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不思議でお菓子な夕陽屋  作者: 響ぴあの
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事実が消える消しゴム Aさんの場合

 事実が消える消しゴムが手に入ったAさん(小学5年生)の話をしよう。これはだいぶ前だれけれど、本当にあった話だ。


 いじめにあっていたAさんは気が弱いけれど、呪いの気持ちやうらみのきもちを心の底にたくさんもっている女の子だった。細くて小さな体では、とても大きな体の同級生に勝つことはできないし、口が達者でもなかったので、悪口を言われても言い返すことができなかった。それで、たそがれどきにいじめっこを消したいと心から願った。そのときもいじめにあった直後の時間で、同級生に暴力的なことをされた少女の腕や顔にはあざができていた。


「いじめにあっているの? 痛そうだね」

 夕陽がやさしく話しかけた。こどもはみんな優しいとそのときの夕陽は思っていた。

「ここはお店なの? こんな店、うちの近所にはないはずだよ」

 周囲の景色が突然店の中になったので、少女は驚きおびえながらも質問した。


「ここは不思議なお店、夕陽屋だよ。いじめっこを消すことができる消しゴムだって売っているんだ」

「でも……私、今お金持ってないよ」

「でも、君の傷が痛そうだからタダであげるよ」


 弱いものに優しく接していたい、これは夕陽がいつも思っていることだった。でも、人間の本当の弱さなんて見えるものではないから、ちょっと見ただけではわからないものだ。


「いいの? でもこれでいじめっこを消すことができるの?」

「えんぴつでもペンでもいい。いじめと書いてそれをこの消しゴムで消すんだ。いじめという出来事が消えるんだ。ただし、1回だけしか使えないよ。使ったらこの消しゴムは消えるからね」

「でも、いじめっこはたくさんいるんだ……いじめは永遠に終わらないよ」


 見るからに弱そうな体つきの少女を見て夕陽は明日も来るように言った。ちょっと見た感じの外見で弱いとか優しいとかそんなことがわかるわけでもないのに。


「じゃあ明日もくればいい。たそがれどきに強くねがいを込めてくれればこの店に来ることができるよ」

「たそがれどき?」

「日が沈む前のゆうぐれの時間だよ。君はこの店のことを知らずにぐうぜん訪れてしまったのか」


「いじめっこにいじめられて泣きながら帰る時間は学校帰りの夕方だったの。そして、いじめっこなんていなくなっちゃえって心の中で叫んだんだ」

「その心の叫びがここへ来る道を作ったんだね。でも、これは本当に存在がなかったことになる危険なものだから、なくしたり誰かに取られたりしないように気をつけろよ」


 夕陽はその少女をなぐさめたいという気持ちからタダで消しゴムを渡した。もちろん少女の幸せをねがっての行動だった。


「明日来るなら10円用意してきなよ。また消しゴムを売ってもいいよ。でも、20円持ってきても1度に売ることができるのは1個までだからね」


 夕陽のまっすぐな親切心だった。そのときはケガをした少女のことを夕陽はかわいそうだと思っていたのだけれど、その少女がとても残酷な心を秘めているとは思ってはいなかった。


「わかった、また来るね」


 元の世界に戻った少女Aはランドセルからプリントを取り出した。その日は席替えがあって、クラスの席替えを紹介した学級だよりだった。いじめっ子のリーダーの名前を冗談で消してみた。すると、おどろくことに印刷されていて消えるはずのない文字が消えた。そして、存在していたはずの消しゴムもなくなっていた。でも、Aはそのときはそんなことを気にもとめていなかった。


 ところが、次の日、名前を消された子供が行方不明になって、みつからないという偶然が起きた。もしかして……と思った少女Aは次の日もたそがれどきに強いうらみの気持ちを抱えて、夕陽屋に行って同じものを買った。そして、帰宅すると昨日もらったプリントを手に取った。次にいつもナンバー1のいいなりになっているのに、いじめるときだけいばっているナンバー2のいじめっこの名前を消した。


 すると、翌日に、やはりナンバー2も消えていて、行方不明となっていた。神隠しだと言われていたが、人々の記憶から徐々に2人の存在は消えてしまったようだった。


 しばらくするとおさまっていたいじめが再び始まった。今までいじめに加わっていなかった新しいメンバーだった。忘れたころに人はいじめをおこす。いじめは、終わりのない戦いだ。今までの経験で、Aは3人の人間が集まればいじめが起こるということを理解していた。2人ならば、起こらない集団いじめ。3人になると2対1となる。そんないじめに自分の力で立ち向かえない少女Aは自分ではない別の力に頼った。そこで、再び夕陽屋で消しゴムを手にいれようと少女Aは決意した。


「どうやら、人を消しても心が痛まない人なんだね。自分の痛みには敏感なのに」

 夕陽はようやくここで、Aの残酷性に気づいた。

「私は客よ。いらっしゃいでしょ?」


 強気になったAは、10円を差し出すと何も言わず消しゴムをもって帰ってしまった。店員に何か聞かれてしまうと自分の罪がばれると感じていたからだ。そして、店員が多分、二人が消えたことを気づいているということも感じていたAはこれで最後にしようと思っていた。とりあえず、もう一人消して、いなかったことにすれば解決だと思っていた。


 Aは消しゴムをにぎりしめて、帰宅をした。お母さんに呼ばれたので、仕方なくランドセルの横にけしごむをちょっと置いて台所に向かった。家族はお母さんと幼稚園年少の妹しかいなかったので、安心していた。油断していたと言ったほうが正解かもしれない。


「今日、学校から電話があったよ。いじめがあったんでしょ?」

「先生から電話があったの?」

「先生の話だと、クラスの二人が申し訳なかったと謝っていたらしいの。だから、明日学級会で話し合うって」


 その話を聞いたAは、少し消しゴムで消すことを考えなおそうと思っていた。


 そのとき、リビングで、まだ小さな妹が自由帳に絵をかいていた。使っている自由帳はAのおさがりだった。無造作に置かれていた消しゴムを妹が持った。偶然表紙に書いてあった自由帳の名前を妹が消してしまったんだ。その瞬間、Aの体は消えてしまい、Aの記憶も存在も何もかもが消えてしまった。


 つまり、幼い妹によってAは最初からこの世になかったことにされてしまったということだ。だから、名前はAという仮の名前で話しているんだ。だって、彼女の本当の名前はなかったことになってしまったのだから。もう仮名でしか紹介はできないのだよ。使い方ひとつで、危険なことになるということなんだ。


 その時、夕陽は人間は簡単に人を消してしまうという事実に直面してしまった。それ以来、どんな人物なのか見た目だけではなくその人の性格をよく見てから売るようになったということらしい。人は見かけだけで判断できない。黄昏夕陽もいろいろな失敗と経験を積んで今のようになったのだろう。失敗は成功のもとっていうだろ?

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