がそれを許さなかった。
食感は食べなれた食パンよりも堅い。その代わりに麦の味をしっかり堪能することが出来た。
次にシチューをすくって口に入れる。彼はその味に目を見開く。長時間煮込まれたシチューは野菜の甘みを存分に引き出している。繊維がほどけるように崩れる肉は牛肉に似た味がした。
パンをちぎってシチューにつけて食べた。これもまた格別の味だ。シチューを吸って柔らかくなったパンを噛むとじわりとシチューの味が広がる。
タローは勢いよく完食しようとするが視界の端に大量に残った酒がうつる。彼は覚悟を決めて3回に分けながらも酒を飲み干した。チェイサーとしてシチューをすすった。
「ごちそうさまでした」
酒を飲みほしたタローだったが体内がぐるぐると揺れているような感覚を覚えていた。素晴らしい味の食事ではあったが、そのすべてを酒によって台無しにされた気分だ。
タローは疲労にも似たふらふらとした足取りで酒場を出た。