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第163話





■side:とあるテレビ報道






「さあ、残り時間半分だが、ここからブラジルは逆転出来るのか!?」


 会場では一方が大盛り上がりで、もう一方からは悲痛な叫びにも似た応援が聞こえてくる。

 世界中で開始されたU-18女子世界大会に向けた最後の調整とも言える親善試合。

 その親善試合から波乱が起こっていた。

 ここ数年で確実に全体のレベルが上昇している若年層の世界大会。

 今年はどんなドラマが生まれるのか?等と呑気なことを言っている連中には、この試合はどう映っているだろうか?


 掲示板に表示されているのは圧倒的な点数差。

 1000-910

 90点という差を考えれば相手リーダーとメンバー4人を倒さなければならない差である。

 まあ、それが可能であるならばそれこそ、ここまでの点数差が付く訳もないのだが。


「はぁぁぁぁ!!!」


 気合と共に銃撃の雨を乗り越えて相手陣営に切り込むブラジルのエース。

 大盾を駆使してブースターで突撃しながらも、囲まれないように変則的な動きを混ぜて上手く切り込む。

 それによって対戦相手の中国選手達は、翻弄されてしまい各個撃破を許してしまいそうになる。


 ―――だが


 金属がぶつかる音と共にブラジルのエースは驚きの顔を共に慌てて後ろに下がる。


 黄 若晴

 彼女の持つブレイカー用の大型ブレードによって大盾が見事に両断されたためだ。

『次こそ世界を』

 この掛け声と共に中国では徹底した選手の強化トレーニングが行われていた。

 大金をかけて最新のスポーツ医学を取り入れ、VR技術だけでなくメンタル面までも考慮したトレーニング。

 まさに国が本腰を上げて取り組んでだと言える状態だ。


 何より彼女自身のやる気もある。

 かつて自分こそが最強だったと思っていた頃もあったが、様々な経験が彼女の成長を促した。

 各国のエース達との練習に目指すべき目標。

 そして彼女自身の才能が、一気に彼女を押しあげた。


 ブラジルのエースの判断は正しかった。

 彼女の奇襲に対して大盾だけの被害でよくぞ回避したと称賛されるべきだろう。

 それほどまでに黄は強いと言える。

 そして去年までならこれで一旦仕切り直しになっていたはずだ。

 だが今の彼女は違う。


 大盾を潰され、咄嗟に下がったブラジルのエースは急いで黄を探す。

 しかし正面に居るはずの彼女は居なかった。

 それをおかしいと思うよりも先に、ふと自身に影が差す。

 マップは地下都市であり、雲のエフェクトが通ることもない。

 つまり自分にふと影が差すことと言えば―――


 思わずといった感じで上を見上げれば。

 そこには一回転しながら刀を振り下ろす黄の姿があった。


 思わぬキル報告に浮足立つブラジル。

 そこへ更に着地と共に走り出した黄は、そのまま出合い頭に2人を切り伏せる。

 まさに一瞬の出来事。

 中国側からは、割れんばかりの歓声が上がり、ブラジル側からは悲鳴のような声が上がる。

 その瞬間を見逃すはずもなく、同じくリベンジに燃える王 蘭玲の指示による一斉突撃で完全に試合が決まってしまう。


『中国、親善試合を圧勝!!』


 ニュースは、この見出しで一斉に中国の強さを報道。

 早くも『優勝候補か?』という声まで聞こえ始めた。

 そんな声に中国国内のLEGEND熱は更に加速していく。






■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園3年 霧島 アリス






 片足で流れるように側転をしながら宙で刀を一回転する。

 そのまま着地すると即後方に飛び退きながら刀を斜め後ろに構え、着地の力を利用して一気に前に突進しながらの横薙ぎを振る。


 一連の動作を繰り返しながら、データを呼び出して微調整を行う。


 刀身の長さ、幅や厚みに重さや重心の位置。

 つけている装甲の重さや動かした時の感触。

 普段のカスタムでは出来ない項目まで調整出来るのがありがたい。

 むしろLEGENDはオーダーメイドシステムを導入すべきではないだろうか?

 などと考えていたら着地がほんの僅かに予定からズレる。


「―――ふぅ」


 目を閉じて息を吐く。

 精神統一を行うと、ゆっくりと動き始める。

 少しづつ速度を上げながらも正確さを追求した動き。


 途中から戦いを想定した動きへと変化していく。

 私だけの目に見えるのは、かつて戦ってきた敵達。

 ほんの一瞬の判断で生死が分かれた戦場。

 中には射撃が得意な奴や、白兵戦が得意な奴など様々居た。

 それら全てに勝利して、私は生き続けた。

 穏やかになりつつある気性も、薄れゆく記憶も。

 どうせ『私』が消えるというのなら、せめて技術だけでもこの身体に残そう。

 せっかく生まれ変わったのだ。

 せめて『私』が確かに生きていたという証ぐらいは残してもいいだろう。


 どれぐらい経っただろうか。

 ふと周囲が明るくなったかと思えば声が聞こえてきた。


「お疲れ様でした」


 その言葉と共に現実世界へと引き戻される。

 装置を出た私は、目の前に居た白衣を着た大人達に声をかけた。


「間に合いそうですか?」


 私の質問に彼らは笑顔で答えた。


「もちろんです!連中のような失敗はしませんよ!」







*誤字脱字などは感想もしくは修正機能からお知らせ頂けると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 後半… まだ見ぬ未来の若人へのトレースAIかNPCを開発??
[一言] 更新待ってました! いつも楽しませてもらってます
[良い点] 更新ありがとうございます とても楽しみにしていました!
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