第116話
■新城 梓:ガトリング専であるため高機動型を追求する装備になった。
■鈴木 桃香:相変わらずの砲撃重視。だが新型ブースターのおかげで機動力を得たので砲撃の位置取りが早くなった。
■一条 恋:大型マシンガン・両肩ツインガトリングは変わらないが新型ブースターで機動力を得たことで多少速度のある勝負にも対応できるようになった。
■温井 幸:背中の大型エネルギータンクのせいでブースターが装備出来なかった。そのため環境変化にこれからついていけるかが課題。
■笠井 千恵美:新型ブースターのおかげで両肩にミサイルを装備して火力を上げた。
■宮本 恵理:高機動タイプを選択した。サブアームに小型マシンガンを採用して火力と牽制を両立させる形にした。
■side:U-18女子日本代表指導コーチ兼監督補佐 谷町 香織
「これは無理だってぇ~!」
新城が思わずといった感じで叫び声をあげる。
「はいはい、失格」
それに対して私は、一切言い分など聞かずに淡々と戦績をつける。
よく見れば周囲で見学をしているストライカー選手達も疲れ切った顔をしていた。
「最初の威勢のいい感じはどこに行ったのかしらね?」
「前衛どもはアレだが、後衛にはキツイ」
桃香が珍しく弱音を吐く。
「後衛にはちゃんと1体減らしてるじゃない」
「そもそもあんなに早く動き回らないだろ。てか確実にプログラム弄ってる」
「気持ちは解るけど、これをクリアして貰うぐらいでないと困るのだけど」
現在、彼女らにやらせているのは『3体のCPUストライカーを撃破しろ』というトレーニング。
これ自体はどこにでもある普通の戦闘プログラムだ。
しかし今回用意したのは、オール新型装備のストライカー3体。
『高機動重装甲白兵戦型』例えるなら田川などのブースターを使用した接近攻撃主体のタイプ。
『高機動重装甲射撃戦型』例えるなら新城や笠井のようなブースターを使用して撃ち合いをするタイプ。
『高機動重装甲防御戦型』例えるなら宮本のような大盾を装備して基本的に防御支援に徹するタイプ。
この3種を1人で撃破するだけの単純な戦いね。
そしてただ3体撃破するだけでなく、耐久値の残りも40%以上残ってないとアウトとしている。
ちなみに後衛系のストライカー選手は、どれか1体を選んで削除出来るようにしてある。
なので2体倒すだけとなっていた。
これを誰もクリア出来ていない。
最初の頃はアレだけ余裕だなんだと言っていたのがウソのよう。
「そもそも実際、選手であんなに早く動き回れる訳ないじゃない」
恋まで文句を言い出した。
彼女が言っているのは、まあアレだ。
今回のCPUストライカー君は新型装備のデータで理論値を叩き出している。
そういう設定にしてあるのだ。
しかもCPUの動きや攻撃タイミングなどのデータは、全てアリスが用意したもので嫌がらせのような動きが多い。
なので異常に速いわ正確に動けるわ動きが人間的で読めないわで、とてもではないがCPUとは思えない動きで迫ってくる。
現在までで一番頑張っているのは、新城・一条のU-18でも活躍した2人。
そして意外にも宮本も頑張っていた。
この3人が2体撃破までいっている。
まあそこで3体目にやられているのだけど。
「ちゃんとクリア出来るものなのか、ぜひ見本を見せて欲しい」
そう言いだしたのは温井選手。
まあ彼女に関しては1体撃破時点で、残り2体に毎回袋叩きにされてるからなぁ。
「はぁ、解った。これがちゃんとクリア出来るものだって見せればいいのでしょ?」
仮にも代表選手が情けない。
そう思いながら装備を着けるために更新地点に移動する。
装備を着けて帰ってくると、先ほどまで疲れ果てたという感じだった連中がみんな待っていた。
しかも目が不純な感じでキラキラしている。
間違いなく私がクリア失敗して「ほらっ!」って言いたいのでしょうね。
「はぁ、馬鹿らしい」
そう呟きながらトレーニングモードをスタートする。
目の前の障害物だらけのフィールドに3体の高機動ストライカーが出現し、一斉に散開した。
両手に大型ガトリング
バックパックと新型ブースター。
サブアームは2つとも使用して大型マシンガンを持たせてある。
武器を持たせて攻撃させるのではなく、本来のサブアームに近い使い方をさせていた。
そして腰には大型警棒。
これが私の装備だ。
開始直後、ブースターを起動しつつもその場で相手の出方を待つ。
すると左側から射撃型が大型ガトリングを撃ちながら高速移動で詰め寄ってくる。
それをブースト移動で回避しつつガトリングで反撃する。
相手は所詮CPUだ。
動きが単調なので弾は回避しやすく、逆に攻撃を当てやすい。
ただ早く動いているだけだと思えば楽なものね。
被弾が多くなった射撃型は、一旦遮蔽物に隠れる。
そして次に飛び出してきた時、右方向から白兵型と防御型までが飛び出してきて3体同時攻撃を仕掛けてきた。
