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不思議でお菓子な夕陽屋  作者: 響ぴあの
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事実が消える消しゴム+不幸の手紙セット アイドルの場合

 ミユは地元のアイドルグループの一員として活躍中の中学校1年生だ。元々は、内向的で引っ込み思案を直したいと、母親がミユを芸能事務所に入れたのだった。習い事感覚で、歌やおどりのレッスンをしていたのだが、半年前、これから売り込んでいくというアイドルグループの一員になった。しかし、アイドルを目指すだけあって、メンバーはみんな美人でかわいいし、気が強く負けず嫌いだ。そんな中で、ミユのような地味で、ダンスも歌も下手なメンバーは、彼女たちの中では足を引っ張る存在になってしまった。ミユは辞めようと思ったのだが、途中で投げ出すなんてもったいないと母親に怒鳴られてしまった。


 アイドルはミユのお母さんの夢だったようだ。夢を娘にかなえてほしいと強く願っているようで、絶対にやめることはダメだと言われてしまった。いじめの話をしても、売れたらみんなが注目するから、もう少しだけがんばれとたしなめられた。中学校でも親しい友達もいないし、所属しているアイドルグループは、まだまだ認知度も低い。


 最近、グループ内のいじめがエスカレートしているように思う。ミユは、4人グループの一人なのだが、ミユ以外の3人はとても仲が良く、とてもじゃないが、これから仲良くなれる要素もない。しかも、みんな上昇志向があって、これからどんどん有名になってヒット曲をだしていきたいと夢はとてつもなく大きい。


 ミユの心の中で、少しずつだが、もっと世間に認められたいという願望が芽生えていた。こういった活動をする中で、芸能人として売れたら、どんなに素敵な生活が待っているのだろうと、だんだん興味がわいてきた。社長をはじめ、大人たちは売れっ子にはとても優しいだろうし、お給料だってものすごくたくさんもらえるだろう。


 ミユは、一人のアイドルとして売れてみたいと、本来の地味なキャラクターにしては大胆なことを考えるようになっていた。最近は、メンバーからの無視、悪口は日常茶飯事だし、物を隠されたり、捨てられたりすることも何度もあった。もう、グループ活動なんて私には合わないのだと思っていた。でも、アイドルという仕事はしてみたい。だから、個人でアイドル活動がしたい。この世界に入ってから少しずつそう思いはじめていた。だから、なんとか続けることができたのだと思う。いつかメンバーをを見返してやりたい。そう思ったのだ。


 うわさの都市伝説を少しだけ信じていたミユは、半信半疑でたそがれどきに思いを強めた。


 すると、赤とんぼが大量に発生したかのような夕陽に囲まれたと思った瞬間、目の前にレトロな古びたお店が現れた。うわさは本当だったのだろうか? やはり半信半疑の気持ちはまだ残っていた。おそるおそる店内に足を踏み入れてみる。


 不思議なたたずまいのお店の中には駄菓子や文房具がたくさん置いてある。レトロなにおいも漂っていた。おめんが壁一面にかけられていて、少し不気味にも思えた。


「お客さん、何探しているの?」

 目の前に現れたアイドル顔負けのきれいな少年が不気味にうす暗い店内に立っていた。


「私、アイドルになりたいの。今のアイドルグループにはいじめっこがいるの。だから、その人たちがいなくなれば、私一人で活動できるから。不思議な商品あるんでしょ?」

「いじめっこがいなくなればいいということか?」

「人をいじめる人なんていなくなればいいと思っているよ。私、平凡な人生はいらないの。芸能人になったら、目立たないといけないし、売れる人は目立つものでしょ」

「アイドルなんて何がいいんだろうね」


 夕陽は少し馬鹿にしたようなことを言う。


「とりあえず一緒のグループの3人にはアイドルを辞めてほしい。事務所もやめてほしいの」


 じっとミユの瞳を見つめる夕陽。彼は話を聞いてくれるのではないかと思い、重い口を開いてみる。


「ねえ、聞いて。私、メンバー3人にひどいいじめをうけているの」


 ミユは、いじめのことを相談できる人がいなかった。話を聞いてくれる人も誰もいなかった。親もクラスメートもみんな無関心で、誰も耳を貸してくれない。みんな自分のことばっかりだ。いつのまにか目の前の初めて会った人に心を許している自分がいた。


