第158話 VS東京大神戦(3年目):決勝戦決着
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園3年 霧島 アリス
「……フフ、フフフ、アハハッ!」
動き始めたVR装置の中で、私は久しぶりに心の底から笑った。
以前に一度だけ体験したことがある。
あれは千佳をいつも通り追い回していた時だった。
ふとした瞬間……何気ない一瞬に違和感を感じた。
―――それは前世で体験したことがある『死』の感覚
隠れて弾を込めようとしていた私は、思わず弾を投げ出し銃を片手に隠れていた壁に蹴りを入れて地面に突っ込んで這いつくばった。
その瞬間、跳弾の音が私の頭上を通過していった。
あの時、私は本能で理解する。
今の跳弾は、確実に私を殺していただろうと。
結果としてスイッチの入ってしまった私は、相手が千佳なこともココがVR世界だということも忘れて、全力で相手を殺していた。
「あんなの見せられたら―――もう我慢できないじゃない」
*選手交代:琵琶湖スポーツ女子学園
IN
3年:霧島 アリス
OUT
2年:卯月 結菜
―――試合残り時間1分
■第三者視点
「クッソ!全員プランD!プランD!」
残り時間僅か。
今から突撃というタイミングでの鳥安撃破。
ただでさえ焦りが出るというのに、アナウンスで残り時間1分が告げられる。
「ATはスモークを構え!投擲後に即グレ投入!爆発音で突撃開始!突撃方法を間違えるなよっ!!」
逆転を信じて慌ただしく指示を飛ばす谷町。
そして同じくそれを信じて最後の突撃を準備する東京大神のメンバー。
彼女達のミスを1つだけ指摘するとすれば、焦りとアナウンスでログをまともに見ている暇が無かったことだろう。
―――まあ、それを見ていた所で結果は同じだっただろうが。
最前線に一斉に投げ込まれたスモークグレネードに、琵琶湖女子側も一斉突撃への警戒を強める。
そしてグレネードの爆発音と共に、その初動音を誤魔化した東京大神のメンバーが突撃を開始した。
特に中央の突撃は連携の取れた見事なものだった。
大野を庇うように谷町が突っ込んでくるが、宮本と三峰の攻撃が開始されると同時に隠れていた大野が障害物を踏み台に2人を飛び越えてブースターを吹かし宙を飛ぶ。
そのあまりにも大胆な突撃に2人の動きが一瞬止まると、流れてきたスモークによって視線が遮られ、谷町の姿も消える。
こういう時は後ろに下がるべきだと2人が下がろうとするも、スモークの外からガトリングの弾が飛んできた。
いつもなら速度を活かしてスモークから抜けつつ反撃するのだが、狭い中央でそれが出来る訳もなく。
下手に撃破を取られる訳にも行かずということで判断に迷い、完全に足止めされてしまった。
更にその瞬間、中央の発電機が占拠される。
交戦せず抜け切った大野は、そのまま司令塔へ向かって突撃して可能な限り攻撃を叩き込むつもりだった。
散々練習した空中飛行を成功させ、相手を飛び越えると後ろを気にせず着地して―――
―――ヘッドショットキル!
その横に隠れていたアリスに狙撃された。
◆ヘッドショットキル
× 東京大神 :大野 晶
〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス
そのまま弾を込めつつ司令塔の正面に立つ。
そして何気なく銃を斜め上に構えたかと思うとそのまま引き金を引く。
その瞬間―――
―――ヘッドショットキル!
スモークの中から盾を構えたまま宙を飛んできた谷町の、その僅かに出た頭部を弾が貫いた。
◆ヘッドショットキル
× 東京大神 :谷町 香織【L】
〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス
光の粒子になりながらアリスに向かって落下してくる谷町を回避する必要が無いのにその場でくるりと回転して避けつつ弾を込める。
さながら舞踏会で踊る主役のようだ。
弾を込めるとそのままスモークの奥に向かって狙いを定めた一撃を放つ。
発射された弾は吸い込まれるようにスモークの中へと消える。
だが、次の瞬間―――
―――ヘッドショットキル!
スモークの向こう側。
迫撃砲を外して身軽になっていたことで機動力を活かした鈴木が2人を牽制していた。
その鈴木の頭部を綺麗に撃ち抜いた。
◆ヘッドショットキル
× 東京大神 :鈴木 桃香
〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス
チラっとレーダーを確認しながら弾を込めたアリスは、マップ下側を向くと心の中でカウントする。
そして何もない場所へと引き金を引いた。
その瞬間―――
―――ヘッドショットキル!
笠井に体当たりをしつつブースター全開で、強引に押し込んできた水橋の頭部装甲に弾が吸い込まれるように綺麗に命中した。
◆ヘッドショットキル
× 東京大神 :水橋 向日葵
〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス
残り時間1分を切ってからの怒涛の4連続ヘッドショット。
鳥安を含めれば5人―――半数が一気に脱落した東京大神は、その後の突撃も不発に終わってしまう。
もう一度復活からの突撃をと思った所で、僅か十数秒しかない以上、逆転は不可能だった。
東京大神の監督も、あと僅かだから好きにさせるつもりだったが、サレンダーを選択する。
何故なら、アリスが場に居るからだ。
彼女が暴れた試合は、その容赦の無さから心が折れるものも多い。
自由にさせた最後の時間で心を折られる危険性を考えれば、ここで例え選手達に恨まれても止めるべきだと監督は判断した。
これにより決勝戦は終了する。
東京大神 :910
琵琶湖女子:1000
琵琶湖女子による夏の大会3連覇という偉業が達成された瞬間でもあった。
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