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不思議でお菓子な夕陽屋  作者: 響ぴあの


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死んだ人と会えるミラクルキャラメル

 かすみは夕陽屋の常連となった。かすみは常に死んだ妹と会いたいという気持ちがあるので、強いねがいを持っているから夕陽屋に行くことができているのかもしれない。そして、かすみは夕陽の特別な誰かだったという過去を持っているらしく、夕陽が招いているのかもしれない。


 たそがれどきにしかいけないお店。そして、番人である不思議な存在の黄昏夕陽。最近は夕陽に会いたいという気持ちも混じりながらの来店だったりする。


 かすみは妹を失ってから、会えない寂しさにおそわれることが時々ある。夕方から夜は特にその寂しさを感じる時間帯だった。闇に飲み込まれていくような感覚におちいる時間帯は昼と夜の境目だ。夕方という時間帯は昼でもなく夜ではない不確かさを感じた。それは世界でたった一人になったような孤独な気持ちになる時間で、とても怖いものだった。しかし、夕陽屋に出会ってからはその寂しさを紛らわせることができていた。


「こんにちは、夕陽君」

 ドアを引くと、鈴の音が聞こえる。レジの後ろに飾ってある鈴が何個かかけてあるのだが、風に吹かれて鈴の音が不思議な音を奏でる。風鈴のようなその音は、華やかさと寂しさを兼ね備えていて、かすみにとっての夕方そのものだった。


「ねぇ、死んだ人に会えるお菓子ってないの?」

「あるよ」

 夕陽屋の商品は無限なのだろうか。際限なく色々な商品がどんどん出てくる。不思議な無限空間のようだった。でも、そんな便利な商品があるのならば、もっと早く教えてほしかった。夕陽のいじわるとかすみは心の中でため息をついた。


「ミラクルキャラメルっていうんだけど、溶けるまでの間だけ、話すことができるんだ」

 夕陽がつまんだ商品はきれいな紙につつまれていて、輝いていた。ミラクルって日本語で奇跡という意味だ。奇跡がつまっているキャラメルはとても魅力的だ。

「会えるって言っても、肉体はもうないよ」

「死んだ時期に一番近い元気なときの姿で現れるんだ」

「元気だったころ……妹は病弱だったから」

「でも、話をできた時期はあったんだろ?」

「じゃあこのキャラメルをなめて、あそこにあるいすに座って」

 店の角に小さなテーブルと机があった。そこにかすみが座った。そして、あとはキャラメルをなめるだけ。


「でも、このキャラメルをなめた人は、二度と会えないとかそういったことはないの?」

 かすみは不安になって夕陽に質問した。


「大丈夫。キャラメルさえあればまた会えるけれど、このキャラメルは希少品なんだ。いつも夕陽屋にあるわけではないんだ。もちろんこれからも過去につながる公衆電話も使えるよ。電話の世界とはつながっていないから、別な世界になっている。電話をかけた時に夕陽屋の話をしても、電話をかけた過去の人間には通じない話だ」


 かすみは一気に色々な説明を受けて一瞬頭が混乱したが、つまりここで会った人と過去の電話の妹は別人だということが少し考えて理解できた。


「でも、ここで会う死んだ人って、幽霊ってこと?」

「違うよ。生きていた時の残像だよ」

「残像……?」

「生きていた時の記憶で形が作られた人形みたいなものさ」

「普通に話したりできるんだよね?」

「できるよ。でも、キャラメルを食べた人の記憶の範囲でしか話をしないし、新しい話題をふっても同じような返事が返って来る程度さ。生きていた時に妹が話していたこととか、うんという簡単な返事になっちまうけど」

「じゃあ、本当の妹の気持ちを聞き出すことはできないの?」

「死人には意志がない。だから、記憶の中の応答でしか返ってこないだろうな。みんな勘違いしているけれど、死んだら意志はないんだ。生きている人の思い出の中で生きているだけなのさ」

「思い出と会話するってこと?」

「形はそのまま思い出の死んだ大切な人が現れる。それだけでほとんどの人は満足するのが、ミラクルキャラメルの特徴さ。俺の場合は死んでいるけれど、こうやって意志があるのはこの店の魔力なんだろうな」


