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不思議でお菓子な夕陽屋  作者: 響ぴあの
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寿命が延びるラムネとせんべい

 たそがれ時の時間がやってきた。今日は一日がとても長く感じていた。かすみは夕暮れ時を心待ちにしていた。昨日と同じ草原のわき道で、日が長くなってきている空に向かって強く願う。


「おばあちゃんの寿命をのばして!!」


 かすみの想いは昨日よりもずっと強くなっていた。確実にあのお店に行けるだろうと思っていた。行けなければ、おばあちゃんの死期が近づくだけだ。そのねがいを胸に秘めたかすみの想いが夕陽屋へと届いたのだろうか。その瞬間にあたりの景色が変わる。夕焼けに囲まれたと感じる。先程の草原はなくなっていた。その代わり、昨日来た古びたレトロなお店が目の前に現れた。


 かすみは昨日の緊張した気持ちとは違った気持ちでドアに手をかけた。2回目だと初めての時とは違い、気持ちに余裕ができるものだ。横開きの入り口のドアを開けると、少年がいた。お店特有のにおいがする。


「黄昏夕陽君にお願いがあるの」

「なんだよ、やぶからぼうに」

「あのね、おばあちゃんの寿命があとわずかしかないから、寿命を延ばす特別なお菓子が欲しいの」

「寿命が延びるって言っても一日でいいのか?」

「1年以上延ばすことができるアイテムとかない?」

「1年以上っていうのはないけれど、寿命が1日延びるラムネと1か月延びるせんべいっていうのがあるぞ」

「でも、おばあちゃん、歯が悪いから堅いものは食べられないかも」

「ラムネは10円だけど、せんべいのほうは100円するんだ」

「100円なら安いものだよね。おばあちゃん、ラムネ苦手かもしれない。あんまり食べているの見たことないし。せんべいはやわらかくしたら食べられるかな」

「これにはきまりがある。寿命が延びると教えたうえで食べさせると効果はなくなるから」

「そんなぁ。じゃあ、食べてって言っても好きでもないラムネは食べないかもしれない」

「歯が悪いならば、せんべいをお湯にひたして柔らかくするという手はあるけど、せんべいをお湯にひたして食べる人っていないしな」


 夕陽がお湯にひたすという方法を提案した。


「お湯にひたすなんてちょっとした嫌がらせみたいになってるかも? でも寿命のためだからなんとか食べさせないと。せんべいのひとかけらだけでも効果はあるの?」

「ひとくち程度じゃあまり効果はないな」

「どうしよう」

「ここは、毎日何かに混ぜて飲ませるとか。薬だとでも言ってラムネをあげたほうがいいかもな」

「そうだね、でもここに来ることができなければラムネは買うことはできないんだよね。明日、ここに来ることができなければ確実に寿命が減ってしまうよね」

「そうだな。ここの品物は1日にひとつしか買えないから。1か月命が延びるせんべいをまずは食べさせてから、ラムネで延ばすっていうのもありだな」


 アドバイスをしっかりしてくれる夕陽を頼もしく感じたかすみは、信頼という感情を抱いた。


「この店にいる時間ってもしかして、時間は止まっているの?」

「よくきづいたな」

「元に戻った時は、全然空が暗くなかったから」

「ここにどんなに長くいても時間が進むことはない」

「だから、夕陽君は歳を取らないで時間が止まっているとか?」

「なかなか鋭いな」

「不思議なお店の店員さんは絶対不思議な人でしょ」

「結構年上だと思うから、口のきき方に注意しろよ」

「明日からも毎日ラムネ買いに来ていい?」

「きたけりゃ、くればいい。でも、まとめてラムネを食べても1日しか延びないぞ。だから、毎日1つずつ食べること」


 夕陽のきれいな瞳が夕日に照らされて、かすみを見つめた。この店はたくさんの不思議であふれていた。かすみは一瞬ドキッとしたが、妹と話すという目的を思い出して電話を借りることにした。


「電話かして」

「今日は話せるといいな」

 少し夕陽の瞳が優しく感じる。夕陽の目じりが少々下がったように感じた。きっとこの少年は優しい人なのだろうとかすみは信じていた。


 日付と時間を押して、その後電話をする。昨日とは少し離れた日付にした。家族が出かけたとか、そういった過去のことはメモを取っているわけではないし忘れている。勘を頼りになんとなくでしか電話をかけることができなかった。


 トゥルルルル……


 音が鳴るが、誰も出ない。出かけているのだろうか? 仕方ない、他の日に変えよう。そう思って電話を切る。


「電話の使用は1日1回だよ」

 夕陽が冷めた瞳で説明する。


「ええぇ?? 聞いていないよ!! でも、過去の細かい家族の行動ってわかんないんだよね」

「だから過去への電話は難しいんだよ」

「自分が電話に出たらまずいとかないでしょうね?」

 かすみは怖くなり、説明を求めた。


「もし、自分が出たら何も言わないで切ること」

「ぜんぜん説明してくれないから、わかんないよ」

「すごい勢いで電話をかけていたのはおまえだろ」

「これからは、危険なこととかあったらちゃんと教えてね。それと私の名前は霧生きりゅうかすみだよ。かすみって呼んでね」

「俺のことは夕陽でいいよ」

「じゃあ、夕陽君。今日はおせんべいを買って帰るよ」


 ♢♦♢♦♢


 かすみは100円玉を1枚出して店を出た。店をでると、いつもの街並みが広がっていた。かすみは急いで自宅に帰り、おばあちゃんに快くおせんべいを食べてもらうための作戦を練った。歯が悪いおばあちゃんは固いものは食べられない。このおせんべいを食べないと言われても、効果を説明することは無理なので、細かくして食べさせようと思った。しかし、ただくだいたせんべいを出しても見栄えも悪いし、食べてくれないかもしれない。そう思ったかすみは、くだいたせんべいをごはんにかけてみた。ちょうど夕食時で炊飯ジャーから出来上がりの音が聞こえたので、思いついたのだ。意外と見た目もおいしそうで、まさにふりかけだ。


「おいしそうでしょ? この食べ方、今流行しているんだよ」

「おいしそうだね。これならば、おばあちゃんも食べられるよ」


 と言っておばあちゃんがほほ笑んだ。

 無事ごはんを完食するのを見届けて、かすみはほっとした。これで一か月おばあちゃんの寿命が延びた。しかし、その次はどうしようか? そんなことを考えていた。1か月延びただけではお別れはすぐ来てしまう。またせんべいを食べさせよう。かすみはおばあちゃんの命を少しでも長くするために、運命をあやつりたいと思っていた。

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