第167話
■side:とあるテレビアナウンサー
画面外のカウントダウンを見ながら気持ちを切り替える。
そしてサイドモニターに中継が映った瞬間、2日ほどかけて作った原稿を読み上げた。
「さあ、ついにやってまいりました。U-18女子日本代表。その大事な大事な予選1試合目。」
会場に投影されている巨大な試合会場をテレビが映す。
「日本の初戦は、アラブ首長国連邦。試合会場はアウェーのドバイ。ですが日本の大応援団が会場でアラブに負けじと声援を送っています」
自宅に居ながら世界旅行すら可能な世の中。
そんな中でわざわざ現地に赴き、応援するファンの熱量というものは凄いものだ。
相手側のスターティングメンバーを紹介しながら、そんなことを考えていた。
「さあ、そんな中でも注目は―――」
本来なら解説役のゲストが来る予定だったが、急遽体調不良による降板となった。
これが日本なら代役を探せなくもないが、流石にドバイで探すのは不可能である。
なので1人で盛り上げなければならない。
そこで今回は、各選手を取り上げつつの解説をすることにした。
普段は興味が無くとも、何故か世界大会だけは応援するというライト層。
そういう人々に向けての解説をすることで差別化をしたいという狙いがある。
そのため相手選手の中でも注目選手がどれだけ凄いのか?
そして対する日本勢もどれだけ凄いのかを丁寧に解説する。
「ではここで注目の日本のスターティングメンバーを紹介します」
BR 佐藤【Arcadia】
BR 福田【Twinkle star】
SP 近藤【Twinkle star】
SP 渋谷
AT 宝月【Twinkle star】
AT 六角
ST 国友
ST 温井
ST 岡部
ST 谷町【L】
■side:U-18女子日本代表リーダー 谷町 香織
目の前で監督による最終確認が行われている。
アラブとの対戦成績は5年ほど昔に1回あるだけで、しかもこちらが勝っていた。
なので何の参考にもならないのだが、監督は分析データなどから格下判定をしたらしい。
メンバーを見ればわかるように完全にレギュラー争いをさせるつもりのようだ。
ここで活躍出来なきゃ、今後は試合に出れないぞというある種のメッセージ。
話が終わって各種最終チェックを行う指示が出る。
試合に出たら装備が練習用でしたなんて話にならないからね。
念のための最終チェックが行われているところで、監督から声をかけられた。
「今回の主役は、お前さんだ」
「私……ですか?」
「誰がどれぐらい使えて、どう運用するのか、どう試合を作っていくのかを決めるのは現場のお前さんだ」
「監督が指示や評価をするのではなく?」
「そりゃ私も一定の指示や評価をするが、最終的に誰をどう使うのか、誰とフィールドに立つのかを決めるのはリーダーがやるべきなんだよ」
「……わかりました」
「今回でU-18は最後なんだ、後悔しないようにやりな」
そう言って去っていく監督の背中に向けて礼をする。
何だかんだで今までずっと先輩や監督などに遠慮してきた。
そう考えれば最後ぐらい思いっきり我を通しても良いんじゃないか?
「ま、壁は大きく険しいけども頑張って貰いましょうかね。」
これから彼女達が挑むのは、私達のような世界戦常連メンバーの席を奪うという行為。
それが出来れば、背中を預ける仲間としては頼もしい。
しかしそれが早々簡単なことではないことも先達として教えなければならないだろう。
最終チェック完了の合図と共に、私はスタメンを集めて円陣を組ませる。
「この試合、相手が強いとか弱いとか関係ない。自分の最高のパフォーマンスを出せるか出せないかだ。ここで出せない奴に次の席は用意されないと思って戦えッ!!」
気合を入れるため、そして多少脅しをかけるために厳しめの言葉を選んだが―――
「はいッ!!!」
予想以上に気合の入った返事が返ってきた。
これなら問題ないだろう。
「まずは1勝、頂くわよッ!!」
十分な熱量と共にVR装置に入る。
現実と切り離され、仮想空間に到着すると大声援が聞こえてきた。
時間を確認すれば、開始まで残り5分。
次々とINしてくるメンバー1人1人に声をかけ、念のためにもう一度だけ作戦を伝える。
一応、万が一にはメンバー交代をすることにもなっているが―――
「―――はぁ、そう言えばそうだったわね」
そこでふと思い出したのは我らが切り札、霧島アリスである。
彼女は堂々とユニフォームではなく私服で登場し、当然とばかりに言った。
「今日、出る必要ないでしょ?」と。
どこまでもマイペースな、それでいて信頼と取るべきか挑発と取るべきかわからない発言。
しかしそれでメンバーのやる気も上がったのだから問題ないとすべきか。
どちらにしろ最後までアリス頼りだと言われたくないのも事実。
時間が迫り、カウントダウンが始まると全員がスタートラインで前傾姿勢を取る。
そして開始の合図と共にそれぞれの持ち場へと向かっていった。
廃墟と化した街中を走るとスグに銃声が響き渡る。
お馴染みの北・南・中央の3ルートで北と南にそれぞれ佐藤と福田を専属支援として配置した。
更に中央も温井を支援として置くことで、防御寄りでありながらも射撃戦で勝ちを狙える布陣になっている。
次々と入って来る情報を整理すると相手のBRは中央に1人だけ。
しかも先制とばかりに放たれた温井の一撃によって早々に狙撃ポイントの変更を迫られたらしく、まともに支援出来ていないようだ。
もちろん支援が多いということは前衛の数が減っているということ。
だが、それで押し込まれるような温いトレーニングというか、それで押し負けるようではU-18女子ではやっていけない。
それを示すかのように北側・南側がラインを押し始めた。
相手側も中央ラインでの防衛を無理と判断したのか、1つ後ろのラインまで後退して発電所を譲る形を取る。
まあこれを占領した所でそこまでの圧力とはならないのが残念な所ではあるが。
それこそアリスぐらい相手側に切り込める人材が居れば、司令塔への攻撃が通るようになる発電所の占拠に意味はあるのだけど。
そうしている間に北側・南側どちらも相手を1人倒して更に人数有利となる。
相手側も何とか後ろの下がったメンバーが大盾持ちのSTと交代することで押し返そうと必死だ。
気持ちはわからなくもないが、上下に意識を傾けすぎでしょ。
もう少し様子見するつもりだったが、もう勝ちが見えたこの状況での堅実な攻めはイジメにしか見えない。
「ほら、もっとレーダー見て、全体見て、怖がらずに突っ込め! GO!GO!GO!」
ジワジワとライン上げをしようとしていた目の前の岡部と渋谷に声をかけ、2人を引っ張るように前へと出る。
2方向からの攻撃を何とか耐え凌ごうとしていた所に正面から一気に押し込まれてしまい、ギリギリだった防衛線が総崩れとなった。
相手選手を次々と撃破して相手がボロボロになった瞬間、宝月が司令塔へと突撃して攻撃を決める。
止めたくても大半が撃破され、残りも身動き取れない状態では、どうしようもない。
こうして日本は予選にて圧倒的大差で、その存在感を示した。
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