第134話
■side:U-18女子日本代表 鳥安 明美
淡々と弾を込めるとスコープを覗く。
そして飛び出してくる標的のど真ん中に弾を撃ち込む。
それをひたすら繰り返す。
しばらくして一旦VR装置から外に出る。
画面には射撃練習の歴代最高記録更新と表示されているが、そんなものに興味が無い。
だから記録せずそのまま電源を切った。
休憩しようと休憩スペースに移動すると、つけっぱなしだったテレビからLEGENDの話が聞こえてくる。
その話についイラっとしてしまい乱暴にテレビを消す。
ここ数日、同じような話ばかりだ。
日本とロシアの試合。
結局最後の新城梓による敵リーダー特攻は相手リーダーが自ら倒れ込むという時間稼ぎによって、あと僅かというところでの時間切れとなった。
なので30P差により日本は負けた。
だがそれからだ。
『日本僅差の敗北!敗因は鳥安か?』
『ブレイカー差か?ロシアに負けた日本』
『妖精に完敗!鳥安では無理か?』
どいつもこいつも『日本はロシア相手に僅差だった。負けたのは鳥安のせいだ』と言い出した。
確かにあのバケモノを止められなかったのは私だ。
でも……だからってじゃあ誰がアレを止められたのよって話。
なのに誰もが『ポイントを稼がれ負けの原因を作った鳥安』と私を責める。
……私だってわかってる。
意地を張らずにもっと持久戦を挑めば良かったかもしれないって。
だけど、どうしようもないじゃない!
結果論で無責任に文句を言うならアナタ達が私の代わりにアレを止めればいいじゃない!
『もっと努力してくれてれば』
「努力ぐらいしてるわよっ!」
『対策練習とか徹底してやってればいけたかも』
「練習だっていっぱいやってるっ!!」
『もっと食い下がって粘ればいけたはずなのに』
「これ以上どうしろって言うのよッ!!」
思わず声に出して叫ぶ。
何をやっても勝てなかった。
なのに周囲は無責任に『勝てたはずだ』と騒ぐ。
私は思わず椅子に座ったまま頭を抱えて下を向く。
考えても考えても良い事などひとつもなく、ただイライラするだけ。
この苛立ちをどうすればと思った時だった。
「―――はぁ。思ったよりも重症ね」
ふと声が聞こえてきた。
■side:東京Go!Go!ガッツ 白石 舞
「―――はぁ。思ったよりも重症ね」
声をかけた相手……鳥安明美は、それはもう酷い顔をしていた。
「……私もこんな感じだったのかしら?」
あの時の私も追い詰められていた。
周囲の評価や期待に振り回され、勝手に暴れて迷惑をかけて……自滅してしまった。
「何ですか、先輩。……先輩も私に―――」
「ハイハイ、そんな下らないことじゃないわよ」
相手の言葉を遮って正面の椅子に座る。
「私が来たのは単純にアリスに頼まれたからよ」
「……アリス先輩に、ですか」
「そうよ。『アナタなら同じような経験してるのだから理解も出来るでしょ』ってさ。まったくあの娘は気軽に人を呼びつけるわ、面倒事を押し付けるわ、人様の心を簡単に抉るわ……」
私がアリスに対しての愚痴を言い出すと、少しだけ表情が和らいだようだ。
まったくもって世話の焼ける。
「で、同じような経験をしてる人からのアドバイス。それは『気にしないこと』よ」
「―――へっ?」
「逆に聞くけど、どこの誰かもわからない人達や無責任に人に評価を付けるような連中に、どうして私達が遠慮しなきゃならないの?」
「い、いや……だって」
「そもそもアナタは何のためにLEGENDをやってるの?そしてそのLEGENDを誰と一緒にやっているのかしら?」
「―――わ、私は」
「私も昔は色々な声に振り回されたわ。……でもね、振り返ってみて―――プロになってみてハッキリした。確かに周囲の評判も大事かもしれないけど、一番大事なのは自分自身。自分がどうしてLEGENDをやっているのか?それさえしっかりしていれば迷うことはないって」
彼女に言葉をかけながら椅子から立ち上がる。
