詩集 唯一匹の悪魔の戯言
解釈はご自由にどうぞ。
私は気分が鬱屈としている方の、心に寄り添いながら鼓舞するものであったら良いなと思っています。
【救済暗輝】
いずれあらゆる生命達、ひいては、闇より出た光の導に従い続けし者たちは、闇へと回帰する。
ならば、闇へと戻らんとする事を何故善しとしないのだろうか。
甚だ、私には疑問。
しかし、光に照らされているもの達に問い続けたとてそれが解消されることは永久に無いのだろう。
光に呪われ、闇からの解脱を模索する者達に、闇への休息と安寧を求める者の思想は理解し難く、賛美するもの、価値の違う両者が、受け入れる事はあり得る筈がないのだから。
知らないのだ、光こそが絶望と嘆く者達など。
確かにいるのだ、闇に希望を見出す者が。
堕ちる事も、救い。
光輝に在る事も、また救い。
悲しいかな。
哀しいかな。
虚しいかな。
否、感情に囚われる事程の愚行は無し。
全てを受容し、我が道を往けば良くのみ。
感情も、人々も、私を捕え束縛する理由にはならないのだ。
孕んだその世界を、侵害する権利など誰にも環境にさえもない。
私を貫き、果てに闇に戻るだけである。
命など、所詮はその程度のもの。
【深海入水】
深海に沈む。
ひたすらに冷たく、口からこぼれる呼吸の泡すら吞み込んでいく。
深く、深く。
暗く、暗く。
私にもがくことを、許す事なく。
浮力も心もとなく、痩躯を浮かばせるには足りない。
視界も段々と、暗くなっていく。
何も動かぬ、珊瑚も私を嗤い。
何も知らぬ、魚共は私を見下して。
紺碧は暗黒へ。
そうして暗黒は、私の眼を満たし。
やがて深淵は、私の肺を満たし。
原初の宇宙の模倣とさえ思える空間に、取り残される。
そんな感覚は、今日の私にも、眠りを与える。
夢想の、深海入水。
空想の、深淵入眠。
【りんごと糸に冬】
寒いね。
あぁ、寒いね。
私の心に、稼働する暖気と一緒に温もりを与える。
空間は私ときみの談笑に包まれる。
雪景色のおかげで、きみの結晶の肌はりんごになって。
こたつを挟んだ先の、りんごを私は思わずそっと撫でる。
思わずかじりついてしまいたくなって。
こたつを挟んだ先の、りんごに口づけする。
もっと真っ赤に。
もっと甘くなった。
そんなりんごに、触れて。
撫でて、愛でていたかった。
談笑も、聞こえていた声も雪景色と消える。
伸ばした手は、骨ばって何もつかめずに。
震えながら、白くなった糸を頭に垂らし、私は冬を閉じる。
寒いね。
あぁ、寒いね。
【みんな】
チャイム。
みんな、またね。
声を聞いて、僕も後ろを向く。
背にした友達は、やがて僕を置いていく。
僕を、おいていった。
僕も、みんなをおいていった。
みんな、じゃあねって。
友達は、僕を背にして。
またあした。
何度見たかわからない、ゆうやけ。
みんなとあって、おうちにかえってめのまえをくらくする。
ゆうやけは僕。
みんなは、そら。
ちゃんと、帰れてるかな。
僕は、今日の思い出と一緒に、友達を背にした。
【薔薇の川】
薔薇が、漏れ出てきた。
声の代わりに。
喉の奥から。
使う事の無い、喉がもう疲れてしまったのだろう。
必要ない、薔薇も出ていきたいのだろう。
それは赤くて綺麗で。
私の中の、薔薇の川からはみ出してきた。
手に浮かぶ紅と、色の違う手首の薔薇の川のコントラスト。
いつか、止まるのだろう。
せき止めれる事は、なくとも。
【胸の中】
胸を張らせてください。
詰まった、胸の内。
淀んで、薄暗くなったこの胸を。
欲しいものが、あまりにも多すぎたこの心を。
何度も受け止められなくて、壊れかかったこの肋骨を。
欲しかったものは、こころです。
けれどもこころは二つとない。
たった一つ、とくんとなるだけ。
だからでしょうか。
肺のように、腎臓のように、腸のように対を求めるのは。
また、こころはひとつでないている。