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不思議でお菓子な夕陽屋  作者: 響ぴあの


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運命の赤い糸

 運命の赤い糸の伝説を誰でも一度は聞いた事があるだろう。結婚する相手の薬指と自分の薬指に、見えない赤い糸がつながっているという話だ。糸が目で見えたら運命の相手が誰なのかわかるのではないだろうか。結婚願望の強いまりなは夕焼け空を見上げながらためいきをついた。早婚に憧れているので、高校を卒業したらすぐにでも結婚したいと思っていた。だから、今からその相手と交際をして、結婚への確実な道を切り開きたい、そう思っていた。


「あれ? ここはどこ?」

 まりなは気づくと知らない店の前に来ていた。いつもの帰り道にはない店だ。道に迷ったのだろうか? とりあえず店員に道を聞こうと店に入る。古びたドアを横に引く。すると、店内にはたくさんの風車がかざってあり、風がないのにまわっていた。それに、お面や紙風船などもかざられていて、和風な雑貨屋さんのような印象だった。子供の頃に、こういう駄菓子屋に行ったような気がするが、普通の駄菓子屋とはちょっと雰囲気が違う。お菓子は不思議な名前がついていたし、文房具や雑貨のようなものもあるが、商品名が珍しいものばかりだった。そして、奥にある公衆電話の感じが味を出していた。今時こんなお店があったなんて――


「いらっしゃい」

 夕陽が出迎えた。

「あの、道に迷ったみたいで……帰り道を教えてください」

「あなたはここに来たいから来たはずなんだけどな」

「でも、私、このような店は知らないし……来ようと思ったわけではないのですが」

「来るべきお客さんだよ、あなたは」

 そう言うと、夕陽は商品を手に取った。


「運命の赤い糸を売っているんだけれど、お客さん、これを欲しかったんじゃないの?」

「ええ? これってただの赤い糸でしょ?」

「運命の赤い糸はこの付属の眼鏡をかけるとみえるんだ。でも、たまにあんな人が運命だったなんて……とがっかりすることがあるんだ。そこで、好きな人に赤い糸を結べば運命の人が変わるってことさ」

「じゃあ元々の運命の人の糸はどうすればいいの?」

「付属のはさみで切ってみて。もし、二人同時に赤い糸がついたままならば、どちらかと結婚した後再婚することになるだけだ」

「へぇー、ジョークグッズのわりには面白いわね」

「これは、おもちゃじゃない。本物だから、取り扱いには気をつけてよ。お客さん、今年で18歳だからこの商品をちゃんと扱える年齢だろうしね。使い方次第で運命を変えるわけだから大変なことにもなる。だから、注意して使用してほしい」

「これ、いくらですか?」

「3点セットで100円だよ」


 好奇心旺盛な女性高校生はうれしそうに鼻歌を歌いながら帰宅しようとしたが、道に迷ったことを思い出した。

「私、道に迷ってこの店に入ったんです。帰り道を教えてください」

「出口を出ればさっきいた場所に戻るから」

「そんなわけないでしょ?」

「本当だよ。一歩外に出てみな」


 まりなは半信半疑な顔をしながら一歩踏み出した。

 すると、本当にいつもの帰り道に戻っていた。一体どうやってあの店にいったのかは全く見当もつかなかった。


 早速、翌日は高校に3点セットを持っていくことにした。一見ただの糸とはさみとメガネだ。持って行ったところで校則違反にはならない。早速、めがねをかけると自分の糸が見えたが、その相手が誰なのかはわからなかった。この学校にいるのだろうか? 憧れの同級生の葉月君をメガネ越しで見てみたが、運命の人ではないことが判明した。少し淡い期待をしていたまりなはがっかりしていた。


 放課後になると、自分の赤い糸を伝ってみるが、そう簡単にたどりつけそうもなかった。県外や海外にいる人ならば歩いてたどり着けるはずがない。


 分厚いメガネをかけて、勉強ができるけれど暗く、おしゃれには無縁な男子の赤い糸がちらりと見えた。去年同じクラスだった山木だった。見えるのは運命の相手の糸だけだと説明書に書いてあった。どうやら、まりなの糸とつながっている相手は、よりによってガリベンの山木だった。まりなはがっかりした。好きでもないタイプの真面目な山木が結婚相手? たしかに真面目ならば浮気をしないだろうし、いい大学に進学していい会社に入るだろう。でも、好きではない。未来の自分があの人を好きになれるとは思えなかった。


「そうだ、あの糸を使って、好きな人に結べばいいんだ」

 幸いまりなは好きな葉月君と一緒に図書委員の仕事をしている。好きになったきっかけは同じ図書委委員になったことだった。葉月君はスポーツ万能で部活で忙しいけれど、本も好きらしく図書委員に立候補したらしい。話は面白いし、おしゃれだし、女子からの人気は高い。要するに人気者なのだった。


