第144話
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園3年 霧島 アリス
毎日トレーニングという状態が続き、もうそろそろどこかと練習試合でもと思っていた頃だった。
あの唐突に始まったPVEの詳細情報が届いた。
どうやら通常の大会と並行して行うらしく、出場選手はPVPとPVEで別にしなければならないらしい。
つまりどちらか片方にしか出られないというクソルールだ。
それで本当に人が集まるのか……というか盛り上がると思っているのかと問いたい。
出来ればどちらにも出たかったのになぁ、と思ってみてもルール上無理なら仕方が無いだろう。
「―――と言う訳で誰か出たい人居る?」
意外とこっちに出たいという奴も居るのでは?と思って聞いてみるも誰も返事をしなかった。
まあ当然でしょうね。
今までから続く全国大会である通常大会に出るために頑張ってきたのだから。
それでもメンバーが増えた以上、こちらに人を出しても問題はない。
なのでそれを伝えた上でメンバー選考の基準を発表した。
・それぞれの役割から上位のメンバーを選出する。
しかし設ける枠自体は兵種によって差があるので人気が無いからチャンスが……という理論は通用しにくい。
・レギュラーが埋まった段階で、それ以降のメンバーは基本的にPVEにエントリーという形にする。
ベンチという選択肢もあるが、それよりもどんな形であれ試合に出ることの方が有意義だと説明しておく。
もちろんベンチ入りしたメンバーが全く出場しないという訳ではないが、今年はほぼ出れないと思って欲しい。
何故なら2~3年連中は1年と比べて技量差が大きい。
そんな連中が一切譲る気が無いのだから、何かトラブルでもない限りは―――ということだ。
どうせならPVEで実力アピールをするなりで来年以降のレギュラー争いを目指せと煽っておく。
特に多脚戦車は1人で撃破出来ないものなのでチームワーク練習にも丁度良い。
一通り説明するとやはりピリピリとした空気になってくる。
良い雰囲気だ。
やはり最初からレギュラーを諦めるような連中よりも最後まで食い付いてくるような精神力が無いとね。
―――それから数日後。
「この程度、造作も無いことでしてよっ!」
VR世界に出現した巨大な多脚戦車の前でオホホと笑うのは、卒業した藤沢先輩だ。
PVEのトレーニングをしようにもそれ用のデータが無い。
かといって多脚戦車を購入しようにも軍事用データである以上、そうそう簡単に購入出来るものではない。
それに物凄く高額な玩具なので、お金の問題もあった。
その話を『近くに用事があったのでついでに寄ってみた』と言って現れた彼女にした所、このようなことになった。
「……まあ、助かったから良いんだけどね」
それにしても言ってから数日で持ってくるあたり、流石は世界的メーカーのお嬢様だと思えばいいのだろうか。
私のそんな想いを理解してか、同じような感想を持った連中が後ろから声をかけてきた。
「……コレ、そんな簡単に用意出来るものじゃないはずなんだけど」
「せやで。軍事データをポンっと持ってくる時点であり得んわ」
「まあ前々からそんな感じだったからね」
「何かあるたびに出前とかしてましたからね……職人ごと」
口々にそう言いながら多脚戦車を見上げているのは、プロになった白石舞・堀川茜。
更には卒業したはずの琵琶湖女子メンバーに、同じく卒業したはずの大神高校の田川や石井などが居た。
そして京都でリーダーをしていた大里など色々な所から人が集まっている。
今回、面白そうなので卒業生達に練習試合をお願いしてみた形だ。
もちろん様々な条件があった。
リアル側での呼び出しがあったのでVR世界から現実へと帰る。
そしてミーティングルームに行くと―――
「とりあえず来たわよ」
そう言いながら現れたのは香織を筆頭とした東京私立大神高等学校のメンバー。
「人数多すぎない?」
更には恋を中心とした京都私立青峰女子学園のメンバー。
「うわぁ~……」
何だこれ?私居る場所間違えてない?って顔をしている武宮 菫をリーダーとした大阪府立日吉女学園のメンバー。
女子高生LEGEND大会での強豪校が揃っていた。
そう、条件の1つがこれである。
『どうせやるならウチの母校も参加させてくれ』という要望。
まあ良い練習相手になるだろうからと二つ返事でOKした。
「―――それに弱い相手を一方的にってのは飽きるのよねぇ」
相手が強くなってくれるのは大歓迎である。
流石に2軍、3軍と多くの部員数が居る強豪チームが複数集まっただけあって一番広い部屋でも狭いと感じる状態だ。
事前に可動式の壁を外して巨大な部屋を用意していたので、そちらに誘導する。
まるで全国大会のような状態に1年生は興奮気味だ。
やがて全員が揃うと軽く挨拶を行う。
「今回、ここに居る先輩方の協力により合同練習が行えることになった。大会前の貴重な練習試合であると共に貴重な成長出来る時間でもある。他校だからとか年上・年下など関係なく教え合い、ぶつかり合って成長して欲しい」
開幕の挨拶を任されていたので思ったことを口にする。
どうせ次に戦う時は全国の舞台だ。
今この瞬間が一番気楽に相手と戦える時間と考えれば、ここでやれることをやって自身の成長に繋げるべきだろう。
それが出来る、出来ないというのが今後大きな差となってくる。
むしろどんどん成長して最高の選手となって立ちはだかって欲しいものだ。
各学校の監督達からも挨拶が行われた後、各学校のリーダー達も踏まえて練習方法や機材の使用に関して調整を行う。
それが終わると各学校ごとに分かれての最初のミーティングタイムとなった。
「今回の練習試合でレギュラーを決める予定なのでそのつもりで。まあ練習だから勝つことよりも自身の実力をしっかり出すように」
あ、ちなみにPVE連中もコイツでやるので~と多脚戦車のデータを指差しながら言っておく。
意外と1~2年生組がやる気を出しており、逆に3年生組の方が引き攣った笑みを浮かべている。
今回用意した練習相手(先輩方)は文句を言いつつも何故かノリノリで協力をしてくれた。
特に茜と大里朱美は母校の弱体化を気にしていたらしく『強豪校として返り咲くために鍛えなおす』と言っていた。
茜とセットという印象だった宮島文も『おもろそうやし参加させて~や~』と言って参加しにきたので誰もが自主参加という素晴らしい状態である。
ある程度のチームの振り分けと臨時リーダーを決め、そのまま各チームごとに10分間のミーティングタイムを取る。
もちろん練習相手を務める合同チームや他校のチームも同じくミーティングを行う。
先輩方の集まった合同チームでは流れるようにリーダーを茜に押し付けており、本人は苦笑するしかなかったようだ。
今回私は監督と一緒に全体のレベル把握のために基本的には試合に出ない。
……というのは建前で個人的には出たいので、コッソリと参加するつもりだ。
こうして高校生活最後の3年目は、非常に賑やかなスタートとなった。
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