第141話
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園2年 神宮寺 詩
試合開始から既に半分の時間が過ぎた。
後半戦になっても未だポイントが動かない。
何故ならどちらも慎重になっており、撃ち合いばかりで踏み込もうとしないからだ。
「冷静に、状況を見極め、我慢し、欲張らない」
今回の紅白戦でリーダーを務めることになった際に霧島先輩から言われた言葉。
何も攻め込むだけが勝負じゃない。
一撃必殺だけが武器でもない。
最後の最後まで冷静な計算の元で勝利を目指せる者こそが、リーダーなのだと。
だから私は相手を焦らすだけ焦らす。
「今回、決してこちらから攻め込まないこと。攻め込む場合は決められた場所まで。ひたすら相手に攻めさせることが作戦よ」
ミーティングでそう宣言した私は、その言葉通りの試合展開に思わず深呼吸をした。
1つのミスが勝敗を分けるという不安。
予想通りの試合展開に逸る気持ち。
それらを呑み込んで相手を見据える。
壁役と後方サポーターの1年は無視しても良いでしょう。
となると相手は宮本先輩と三峰先輩。
そして後方に居る安田先輩の3人。
世界大会での活躍を考えれば要注意3人だけど、同時に弱点もある。
宮本先輩は新城先輩のような突破力が無い。
どうしても防御を優先するような動きのため、突撃を止めやすい。
三峰先輩も単独で突撃してくるようなタイプじゃない。
だからこそ撃ち合いで牽制すれば前に出てこれず、宮本先輩を盾にも出来ないでしょう。
安田先輩は霧島先輩が完全に圧力をかけ続けているのでまともな援護になっていない。
ずっと狙撃しようとすれば銃を吹き飛ばされるなんて、普通の人なら心が折れても仕方が無いようなことを延々と繰り返していた。
私はまだまだ耐久値があるマシンガン付きの大盾を2つ突き出して完全防御状態を維持しつつ内蔵マシンガンで牽制する。
そして相手が前に出ようとすると滑腔砲で狙撃し、前に出られない状況を継続。
予想通りなら、もうそろそろしびれを切らして相手が突撃してくるでしょう。
「そろそろ相手が突っ込んできてもおかしくないわ。全員残弾に注意!」
指示を飛ばすと動こうとする宮本先輩に向かって背中の滑腔砲を撃った。
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園2年 卯月 結菜
リーダーの神宮寺さんからの言葉で残弾を確認する。
「残り4割切りました。一旦補給します」
残りが無かったので後ろに設置されている補給ポッドで弾と耐久値を回復する。
憧れから始めたLEGENDは、想像以上に大変だった。
そして私のような初心者には厳しい現実ばかり。
何度も諦めかけた。
でもそのたびに励ましてくれる仲間のおかげで今、私はここに居る。
「私達だって最初は何も出来ない足手まといだった」
目の前でこちらを狙ってくる宮本先輩や三峰先輩は、そう言って苦笑していた。
当時の試合映像も見せて貰ったが、そこには今では考えられないような先輩達の逃げ惑う姿が映っていた。
とてもではないが信じられない。
そんな気持ちを察したのか、先輩達が初心者だった頃の色んな話をしてくれた。
「諦めなかったから今がある」
全ての努力が報われる訳じゃない。
でも努力しなければ、諦めてしまえばそこまでだ。
その言葉に、私は動かされた。
「中央、来ましたわ!」
神宮寺さんの言葉にハッとする。
既に補給を終えていた私は、スグに持ち場に移動した。
中央から発電所を盾にしつつ宮本先輩と三峰先輩が1年生を庇いながらも突っ込んできていた。
予定通り私は神宮寺さんを盾にしつつ射撃で応戦し、神宮寺さんも内蔵マシンガンを2つとも撃って牽制する。
それでも盾の防御力で強引に前に出てくる宮本先輩。
その後ろから現れた三峰先輩に狙いを定めてグレネードを投げる。
先頭ではなく自分が狙われたことに一瞬戸惑った感じの先輩だったが、スグに回避行動に移る。
それを逃すまいと追撃をかける。
一瞬宮本先輩がこちらに来るかもと思ったが、神宮寺さんの滑腔砲が怖いのか彼女を潰すために距離を詰めていた。
一時的な三峰先輩との一騎討ち……とはいかず、1年生ストライカーが盾を構えつつ大型マシンガンを撃ってくる。
まだまだ片手撃ちに慣れていないのか、集弾性が甘い。
それよりも先に先輩だと銃を構えた瞬間。
「突撃!突撃!突撃ですよぉぉぉぉーーーー!!」
スグ横をブースターの超スピードで駆け抜けていく味方ストライカー。
確か1年生の『遠山 麻子』だったっけ?
