3.スライム討伐!
街の外は草原が広がっている。
スライムはほぼ透明であるので草に同化して見つけにくい。それ以外は特段注意するような魔物ではない。顔面に飛びついて窒息させてくることもない。
タローは目を凝らしながら足首ほどの高さの草をかき分けて草原を歩き回る。
スライムを見つけるコツは浮いているように見える小石を探すこと。しかし、タローはなかなか探し出せないままに時間だけが経っていく。
「見つからないなぁ」
ため息なのか息切れなのか分からない二酸化炭素を吐きながらタローは歩く。ずっと下を向いてばかりで首を痛めてしまいそうだ。
「いっそのこと一帯を燃やしてしまおうか」
とんでもないことを彼は言い出した。異世界に降り立った時に魔法を行使して焦ったことを忘れているようだ。実に浅はか。
「やってみるか。その前にちゃんと火を消せるかどうか水魔法を試してみよう。ウォター!」
タローが叫ぶと眼前に大きな水の塊が出来ると水風船が割れるようにすぐに弾けた。これも「ファイア」と同じで具体性に欠けている。例えば「シャワー」「レイン」と言ったところだ。ただし今、彼の目の前に現れた水は飲むと美味しい。
しかし、水浸しとなった草原の中ほどに浮いているように見える小石があるのをタローは発見する。
水の重さで草が横に倒れて隙間にいたスライムが潰れて露出したのだ。
「あれ?これじゃないか?」
偶然倒したスライムからコアを拾いあげる。コアはビー玉くらいの大きさで色は黒い。コアを失ったスライムは地面の染みになった。
「やっと1個だ。これで実物見れたから探しやすいぞ」
彼は手に入れたコアを傷つかないようにポケットにしまうとスライムを再び探し始めた。スライムコアの傷は自分では判断出来ないので少なくとも3個、今夜の食事と宿を考えるとどれだけあっても足りないくらいだった。
「むむむ・・・」
タローは目を細めて草の隙間に視線を往復させる。だんだんと風に揺れる草花が歪んで見えてきてしまっている。彼は眉間を揉んで一息つくとすぐに視線を地面に戻した。
まだ太陽は頭上にあるが日没までには街に帰りたい。タローはその一心でスライムを探し続けた。
「いたぁ!」
タローはついに2匹目のスライムを見つけた。たかがスライムを見つけただけで大学に合格したような喜びようだ。
彼は静かに近寄ってバッタを手で摑まえるように素早くコアを引き上げる。そして、スライムは地面の染みとなった。
「でも、効率悪いよなぁ」
タローの頬には汗が流れていた。単純な作業だが集中力をそれなりに要する。たかがスライム、されどスライム。異世界初挑戦の彼は楽しむと同時に疲れも溜まっていた。
「もう1回水魔法で押し流してみようかな。ウォーター!」
先ほどよりも少し大きな水の塊がタローの前に生まれると辺り一帯を水流で押し流した。すると幸運なことにスライムの群れに直撃したのか、大量のスライムコアが露出して見えた。
「きもっ!おえぇ!」
上から見た図はまるで頭だけのオタマジャクシが流されていくようだ。タローは気持ち悪さのあまりに嗚咽を漏らした。
「はぁはぁ、でもラッキーだ。これで今日の宿くらいは確保できるだろ。多分」
タローはコアを潰してしまわないようにポケットにしまっていく。結果的にズボンの左右のポケット、上着の右のポケットまでが埋まる。
個数にして50個を優に超えた。
タローは気分よくスキップで街に帰ろうとするが、すぐにコアを割らないようにと慎重に歩いた。
こうしてタローの初めてのクエストは幸運によって成功した。