「いじめのきっかけになったのは、リーダー的ポジションのアミという子のせいなの。悪口を言われるようになって。それで、グループ内に私の居場所がなくなったんだ」


 夕陽はただ、真剣に話を聞いた。それがミユの冷たい心を少し溶かしていた。

「アイドルグループの名前を消したらどうなるの?」

「グループ自体なかったことになると思うよ」

「名前を消したら?」

「その人はいなかったことになる。でも、同姓同名の人は消されないから。思い浮かべた名前と顔が一致する人しか消せないのさ」


 帰宅したミユはまず、アイドルグループの名前を書いて消した。グループはなかったことになった。しかし、いじめはなくなったが、ミユがアイドルとして活躍した事実が消えただけだった。


「私、一人で活動します」

 事務所のマネージャーに勇気を出して伝えることができた!! 

 これで夢のアイドル活動を一人でできる。そう思っていたのだが、それはすぐに否定された。


「残念だが、君は個性が足りないから、1人では無理だよ」

 思ってもいなかった事務所の私への評価の低さにがっかりしてしまった。現実そんなものだとあきらめの気持ちがあふれ、自然と涙が流れた。


 ミユの母親は何とかアイドルとして活躍させたいと事務所に食い下がったのだが、事務所としてはグループで売り出すならばミユを使ってもいいという返事だった。


 次の日は、もっとすごい商品を手に入れるためにお店に向かう。とは言っても、たそがれどきにつよいうらみの気持ちを発したと言ったほうが正しい。すると、昨日のレトロなお店が現れた。


「もしかして、もっとすごいことをしたいと思っている?」

 夕陽は全てをわかっているような余裕が感じられた。


「まだうらみが消えないの。だから、いじめたひとたちを一気に不幸にできる道具ってない?」

「不幸の手紙セットは?」

「おもしろそうね!!」


 ミユは自分の性格が曲がってしまっていることに気づいていなかった。不幸にしたいと思っているだけで心が黒くよどんでいる。もうまっさらな気持ちだったころには戻れないのかもしれない。


「一度に複数の人に不幸になってもらえる便利なレターセットだよ」


 説明書を見ると、わかりやすく使い方や効果が書いてある。


『不幸になってほしい人の住所と名前を書いて、白紙で出す。すると、その人は何かしらの不幸になります。不幸の種類は指定できません』


 その翌日、ニュースで見たのだが、リーダーだったいじめリーダーのアミが突然行方不明になったという話だった。次の日にもう一人のメンバーのユリは事故に遭い、アイドル活動ができる体ではなくなったという話だ。そして1週間後、もう1人のメンバーのマイは親の会社が倒産して、夜逃げしたということだった。


 それ以来、ミユは日本一不幸になったアイドル事務所のアイドルとして活動を再開した。しかし、暗いイメージがつきまとい、あまり新しい仕事も来なくなった。なぜか、ミユのまわりに不幸が起こる、そういう平凡ではない人間として扱われることになったのだ。


 その何年か後、ミユのお母さんは病気で若くして亡くなり、ミユは売れないアイドルを続けていた。もう20歳を過ぎるのでいい加減アイドル以外の仕事をこなさないとやっていけないし、収入が少ないことはとても大変なことだった。そんな時に、ミユの父が仕事を解雇されてしまった。私も普通の仕事を探すようになっていた。もう、芸能の世界ではやっていけない、普通に働いたほうが、安定したちゃんと働いた分の給料がでるということに気づいたミユは、アイドルを辞めることを決意していた。


 あのとき、ねがいの種類をアイドルとして成功したいとか、家族が幸せになるとか、いいことを願い事にすればよかったとミユは思う。あのときは、いじめられたうらみでどうかしていたのかもしれない。人の不幸よりも自分の幸せを願えなかった自分に、はげしく後悔した。でも、大人になったミユは、もう夕陽屋に行くことができなかった。たそがれどきに思いを強く思っても、なかなかあの店は現れなかった。インターネットでは、大人も行くことができるが、波長が大人になると合わなくなるとか、子供の時のほうが店に出会う確率が高いという話が合った。どこまで本当かどうかもわからないが、きっともう行けないのだろう。


 手にしてはいけないものに触れてしまった後悔が心の中で大きく育っていた。今になってミユは、平凡な人生ほど素晴らしいものはないという風に思うようになってたが、後悔すでに遅しだ。


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