 図書室はあまり利用者がいないので、週に1回二人きりでカウンターに座っているだけの時間を過ごしていた。この距離ならば、冗談ぽく赤い糸を結ぶチャンスが訪れる。幸い、明日の放課後に当番が入っていた。これは、チャンスだ。


 翌日、やはり放課後の図書室は静かで利用者はいなかった。だから、まりなは葉月君に色々話しかけていた。

「どんな人が好き?」とか「大学はどこに行きたい?」とか。


 自然に赤い糸を結ぶチャンスをうかがう。そして、勇気を振り絞って話題を切り出す。

「実は、おまじないがあってさ。この糸を結んだ人は幸せになれるみたいなの」

「なにそれ? 面白そうじゃん」

 葉月君はノリがいいので案の定話題に乗ってきた。


「まずは、この先端部分を葉月君の薬指に結ぶのよ。そして、逆側の糸を私に結ぶの」

 初めて触れる葉月君の指は細くて長い。きれいな指だった。触れる瞬間は心臓がどきどきだった。


「運命の赤い糸みたいだな」

 核心を突かれたまりなはどきりとした。

 すると、その瞬間糸が消えた。


「あれ? 糸が消えた?」

 葉月君が驚く。糸が消えることは説明書で読んでいたので、まりなは葉月君に合わせて驚いたふりをした。


 そして、二回も結婚するのはごめんだと思い、そのあとにちゃんと運命の赤い糸を切った。それは山木のほうの糸だ。本当の運命の人、ごめんなさい。あなたの容姿を好きになれそうもないし、話題が合うとも思えない。そんな人と運命なんてうんざり。そう思って、縁を切ったまりなは幸せな気持ちになっていた。


 ♢♦♢♦♢


 まりなの本を人生の書庫で読んでいた夕陽。あの女子高校生は今頃結婚しているかなと思い出して読んでいたらしい。読み進めると、甘美な物語は描かれていなかった。


 まりなは毎日おびえて生活をしていた。夢を語るのは好きだけれど、全く働こうとしない夫の葉月悠一は、働けと言うと暴力を振るうようになった。見た目がかっこいいしおしゃれなので、浮気はしょっちゅうだった。そんなとき、クラス会のハガキが来たので、まりなは夫に内緒で参加した。そのクラスは夫の悠一は在籍しておらず、夫には情報が入ってこなかったのは不幸中の幸いだった。

 

 そこにいたのは、かつてガリベンの山木だった。山木はコンタクトにしたらしく、メガネの下に隠していた顔はとてもきれいな顔だった。そして、国の仕事をしているという山木は高学歴、高収入で安定した生活を約束されているため、女子たちがてのひらを返したように群がっていた。まじめで顔立ちもスタイルもいい悠一はクラスで一番の出世頭となり、モテていた。服装も夫の悠一とは違い、清潔感のあるスーツ姿が様になっている。悠一のスーツ姿なんて高校の制服以来みたことがない。悠一は大学を中退し、結婚したのはいいが、仕事をせずギャンブルや浮気ばかりだった。山木の赤い糸の相手は、私だったのに!! と言っても後の祭り。そんな証拠もないし、もうあの赤い糸は手元にない。


 とりあえずまりなは一人で食べたいものを皿に盛りつけていた。高い服を買う余裕もなく、仕事は低賃金であまりお金の余裕はない。せっかく会費を払ったのだから思いっきり食べて帰ろうと思った。


 すると、山木が隣にやってきた。

「お久しぶり。まりなさん、元気だった? 高校の時君に憧れていたんだよね」

 うそ……? まりなの心臓はどきんと高鳴った。


「今は婚約している彼女がいるんだ。まりなさんもお幸せにね」

 そう言って、山木はいなくなってしまった。


「もしかして、今日が運命の再会の日で、恋が始まったってこと? 結婚なんて早ければいいってもんじゃないってことかぁ」

 そう思ったまりなは、もとをとろうと思いっきり食べた。


 ♢♦♢♦♢


 本を閉じて夕陽がふわわに話しかけた。

「運命の再会はクラス会だったらしいけれど、運命っていうのは日々変わっているんだよな。山木君にはちゃんと別の婚約者がいるわけで、赤い糸っていうのは変化するらしいな」

「赤い糸は何もしなくても日々変化するふぁね」

「なにが正しいかなんて誰にもわからないってことだ」


 そして、次のはなしの「世界で一番長生きゼリー」は山木君の子供が主人公だ。山木君がどんなに優秀で人気者になったとしても、一生幸せとは限らないという事実が人生の書庫にはつまっているんだよ。人生は味わい深く面白いものなのさ。夕陽が次の本を手に取った。

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