第161話
■side:U-18女子日本代表監督 芳川 浅子
面倒なことというのは、どうして呼んでも居ないのにやってくるのか?
これは誰もが思うことだろう。
皮肉にも、色々と手放して吹っ切れてからの生活は意外と悪くない。
余計な連中に気を遣うことも無ければ、あちらこちらへと顔を出す手間もない。
少しだけ寂しい気もするが、何気ない平穏の日常。
ある日、そんな日々に面倒な連中が踏み込んできた。
奴らの手下である黒服どもがやって来た時から嫌な予感がしていた。
どうやら私の「やらかし」に対しての「贖罪」はまだ終わっていないらしい。
……いや、どちらかと言えば都合の良い駒だろう。
捨てるにしても、拾うにしても、後腐れが無い方が良い。
当初は、川上が監督という話だったらしい。
しかしアレは今回、U-22に引っ張られていったようだ。
……だから言っているのだ。
監督も育てろと。
こういう所が日本のダメな所だと何度指摘されても、誰に指摘されても変わらない。
結果として私みたいなのが、こうして駆り出されるのだから下手な笑い話よりもタチが悪い。
誰かに責任を押し付ける癖に、口だけ出してくる老害ども。
いい加減アイツらを処理出来なければ、日本LEGENDに未来などない。
霧島のジジイあたりは、自分のやってきたことのケジメはつけるべきだ。
少なくとも孫娘に押し付けることではないし、それをやる外道なら今度は私が私の全てを使ってでも地獄に引きずり込んでやるよ。
そう意気込んで引き受けたものの。
色んな意味で困惑している。
本当にどうしたものか。
今年のU-18は、ちゃんと実力者を中心に集めている。
前回大会で活躍したのも呼んではいるが、正直必要だったのか……。
「まだまだぁ!!」
「負けてられない!!」
「だぁぁぁぁぁっ!!」
手始めにと挨拶代わりの練習試合を行ってみた。
その結果というか、目の前の光景が何と言っていいやら。
確かに選考会だから頑張るというのはわかる。
ここで代表にという気持ちも。
何が何でもと気合が入る子も居れば、空回りする子も居る。
……しかしここまでの差があるとは。
まあ琵琶湖女子の連中が強いのはわかる。
その琵琶湖と競り合ってきた大神や青峰の連中もだ。
しかしそれは3校だけの話ではないはず。
奈良大東院や佐賀大に大阪日吉。
新潟田所、桜ノ宮、御神女子、栄女子といった名門校。
そこからもメンバーを招集しているし、彼女らが劣っているとは思わない。
―――そう思っていた
福田の代名詞となった大型狙撃用レールガンが大谷に向かって飛ぶ。
それを屈むような姿勢で突っ込みながら小型シールドを雨から身を守る傘のように頭の上に持ってくる。
その瞬間、金属同士がぶつかるような音がして、盾の表面をなぞるように銃弾の跡が付く。
目視で回避できるようなものではない。
あり得ない話だが、間違いなく予想して回避したのだ。
その衝撃が抜けきるより先に、大谷が手斧を正面のST……国友に向かって投げる。
国友は、咄嗟に大盾で受け止めるが特攻がかかり大幅に盾の耐久値が減る。
突撃しながらの大谷がそのまま突っ込む―――と見せかけて急ブレーキをかけると全力で後ろにブースターを使って下がった。
次の瞬間、大谷が居た場所に巨大なビーム砲が通過していった。
決めたと思った一撃を回避された温井は、驚きの表情を浮かべる。
後ろに飛ぶように回避した大谷は、シールド裏にマウントされていた予備の手斧を手にすると、そのまま素早く投げた。
それが国友の大型シールドに命中して特攻効果によって盾が破壊される。
次の瞬間―――南が発射していた誘導ミサイルが国友の目の前に迫っていた。
盾で凌げると思っていた国友は、突然のことにブースターを使用して後ろに下がろうとするも誘導ミサイルを振り切れるはずもなく。
咄嗟の判断をミスした結果、彼女は撃破されてしまう。
そんな仲間のやられっぷりを気にしつつもバランスを立て直す前に反撃を決めたい。
そう思った近藤がマシンガンを撃ちつつミサイルを発射しようとして―――側面から何か硬いものが当たる音を聞いた。
一瞬だけ視線をそちらに向けた彼女は、驚愕の顔を浮かべる。
その目には側面の廃材にぶつかって跳ね返り、自身に向かって正確に飛んでくる手榴弾。
結果として無常にも爆発が起こり、2人目が撃破された。
「明らかに差があり過ぎるじゃないか」
思わずそんな言葉が口から出てしまう。
実力に差があり過ぎるのだ。
琵琶湖女子と東京大神。
そこに食らいつく京都青峰。
その3校がプロをも超える激しい戦いを繰り広げている。
対して他の名門校はまるで技術的にも精神的にも追いつけていない。
完全に動く的のような扱いで、勝負にすらなっていないのだ。
先ほどの大谷や南もそうだが、谷町も佐賀大のST3人相手に単独で勝利していた。
黒澤は、大野を接近戦の末に投げ飛ばすという強引な攻めで倒している。
栄女子の六角なんて弾切れで後方に下がる瞬間を鈴木に狙われて綺麗な砲撃による狙撃を食らっていた。
もはやプロとアマぐらいの差がある。
「これは調整が大変だねぇ」
好調な人間だけを選べれば問題無いが、何があるかわからない。
それに指導者としても、ここまでの差を放置するのは気が引ける。
どうしてこうなったのかも調べなくては……。
「全く、ホント手間がかかる」
*誤字脱字などは感想もしくは修正機能からお知らせ頂けると幸いです。
◆皆様しばらくぶりです。
PCが急に壊れてデータ復旧を試みるも大半がお亡くなりに。
小説の続きどころか書くために使っていた設定集なども一緒に消えました。
現在、可能な限りですが復旧作業中です。
リアルも色々あって忙しいので、なかなか連続更新とはなりませんが、何とか頑張りたいとは思ってます。