第156話 VS東京大神戦(3年目):決勝戦中編
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園3年 霧島 アリス
昔は、常に最前線に居た。
途中から若干後方に下がったが、それでも銃を撃つことだけは変わらなかった。
「たまには、こういう視点も悪くないんじゃない?」
ベンチにて個々の配置を確認しながら試合を観戦する。
昔では考えられなかった真上からの視点というのは、色々と勉強になる。
幸い、鍛えた連中は悪くはない。
今の大神を見ても勝率は60%ぐらいか。
まずマシになったとはいえ、中央が膠着しているのに上下がイマイチ動けていない。
特に晴香のやつには色々と教えたのに、それを活かしきれていないし、京子も晴香のサポートに徹し過ぎている。
かといって大神側も防衛に徹しているので動きがあるようでまるでない。
どうせなら宮本・三峰・卯月・晴香・京子で動きを合わせて香織に一斉攻撃を仕掛ければいいのに。
瞬間的な一斉攻撃でこちらが2~3人倒れてもアレが倒せれば点数的にも戦局的にも問題ない。
防御からのカウンター重視なんて消極策を仕掛けている連中に急に訪れる通信障害とポイント負けに人数有利。
恐らく全体的な流れで点数を取り返そうと前に出るだろうが、通信障害がある以上はどうしても連携が緩くなる。
一度全体的に大きく下がって相手が無理して前に出てきたのを、それこそカウンターで撃破を取りつつ下がればいい。
そうなると無理しての総力戦か撤退かの選択で相手は迷って余計に連携など取れないだろう。
万が一にでも総力戦を仕掛けた所で、防衛に徹されれば多少の人数不利は関係なくなる。
それにこちらが下がれば下がるほど、馬鹿鳥と砲撃馬鹿はポジション取りで無駄に動き回ることになってしまい、まともな援護も出来なくなる。
香織が戻った時には既に勝敗は決しているだろう。
そうなると向こうに出来るのは一斉突撃のみ。
相手がそれを選択してくると解っているのなら、いくらでも止めようがある。
個人的には、どうして死ぬことが無い戦いで過剰にリスクを恐れるのかが理解出来ない。
まあ、それこそが私が未だに馴染めていない部分でもあるのだけども……。
どちらにしろ大神が中央を固めた時点でもう香織狩り作戦は厳しくなった。
気づけば同じく試合を見ていた黒澤・長野コンビが準備運動をしていた。
交代するつもり満々である。
と言いたい所だが、まあ交代でしょうね。
時間経過と共に北条姉妹の集中力が削られている。
笠井がフォローに入っているものの、終盤に押し切られる可能性がある。
そもそも笠井がフォローに回っている時点でダメなのだ。
アイツは遊撃手として動き回るのが持ち味なのに足を止めて援護に回るとか、その時点でアウトである。
いつもとは違う戦いにストレスも溜まるだろうけど、それも1つの経験だと思って貰おう。
色々と考えながら試合を見ているが、やはりこのまま残り時間ギリギリでのラッシュかな~とか思えてくる。
緊張感のある点数の取り合いも構わないが、ここまで動きが単調だと萎える部分もある。
「あとは、香織をどうしようかなぁ~」
恐らくアイツの頭の中は、私を引き摺り出したいとかそんな所だろう。
そこで雌雄を決するとかではなく、私が慌てて出てきた所をそのまま押し込んで勝利を勝ち取る。
そして『舐めたことしてるから負けたのよ』と私に言いたいとかそんなこと考えてそう。
「どうしよっかなぁ~。せめて馬鹿鳥と千佳の決着がさっさと付けばなぁ~」
ようやく自分の立ち位置を理解して視野の広さを活かして周囲の援護に徹する鳥安。
必死過ぎてまだ完全に入りきれていない千佳。
このままでは、まあ100%千佳の負けでしょう。
「完全に抑え込まれるのか、それとも一矢報いるのか」
非常に愉しみではあるものの、試合時間というものも限られていた。
悩ましい問題が多すぎる。
―――それでも
「やっぱり最後の夏だものね」
自分でやればいいものの、あえて監督に任せて軽く伸びをする。
それを見ていた黒澤と長野も準備運動を終えてスイッチを切り替える。
少しして、試合ログに選手交代が表示された。
*選手交代:琵琶湖スポーツ女子学園
IN
3年:黒澤 桂子
3年:長野 誠子
OUT
2年:北条 蒼
2年:北条 紅
―――試合残り時間10分
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