第162話
■side:東京私立大神高等学校 3年 谷町 香織
一体何がどうなっているというのか。
琵琶湖女子の連中の動きがおかしい。
この前の決勝戦後からそこまで経っていない。
にもかかわらず前に戦った時よりも更に強くなっている。
大盾を利用して片手で撃つ大型マシンガンの精度を上げる。
そのせいで機動力を失うものの、両肩のミサイルも同時に使用して火力の底上げを行う。
だが相手の笠井は、ブースターとスラスターを使用しての高速移動で被弾を最小限に抑える。
更にガトリングを撃ち、ミサイルを全弾撃ち落とすと最近装備したのか脚部3連ミサイルを発射してきた。
高速移動しながらの射撃は、片腕では精度が悪いがミサイル迎撃に関してはそこまで必須という訳でもない。
後ろに下がりつつ射撃して数発撃ち落としながら大盾で残りをガードする。
爆発と共に煙で一瞬前が見えなくなった所で更に大盾に衝撃が入る。
恐らく両肩のアームに装備していたロケットランチャーだろう。
それでも大盾の耐久値は半分ほど残っている。
これ以上の奇襲を阻止するために更に後ろに下がりつつ立て直しを―――
ガシャーンッ!!
何か大きな音がしたかと思えば。
「―――は?」
笠井が、大きく空を飛んでいた。
正直意味がわからない。
……いや、本来なら理解しなければならないもののはずだ。
なぜなら、自分達が前に同じようなことをしたのだから。
こちらの頭上を越えるような角度で空を飛ぶ笠井。
そのまま彼女はガトリングをこちらに構え―――
「まさかっ!?」
咄嗟に大盾を構えるも頭上を越えながらの射撃。
しかも後ろに回る瞬間にバーニアをフルに使用して身体を捻ってこちらを向いたまま射撃を継続して着地する。
流石に真上までなら大盾で何とかなるが、真後ろまで綺麗に反転しながら撃たれては対処のしようがない。
そして運が悪いことに、ガトリングの弾が背中のコアに命中してしまう。
―――バックアタックキル!
◆バックアタックキル
X 東京大神 :谷町 香織
〇 滋賀琵琶湖:笠井 千恵美
VR装置の中でそのログを確認して、思わずシートに倒れこむ。
「あ~、やっばいなぁ~」
思わず顔を顰める。
あの決勝戦の時ぐらいなら、実力的に食らいつけていた。
そこまでの差も無く、まだまだいけると自信を持って言えた。
「こりゃ下手すりゃレギュラー落ちも―――って弱気になってどうするよ」
何とか弱気になりそうな心を奮い立たせて再度練習に混ざる。
■side:京都私立青峰女子学園 3年 一条 恋
「何がどうなってるのよっ!!」
思わず叫んでしまう。
前に戦った黒澤や長野もおかしかった。
明らかに格下だと思っていた連中だったのに。
先ほどからも思うような撃ち合いが出来ずにイライラしている。
私だって毎日毎日必死に練習してきたはずだ。
他の誰にだって負けないと胸を張って言えるほど必死にやってきた。
なのに―――
「ああ、もうっ!!」
先ほどから付かず離れずで撃ち合いをしてくる宮本。
前回までなら敵ではなかったはずだ。
だが今、明らかに動きが変化している。
上手く大盾の耐久値を管理し、片手で精度が落ちているはずの大型マシンガンでそこそこ当ててくる。
こちらの最大火力には付き合わず、かといって放置しようとすると存在感をアピールするように攻撃してくるのだ。
前までなら簡単に乗ってきた誘いにも乗ってこない。
本当に嫌な動きを徹底してくる。
「こうなったら強引にでも―――」
多少無理をして前に出て強引に撃ち合い勝負に持ち込む。
火力では圧倒的にこちらが上である以上、宮本は下がるしかない。
そのまま押し込んでしまえば―――
その瞬間、何かがこちらに飛んでくるような感じがしたかと思えば左肩のガトリングが肩装甲ごと吹き飛ぶ。
耐久ゲージが半分ほど減り、突っ込もうとした勢いのバランスが崩れて倒れそうになる。
それを何とか立て直そうとして―――
「ッ!?」
いつの間にか目の前まで突っ込んできていた宮本が、大盾を構えたまま体当たりをしてきた。
ただでさえバランスを崩しているところにSTの突撃だ。
耐えきれずに倒れると起き上がる間もなく、宮本の大型マシンガンが撃ち込まれた。
◆キル
× 京都青峰 :一条 恋
〇 滋賀琵琶湖:宮本 恵理
スグにデータを確認するとあの時の一撃は、琵琶湖女子の神宮寺からの大型滑空砲だったようだ。
目の前の宮本に気を取られ過ぎたという気持ちと、綺麗に狙撃を決めてきた相手への称賛。
何より宮本にしてやられたという悔しさ。
あの時、黒澤に競り負けた時ぐらいに……叫びたくなるほど腹立たしい。
「この程度で―――負けてたまるかッ!!」
自身に気合を入れるかのように叫ぶと、練習へと復帰した。
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