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不思議でお菓子な夕陽屋  作者: 響ぴあの


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罪を消す消しゴム

 濡れ衣を着せられたっていうのはこういうことをいうんだろう。だいすけの父は無罪なのに罪を着せられ、警察に捕まった。近所では後ろ指をさされ、学校には居場所はない。母親と僕だけになったマンションの一室の外にはたくさんの害虫が襲う準備をしている。だいすけたちはまさに鳥かごに閉じ込められた鳥状態になっている。引っ越す準備を始めた。近所の目ほど恐ろしいものはない。


 壁に耳あり障子に目あり状態のだいすけたちに明日はない。人は平気で人をおとしいれる。それは自己満足のためなのかもしれないし、自己防衛のためなのかもしれない。だから、邪魔な人間はおとしいれて、自分から遠ざけ、安全を確保するのが人間の本能なのかもしれない。本当はだいすけの父が良い人だと思ってくれる人はいない。うわさは本当ではなくても本当だと信じてしまう人間がたくさんいる。人のうわさも75日というけれど、本当にそのころになったら忘れてくれるのだろうか。


 ニュースで取り上げられたことが全てであり、善か悪という究極の二択で世間はつくられている。だいすけの父は悪だというらくいんを簡単にくつがえす手段はない。しかし、ひとつ方法がある。警察も世間も敵となった今、都市伝説の不思議な店に助けを求めよう。そう考えただいすけは、下調べを万全にして、たそがれどきを待っていた。


 だいすけとしては不思議なお店に存在してもらわないと困る。そうでなくては、父も家族も救われない。祖母の実家に行くという話もあるが、まずは事実を変えてもらうのだ。父が罪人にならない世界を作ってもらうんだ。


 あの都市伝説はかなり本当だという確率が高い。インターネットの世界では実際に行ったとか見たという人が大勢いた。たそがれどきに強い思いをはせる。するとレトロな店が現れるらしい。今が多分たそがれどきっていう時間帯だろう。夕焼けが赤く夕方の空は昼と夜の境目にある。きっと、今だ。


「お父さんを助けて!!」

 だいすけの強い思いを空にささげる。夕焼けの空に刺さるような声が響いた。まぶしい光に包まれる不思議な感覚がおそう。すると、レトロなお店らしき建物が現れた。商店みたいな駄菓子屋みたいなお店だった。


「こんにちは」


 戸を静かに開けて、店の中に入ると、だいすけは礼儀正しくおじぎをした。普段から母親に厳しくしつけられているということもあり、常に礼儀正しいふるまいを心がけていた。正しい人間として生活することを心掛けていた。規則正しく生活を送り、道徳の教科書で正しいといわれる行いをする。人生の道からはみ出たことをする勇気もなかったし、正しい行いが最善だと頭の中でわかっていた。


「いらっしゃい」

「ここは都市伝説のお店、夕陽屋ですよね?」

「そうだよ」

「僕のお父さんは警察に捕まってしまったんです。でも、お父さんは何もやっていないと言っているんだ。えん罪なんだ。だから、なかったことにして、僕たち家族を助けてよ」

「えん罪っていう証拠はあるのか?」

「お父さんが悪いことをするはずがない。いつも優しく正しい人間なのに」

「君のお父さん、会社のお金のことで捕まったみたらしいな。本人は否認しているけれど、意図的にやっていたのかどうかは警察が調査しているみたいだね」

「もし、本当にお父さんが悪いことをしたとしても、しなかったことにしてほしい。社会的な評判や評価が我が家を悪い方向に持って行ってしまう。ここに住むこともできなくなるし、学校でもいじめられるんだよ」

「自分のためにねがいをかなえたいってわけか?」

「結果的には自分のためになるけど、家族を守りたいんだ」


 少し間をおいて、夕陽は提案する。

「君はずっと正しい行いをしてきたのに、ここで、それを辞めてもいいって思っているんだね。人間は弱いから、社会的な評判はとても生活に支障がでるんだろうな。濡れ衣チェンジャーというカードならば、おとしいれた悪い人に罪をなすりつけることができるんだけどな。真犯人を懲らしめるというのも面白いぞ。または無関係の人間に濡れ衣を着せるっていうこともできるぞ」

 トランプのようなカードを取り出して夕陽がカードを切り始めた。無関係の人間に濡れ衣を着せるということを平然と話す夕陽をだいすけは怖いと感じていた。


 しかし、思いつめたようにだいすけは語りだした。

「僕は仕事のことはわからないし、相手をこらしめても何もならない。無関係の人を巻き込みたくない。だから、なかったことにすることが一番の平和だと思うんだ」

「もしも、本当にお父さんが悪いことをしていたとしたら?」

「僕は今まで正しいと思ってきたことをやってきたつもりだ。今回はなかったことにすることが正しいことだと判断したんだ。それは間違っているのかな? お父さんは悪くないと僕は断言できるよ」

「俺は道徳の教科書じゃないんでね。本当にその人が悪かったとしても悪くなくても関係ないから、なかったことにしちゃおうか」


 だいすけは優しい心の持ち主だった。

「じゃあ、罪を消す消しゴム、10円だよ」

「罪を消してくれるの?」

「お父さんが本当に悪くなければ、書いた文字が消えるんだ。罪を消してくれるはずだよ」

「もし、お父さんが悪ければ?」

「悪人の罪を消してはくれないから、自信がないならばやめておいたほうがいいぞ。この消しゴムは一度使うと消えちゃうんだ」

「お父さんは悪くないよ。だから、きっとこれでなかったことになるよ。どうやって使うの?」

「お父さんの罪をペンで書いて消しゴムで消す。書く場所は紙でも壁でもどこでもいいよ。ただし、この消しゴムは1回使うと消えてしまうんだ」


 もしも、お父さんが本当に悪かったら……という事実がだいすけの頭をよぎった。でも、いつも正しい行いを教えてくれたお父さんが悪いことをするはずがない。そして、10円を払うと罪を消す消しゴムを大事そうににぎりしめてかけていった。


「おうりょうざい」

 という文字を自由帳に書いて罪を消す消しゴムで消してみる。でも、いくら消しても文字は消えない。

「やっぱりインチキだったんだ!! 10円返せ!!」

 だいすけは、本当に罪をおかした場合は文字が消えないという説明を理解していなかった。だから、ひたすら消しゴムがインチキ商品だったという後悔とさぎにあったという気持ちにおちいっていた。


 ♢♦♢♦♢


 夕陽屋にて、ふわわと夕陽は話していた。

「お父さんは本当は罪をおかしたのふぁ?」

「あの消しゴムで消えないということは本当に悪いことをしたということさ」

「事実を消す消しゴムのほうが事実を消してくれたんじゃないふぁ? なぜあの消しゴムを売らなかったふぁ?」

「人間がみんながなかったことにして幸せになったらつまらないだろ?」


 夕陽は心の中で、困った人を助けたいけれど、悪いことを消すことはしたくないという正しい気持ちがあることをふわわは見逃さなかった。


「あまのじゃくだふぁね」

「今、心を読んだな!!」


 夕陽はいい人と思われたくないようで、ちょっと嫌な奴を演じているようだった。ふわわは全部お見通しのようだった。


 次のおはなし「永遠ループドリンク」はだいすけのお父さんの子供の頃の話だよ。


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