大盾に大型警棒を持って全力で相手1年生に向かって突っ込んだ。
急に飛び出してきたストライカーに相手の1年生は、焦りながらもマシンガンを向けるが―――
「突撃!」
警棒の一撃で盾を破壊され、体勢を崩す。
「突撃!」
何とか相手にマシンガンを向けようとした瞬間、警棒がマシンガンに突き刺さって破壊判定が出る。
「突撃ィ!」
マシンガンの刺さった警棒を大きく振ってマシンガンから抜きつつ、振りかぶった警棒を相手に叩きつけた。
相手1年生ストライカーは、悲鳴と共に粒子となって消えていく。
「1度でダメなら2度!2度でダメなら3度!突撃すれば解決します!これぞストライカーッ!!」
そのあまりにも一方的でインパクトの強い光景に、一瞬我を忘れてしまった。
本来なら致命的な隙となったであろう状況だが、三峰先輩も同じく呆然としていたので助かったと言える。
お互いに仕切り直しとばかりに距離を取ったのだが、空気が読めない突撃ちゃんが三峰先輩に飛びかかった。
「次は先輩です!突撃です!お覚悟をーーーー!!」
しかし有利と言えば有利だ。
私が単独で三峰先輩を抑えられる訳が無いのだから、この状況は歓迎すべき。
更に言えばここで宮本先輩を孤立させることが出来れば、中央は完全勝利出来る。
それが理解出来ていないのか、三峰先輩が少しだけ後ろに下がった。
そのまま前に―――
「甘いです!」
突如、突撃ちゃんが大型警棒を逃げる三峰先輩に向かって投げた。
大型警棒は投げてもダメージ判定はない。
まあ当たった衝撃などがあるので嫌がらせ程度になるぐらいだ。
しかも角度が甘く届かない距離。
そう思っていたが―――
警棒が地面近くを通過した瞬間。
爆発音と共に爆風がやってきた。
思わずバックラーで防御体勢を取る。
「……地雷」
そう、あの子は地雷潰しのために警棒を投げたのだ。
そして彼女は既にもう1本の警棒を持っており、怯まずに突撃しようとしていた。
しかしそこで思わぬ邪魔が入る。
奥から笠井先輩がブースト全開の武装フルバーストでカバーしにきたのだ。
流石の火力にこちらの足が止まる。
その瞬間、三峰先輩や宮本先輩が後退していく。
大きく後退する姿を見て、思わずため息を吐いた。
気づけば進んで良いと言われていた場所の限界に近い所まで進んでいた。
これは危なかったと思い下がろうとして―――
「突撃!突撃!突撃ですよぉぉぉぉーーーー!!」
突撃ちゃんが何と単独で追撃をかけようとしていた。
あまりの出来事に声をかけるタイミングを失ってしまう。
だが次の瞬間。
「ふぎゃっ!!」
銃声と共に突撃ちゃんが何かに引っかかったかのようにその場で勢いよく倒れる。
「おい、そこの突撃娘。ミーティングで言ったよな?前に出るラインを決めたからそれ以上前に行くなって」
後ろを見れば肩に銃を担いでいる霧島先輩の姿。
「……お、おす」
「で、お前の今居る位置はどこだ?」
私はそっとレーダーを確認すると、彼女が倒れている位置は丁度そのラインを越えた所だった。
「ちょっと……その……盛り上がって、しまってぇー……」
「ほぅ?……随分といっちょまえな口を利くようになったもんだ」
「い、いや!自分そういうつもりでは―――」
「喜べ、突撃娘。今日から私が個人的にお前のその根性叩き直してやろう。まずこの試合後にグラウンド10周からだな」
一方的な死刑宣告に、立ち上がった彼女はヨロヨロとしつつも後退していく。
そのあまりにも可哀想な状況に、彼女への交代が行われたほどだ。
まあ10周走る時まで、せめてゆっくり休めるといいのだけど……。
試合の方は、結局この時の10ポイント以外動くことなく終了となった。
様々な課題が残った試合と言える。
そんな中、私は1年生に負けるわけにはいかないと練習メニューの見直しを進めることにした。
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