釣れない魚
宇治川に、めっちゃでっかいブラックバスがいる!
噂は一気に広まった。
「みの!でっかいバス釣ったんほんまなん⁉︎」
「ホンマやで!めっちゃデカかった!」
次の日学校で、僕は宇宙飛行から帰還した初の日本人宇宙飛行士のごとく、インタビューの嵐の中にいた。
「どこで釣ったん?オレも一緒に釣りいっていい?」
「いいで!一緒に釣り行こ!」
僕が釣り上げたあのブラックバスの衝撃はものすごくて、次の釣行からは10人単位で友達が集まるようになっていた。
五十隻舟の入江は、小学生で溢れている。
何かイベントでもあるのか?
堤防の上から、フナ釣りの道具を持った爺さんが不思議そうにこっちを見てた。
僕はみんなにレクチャーをした。
「糸を人差し指で引っ掛けて、竿を振り上げ前に出した瞬間に指を離す!」
「針が危ないから後ろに人がいないか、ちゃんと見てやー」
さながらバスフィッシングスクールの先生みたい。
川沿いに等間隔で並ぶ友達たちに順繰り指導してる間に、もう夕方になってしまった。でも、みんなでワイワイしてるのが楽しかった。
観月橋から中書島方面へ抜ける道沿いに、古い釣具屋さんがあった。
カラカラと木の引き戸を開けて中に入るとピンポンと音が鳴って「はーい」と奥からエプロン姿のおばちゃんが出てきてくれる。
おばちゃんは何にも言わずに、ゆっくりルアーや釣竿を見せてくれた。
「僕も釣竿買うから、ミノついて来てよ!」
いつの間にか僕はバス釣りの伝道師みたいになっていた。
お店に何人も友達を連れてくるから、おばちゃんもビックリしてた。
いつの間にか行きつけの釣具屋さんになっていて、釣りに行くたびお店に寄った。
小学生の僕たちに高価なルアーは、なかなか買うことが出来ず、いつもお店に寄ってはルアーを眺めていつか買おうと心に決めて、何も買わずに出ていくだけだった。
ガラスのショーケースの中のルアーは特に高価で、憧れの的だった。
本物の小魚のようなキラキラのボディーにリアルな目玉。これならたくさんブラックバスを釣ることができそうだった。
「ダイワ のTDペンシルか。いつか、絶対手に入れよう。」
みんなで釣具屋さんに行って、目を輝かせながらルアーを眺めてワイワイするのも楽しかった。
だけど、肝心のブラックバスの姿はずーっと見れないまま、みんなで宇治川に向かってルアーを投げて巻くだけの日々が続いた…