塔の島
サイズオーバーの学ランに袖を通し、春から中学に通い出した。
第一ボタンを開けてるだけで、先輩に生意気だと目をつけられて絡まれるので、みんな第一ボタンをしっかり留めていた。
上級生がものすごく大人に見えた。
ここ、桃山中学校は3つの小学校から生徒が集まる。
一学年8クラスあるマンモス校だった。
僕は小学校5年の時に、桃山東小学校から桃山小学校に転校していたので、2/3は知り合いという恵まれた環境にいた。
けれど桃山東小学校の友達と会うのはまるまる2年ぶりになる。
大人しくていつもホンワカしてた古見さんは尖っていて別人のようだった。クラスのアイドルだった小林さんはもっと綺麗になっていた。
小さかった森君が、めっちゃでっかくなってたけど、小川は全然変わらなくてチビだった。
「みの!久しぶりやん!元気してた??」
「えー!?もしかしてカワコー?めっちゃ背高なってるやん!」
懐かしい顔ぶれの成長に驚きながら、桜舞う入学式を迎えた。
賑わう桃山中学校にヘニーの姿は無かった。
ヘニーは、試験に合格して、違う中学校へ行ったのだった。
*
ヘニーが釣りに行けなくなってから、一気に釣り熱が冷めていくようだった。
晩秋の風に吹かれて全てが枯れていくのに合わせるように、いつものメンバーも釣り熱が冷めていった。
僕は1人で宇治川に行くことが多くなっていた。
小学生最後の冬、ヘニーとみんなとで最後の釣りに行った。
久しぶりだし最後だしということで、思い切って電車に乗って遠くへ行くことにした。
京阪電車、宇治行きに釣竿を持って乗り込んだ。
ヘニーとタケと、今日は違うクラスのほっちゃんも一緒だ。
「次は終点宇治〜宇治です。」
平等院で有名な宇治駅に到着した。
いつも僕たちが釣りをしている宇治川よりずっと上流、平等院の前を流れる宇治川の真ん中に塔の島という細長い島がある。
小学校低学年の時、遠足で一度来たことがあった。
激流を塔の島が2つに割るようにして佇んでいる。
流れの緩んでいる東側で釣りを開始した。
ヘニーは久しぶりの釣り。
とりあえず中学の進学は決まってホッとしていた。
僕は受験なんて全然気にしてなくて、遊び呆けていたから、ヘニーがどんなに大変だったかは分からなかった。
ヘニーも、大変だとか勉強嫌だとか遊びたいとかは一言も言わなかった。
でも、今日はヘニーの表情がとても晴れやかなのを感じた。
「あそこ今跳ねたで!ブラックバスかもしれん!」ヘニーが叫んだ。
「嘘やん!どこ?俺が釣り上げたるわー!」ほっちゃんが割り込むようにして、勢いよくルアーを投げた!
シュルシュル〜
勢いよく飛び出したほっちゃんのルアーは、思ったよりフライ気味に飛んでいって、キレイに木の枝に3回転して巻きついた。
「うわ!やっば!引っかかったー」
ほっちゃんが叫んだ。
「無理やり引っ張ったら余計絡むからアカンでー!」僕が叫んだ。
その後は、みんなでほっちゃんのルアーを救出するのだった。
結局、僕たちは今日もブラックバスの姿を見れなかった。
でも、これが僕たちの「いつも通り。」
なんだか、ホッとする。
ちょっと奮発して買った茶団子をみんなでつまみながら、宇治駅に向かった。
終点の宇治駅から、僕たちを乗せた電車が発車のベルとともに動き出した。
宇治駅が、どんどん遠く小さくなっていく。
僕は、こんな日がまだまだ続くと思ってた。
「ヘニーまた遊ぼうな!」
「うん!また釣り行こ!」
そう言って、僕たちはそれぞれの方向へと自転車を漕ぎだした。
その後、小学校を卒業してからは、ヘニーと会うことはなかった。
「なぁーヘニー、そっちでブラックバスは釣れてる?
僕なぁ、めっちゃいい場所見つけてん。
みんなには内緒やけど、ヘニーには教えたげるわ!
また釣り行こな。」