 死んだという奇妙な発言をする夕陽。かすみは、今回は確かめてみたいと決意して、夕陽に質問する。


「夕陽君って本当に死んでいるの?」

「まぁ、俺の話はまた今度っていうことで。まずは10円。そして、キャラメルを食べてみて。かんだりすると溶けるのが早くなるから、気をつけろよ」

「わかった」


 夕陽の爆弾発言も気になるけれど、今は死んだ妹に会うという使命がある。かすみはキャラメルの包みをていねいに開けて、口に放りこんだ。


「甘くて、溶けそうな味。こんな味、はじめて!!」

 興奮したかすみが興奮して頬を赤らめながらキャラメルを口の中で味わう。そのなめらかな舌触りは天下一品だった。


 すると、目の前にかすみの死んだはずの妹が現れた。見た感じは透き通ることもなく、普通の人間だった。生きていた妹そのものだった。偽物ではない、絶対に妹だ。


「きりか、元気にしていた? 会いたかったよ」

 かすみは妹のきりかに話しかける。死んでいる人に向かって元気なんておかしな話だけれど、挨拶というか社交辞令みたいなものだ。きりかは気にすることもなく

「元気だよ。お姉ちゃんは小学校楽しい?」


 きりかはかすみが小学生のときに亡くなっている。だから、会話はかすみが小学生のときで止まっているようだ。


「お姉ちゃんは今、中学生になったんだよ」

「そっかー」


 きりかの表情はあまり変わらない。そして、返事は生気のないものだった。人形みたいなものにしてはよくできているけれど、記憶で作られているせいか、きりかの言葉の種類は少ない。きっと記憶の中で作られたから、かすみの覚えている範囲の受け答えしかできないのだろう。


「きりか、少しでも長生きしてほしかったよ」

「病気治ればいいんだけどな」

 きりかは病気だということをわかっているけれど、死んだということは知らないんだ。もうすこしで、キャラメルが溶けてしまう……

「あなたと姉妹でよかった。また会おうね」

「おねーちゃんのこと大好きだよ」


 きりかの表情は明るかった。まだそんなに病気がひどくないころだったのかもしれない。キャラメルが溶けると……きりかの姿はあとかたもなくなっていた。


「ありがとう。でも、記憶の姿だから、本人は死んでいることは知らないんだね」

「誰でも、いつ死ぬなんて知らないからな。記憶の中の妹は生きていたときの時間で止まっているんだ」

「死んだ人の時間は止まっているんだね。当たり前のことだけれど、実感できたよ。記憶の姿だけれど、会えたのはうれしいよ。生きている人が忘れないことが最大の供養なのかもしれないね」

「今時の若者のくせに、色々悟ってるじゃないか」

「そういえば、夕陽君って心臓止まっているの?」

「止まっていると思うけど。この空間は時間が止まっているからこれ以上老けないし、俺にはちゃんと意志がある」

「聞かせてよ!!」

「え……?」


 かすみは夕陽の心臓の音を聞こうと胸に寄り添う。

 夕陽は戸惑いを見せた。


「本当だ、夕陽君の胸から音が聞こえない」

 ここで恋愛小説ならば夕陽の心臓が高鳴るところだが、心音は全く聞こえなかった。そして、夕陽の手はとても冷たかった。


「幽霊なの?」

「幽霊じゃないけれど、命とひきかえにここの店の店主となった。罪を償うために。そして、君に謝るために。前世ではごめんな」

「私、全然前世の記憶なんてないし、謝られても意味が分からないし……何があったの?」

「俺の記憶もそこまで鮮明には覚えていないんだ。そろそろお帰りの時間だよ。会えてよかった。ありがとう」

「え? もう会えないみたいなことを言わないでよ。私の寿命は夕陽君にかかっているんだから」

「大丈夫だよ。命をかけてでも君を守るから」

「もう、かける命はないんじゃないの?」

「そうだった。でも、全身全霊で守るよ」

「なんだか王子様みたい。ありがとう。またね」


 少し頬を赤らめたかすみはにこっと笑って帰宅した。夕陽の頬も夕陽のせいなのか少し赤くなっているように見えた。

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