「私達は、どうしても出来て当たり前だって思われがちだもの。だから誰もその努力を見てくれない。だからこそ私が言ってあげるわ」
そして彼女の前に立つとそのまま軽く抱きしめた。
「よく……頑張ったわね」
「……うぅ……くっ……」
声を殺して泣きだした後輩の背中に『我慢しなくていいのよ』と声をかけた。
■side:U-18女子日本代表指導コーチ 霧島 アリス
「ちゃんとしてきたわよ」
文句があると言いたげな感じの舞に手をひらひらと振って返事をしておく。
「で、まだやる気はあるってことでいいのかしら?」
「―――先輩の意見を聞かせて下さい」
舞の後ろに居た明美がハッキリとした声で返事をする。
……目元が赤い所を見るに泣いてスッキリしたのかしらね。
「本来なら自分で気づいて欲しかった所だけど」
そう言いながら今までの試合のデータを呼び出す。
「アナタの長所は『全体を細かい点まで全て見れている』という所よ。敵だけでなく味方の位置や戦闘の状況に弾数まで見えてるでしょう?」
「は、はい」
「なら味方を上手く使えばいい。味方と連携をする、撃破を取るって言葉は言うのは簡単だけど実行するのは非常に難しい。でもアナタはそれが出来る」
「それは先輩達だって―――」
「私やアナスタシアなんかは『一人で完結する』タイプなの。ザックリと言えば一人で何でもやれる。でも逆に味方との連携は基本的に考えない。でもアナタや舞は『状況に合わせて動く』タイプ。時には味方を、時には敵を利用して状況を作れる」
「そうね。私も一人で撃破までもっていけなくもないけど、それをやるならアリスの方が数倍上手い。でも味方との連携で撃破までもっていくのなら負けない自信があるわ」
私の説明に舞が乗っかってくる。
「単独勝負に強いアナスタシアに単独勝負を挑めばそりゃ負けるでしょう。アナタがやるべきだったのは集団戦。敵と味方、その全てを使って戦うべきだったのよ」
明美の失敗は、まさにそれだ。
何故か彼女は単独勝負をしたがる。
勝敗を気にしないのなら好きにすればいいが、そうでないなら自分の得意分野に引き込むべきだ。
「アナタは単純に撃破という目立つ餌に食い付き過ぎなのよ。だから周囲をよく観察して連携が出来るにも関わらずそれすら撃破に利用してしまっている。自分で自分の長所をほとんど殺してしまっている」
「連携する……ですか」
「まあ騙されたと思ってやってみなさい。そのために状況に合わせて撃ちわけ出来るのを持たせたのだから」
何やら感心するように何度かうんうんと唸っている馬鹿鳥に近づく。
そして手に持っていた零式ライフルのレプリカで鳥の頭を殴る。
「いったぁ~!」
「ロシア戦で勝手に武器変更した罰よ。その程度で済ませてあげるのだから感謝しなさい」
「だからって頭叩き過ぎですよぉ~」
「別に大型警棒のレプリカでもいいけど?」
「それ単なる鈍器じゃないですかぁ~!」
「……アナタ達、相変わらずねぇ」
ため息を吐く舞とその後ろに隠れる馬鹿鳥。
仕方がないので話を切り替える。
「まあ周囲の雑音なんて次の試合で吹き飛ばせばいいわ。もちろん、出来るわよね?」
一瞬ポカンとしていた明美だったが、スグにニヤっと笑みを浮かべた。
「―――絶対やってみせます!」
世話が焼けるなと思いながらもこれで彼女は大丈夫だろう。
まだまだ声をかけなきゃならない相手が多い。
コーチも楽じゃないななんて思いつつも2人と夜遅くまで話し合った。
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■お知らせ
皆様の応援のおかげで第9回ネット小説大賞の二次選考通過しました。
これによりまさかの最終選考に残ることになりました。
結果がどうなるかわかりませんが、自分の作品がここまで来るとは思っていなかったので非常に驚いております。
これも皆様の応援のおかげです。
この場を借りましてお礼申し上げます。
今後もよろしければ応援して頂けると幸いです。