大体これで皆焦ってやられてしまい、クリア出来ないのだ。
右側から来るのはまだ遠い。
防御型のマシンガンも然う然う当たるものではない。
だから左側の射撃型を先に潰すためにこちら側からも接近して速攻で撃破する。
だがその直後、異常なまでの速度で突っ込んできた白兵型が大型ブレードを振り下ろしてくる。
こちらはまだ相手を正面にも捉えていない。
誰もが『これは終わった』と思った瞬間。
「させるかぁー!!」
大型ガトリングを振り向く時の遠心力も利用して全力で相手に向かってスイングする。
ブレードを振り下ろそうとしていた相手は、横から攻撃力が無いとはいえ相当な質量を叩きつけられ思いっきりバランスを崩した。
スグに使用不能判定が出ているガトリングを捨てると、片手で相手を掴みタックルをするような体勢でブースターを思いっきり吹かした。
相手もブースターを吹かして何とかしようとするが、大きく体勢を崩した所で掴まれたままブースターで押し込まれているのだ。
流石にどうしようもなく、そのまま相手を押すような形で防御型に向かって突進する。
その衝撃で白兵型は持っていたブレードを落としてしまう。
防御型は味方が盾にされているような状態なので迂闊に発砲出来ず、とりあえず盾で防御をしながら様子見することにしたようだ。
そのまま白兵型を防御型にぶつけるように突進する。
そして当たる直前、相手を離して吹き飛ばす。
しかし防御型は超反応でぶつかってくる白兵型を回避した。
私は腰にある大型警棒を左手に持ち左側から相手に振り上げる。
すると相手はそれを防ぐために大盾を左側に押し出す。
次の瞬間。
私はブースターを使用し、器用に反時計回りにその場で高速回転する。
そしてそのまま右側から横薙ぎに切り替えた大型警棒で相手を殴る。
隙を突かれて逆側から脇腹に一撃受けた防御型は、大きく体勢を崩す。
そこにすかさず二撃目を叩き込んで撃破した。
相手を倒した直後、後ろからサブ武器として持っていた大型警棒を構えた白兵型が警棒を振り下ろしてくる。
それを振り向きざまに警棒で受け止める。
力勝負になりそうになるが、そんなものに付き合う訳がない。
左手だけで相手の攻撃をギリギリ受け止めている間にサブアームを動かして大型マシンガンを右手で受け取る。
そして白兵型の頭部に銃口を突きつけ、引き金を思いっきり引いた。
発砲音と共に弾がフルオートで連射される。
ゼロ距離でマシンガンを顔面に受けた白兵型は、ヘッドショットキル判定となって消滅した。
すると『トレーニング終了!』という文字が表示される。
そして結果も大きく表示された。
残り耐久値も82%あり、余裕の基準値クリアである。
「―――さて、これで文句は無いわよね?」
呆然としているメンバーにそう声をかける。
「―――香織ってこんなに強かったっけ?」
そう言いだしたのは千恵美だ。
「笠井さん。ちょっとそれは失礼ではありませんかぁ?」
コーチっぽい感じで威圧感をかける。
だって『お前もっと弱かったはずだろ』と言われているようなものでしょ、今の。
流石に失礼過ぎるわ。
そう思いつつも最近の状況を思い出して苦笑する。
アリスに招待された『とんでも広場』はもう酷い所だった。
現在、世界戦が始まるということで自主的に代表に選ばれた選手だけは、世界戦終了まで参加しないようになっていた。
まあ流石に直前まで手の内をさらし続ける訳にもいかないでしょうからね。
そういう事情もあり、急激に人が減っていたのだ。
そこに新しく現れた『私達』は、そりゃもう残っているメンバーに大歓迎された。
アリスに聞いても『私達は選手じゃないし、自主的であってルールでもないし』と言って問題ないとした。
なのでメンバーが足りないからと誘われるがままに、休憩をロクに挟まず何試合も連戦するハメになる。
しかも世界戦に出てきてもおかしくないような選手や、引退したとはいえ元プロ選手も多数いる。
そんなところで馬鹿みたいに試合をしまくれば、そりゃ実力も上がるわって話で。
きっちり千恵美に謝罪をさせた後、全員に向かって声をあげる。
「あまり言いたくないけど、これぐらい出来なきゃ世界戦で勝ち抜くなんて不可能よ!」
そう言って選手達に再度練習をさせる。
しかしやはりどこか真剣さが足りない気がするのよね。
「これは一度、みんなに相談かなぁ」
今回は、ストライカーの訓練風景です。
監督と谷町が考えた訓練にアリスがプログラムを提供した形になります。
新城達はまだ新型装備に慣れていないこともあり、なかなか実力を100%発揮出来ていません。
しかしアリスや谷町は、時間を作って特訓しているので問題なく動けます。
更に言えば最近世界戦では負け無しなので、どこか気が緩んでいる所もあるのでしょう。
このままでは少しヤバイ感じがしていますが、どうなるのでしょうね?
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