第103話 谷町レポート(2年目:コーチ視点)
■side:U-18女子日本代表指導コーチ兼監督補佐 谷町 香織
目の前で戦う選手達を見ながら数値やコメントを記入していく。
「いや~、やってみたかったんだよねぇ~」
昔から、気づけばいつも何かと仕切る立場になっていた。
LEGENDをやり出してからもそうだった。
何故かリーダーをやることが多くなり、そうしている内に『谷町=リーダー』として固定されてしまった。
まあそれは別に構わないのだけど、そうしてリーダーをやり続けていると自然と監督の補佐をする機会も多くなる。
そして気づけば『監督とかやってみたいな』と思うようになっていた。
もちろん選手として戦うのも好きだし、監督ならではの苦労も知っている。
でも将来的にプロを引退して監督という流れも悪くないなと思っていた。
なので今回のコーチ就任は、まさにラッキーと言える。
最初は人気投票って何だよという感じだったし、選外になったら別枠で招集という出来レースに思わず招待を蹴ってしまったが……。
今ではこうなるために必要だったのだと割り切っている。
それぐらい今、やっていて愉しい。
……おっと、ちゃんと試合と選手を見て評価を付けなきゃ。
特にストライカーは人気で競争倍率が高い。
そして武装によって思いっきり変化する厄介な兵科でもある。
今回集まったのはほとんど知っている顔ばかりではあるものの、癖が強い連中ばかりだ。
■ストライカー部門
1位:新城 梓
・琵琶湖女子でストライカーと言えば彼女の名前が真っ先に出てくる。
ガトリング専という大型ブースターが無い頃からあった地味な戦い方。
それだけで戦い抜いてきたある意味天才の1人だ。
普通ならまずガトリング専であそこまで粘れないからね。
そして大型ブースターの恩恵を一番受けたであろう選手でもある。
元から機動力を重視するためのガトリング専。
それがブースターによって脅威の速度になった。
今までは何だかんだで正面からしか撃ち合いが出来なかったものを、彼女は高機動力を活かして側面強襲という新しい戦術を編み出す。
今の高機動型ストライカーの原型を作ったとも言えるでしょう。
欠点をあげるならガトリング専が抱える火力不足。
何をどうしようが瞬間火力はどうしても他ストライカーに負けてしまう。
ただ無理に武装を載せて今の調子を崩すのも馬鹿らしいので、このまま純粋に技術を磨けばいいと思う。
2位:一条 恋
・懐かしの我らが前衛。
相変わらずのガトリングマニアっぷりだ。
高機動のブースター型が主流になりつつある中で、頑なに両肩ガトリングを貫き続けている。
しかし高機動相手だと足を止めなければならない両肩ガトリングは、使いにくくなってしまっている。
でも一度決まるとガーディアンだろうが一瞬で盾ごと破壊する瞬間火力は圧巻だ。
周囲がサポートする形で彼女の火力を最大限活かす戦い方が理想でしょう。
なので欠点は、ストライカーが元々抱えている速度の遅さ。
特に両肩ガトリングは重量があるので旋回力も遅い。
あまり広い場所では戦わない方が良い。
3位:笠井 千恵美
・神風の2人ほどじゃないけど、よく突っ込んでいた選手だ。
今ではブースターに切り替えているようで、より前に出る機会が増えている。
この攻撃的な性格は、長所であり短所でもある。
新城選手と違い、腕部ロケットや腰にサブアームでロケット砲を付けていたりと重武装。
その分ブースター装備の中でも遅い方ではあるが、まあ許容範囲内だと思う。
力押しをするような場面などでは頼りになる反面、我慢強く防御に徹するような戦局では運用しにくいかな。
4位:田川 秋
・いや、一時期凄く悩んでた人だからちょっと感慨深いよね。
何をやってもダメで、相当苦しんでいた選手。
でも高機動ストライカーに転身して一気に頭角を現した。
ある意味、大神での高機動型の先駆けとも言える。
大盾に大型警棒、腰に予備でもう1本の警棒という完全突撃スタイル。
運用が非常に難しい反面、決まると一気にラインを崩すことが出来る突破力を持つ。
ただこのスタイルはアリスのせいで世界的に広まっており、琵琶湖女子のアメリカの子のような天才も居る魔境でもある。
単独突撃を前提とした運用や開幕から奇襲を仕掛ける時などは非常に強い。
だが単独行動しにくい場所や純粋な撃ち合いになると出番が無くなる。
あとは彼女が高機動接近型で他エースとどこまで戦えるのかによるでしょう。
5位:藤沢 花蓮
・琵琶湖女子のリーダーでありミサイラー。
自社で新型ミサイルを作って運用するという筋金入りだ。
というかどこの世界に自分で兵器設計して認可取って使う選手が居るんだよ。
今までのミサイラーだったら私の中では落選候補1位だったと思う。
でも新型ミサイルの性能と、それを運用出来る彼女のセンスを見る限りはアリだ。
特にビーコン誘導式は、ある意味賭け要素が強めだが初見殺し可能な一発逆転兵器。
ニードルミサイルによる牽制からのペネトレーターで一撃必殺。
運用が難しい反面、安定して運用出来れば確実なキルが取れる。
彼女にはリーダー経験があるものの、リーダーではなく選手として戦闘に集中して貰った方が良いと思うわ。
6位:鈴木 桃香
・大神のKD戦術で中心を担う選手。
ストライカーの武装の1つである大型迫撃砲を使いこなす天才。
今まで彼女は神がかり的な砲撃で、数多くの選手達を倒してきた。
しかし最近は、少し戦績が落ち込み気味。
それは高機動ストライカーが原因だったりする。
今までは鈍足であるため砲撃を回避出来なかったストライカーが大型ブースターによって速度を手に入れたのだ。
砲撃を見てから回避出来る圧倒的な瞬発力で、今まで撃破が取れていた場面で取れなくなっていた。
とはいっても大型ブースターを装備していないストライカーや他の3兵科に関しては、今まで通り撃破を取れているのでそこまで深刻な問題でもない。
彼女を運用する場合は、防御を固めてジワジワと詰め寄る感じの戦場が一番でしょう。
特にラインを形成した撃ち合いでは無類の強さを発揮する。
逆に乱戦になりやすいマップや動きの多い戦場は不向きだ。
7位:岡部 奈緒子
・U-15を経験している選手。
新城選手に憧れているらしく装備が全く同じ。
でも技術的には完全に新城選手に追い付けておらず、言い方は悪いが完全な下位互換だ。
私の中では落選候補第一である。
憧れから入るのは構わない。
同じ装備を使うのも構わない。
でも単なるコピーでは、オリジナルほどの性能は絶対に出ない。
何故なら装備に対する知識も動きも頭に無いからだ。
何故この装備なのか?
これをどう使えばいいのか?
こういう場合にどうすればいいのか?
それらはオリジナルにしか解らず、コピーに理解出来るものではない。
だからこそ真似をした先に『装備やスタイル』に対する理解をすることが大事なの。
そして自分の動きと比べて『本当にそれでいいのか?』と見直せるようになって、ようやく意味があると言える。
そこに彼女がたどり着かなければ、これ以上の成長は見込めないでしょう。
8位:宮本 恵理
・ウチの晶を自爆に追い込んでくれた選手。
いや~、まさか晶を追い詰めるとはね。
ロシアの守護神と同じ装備をしているのは真似なのか、それとも自分でそれにたどり着いたのか。
どちらにしても岡部選手とは違って既に『装備を使いこなしている』から問題ない。
防御型で大盾を持つブースターストライカーなんて、数えるほどしかいない。
何故かというと片手で大型マシンガンをちゃんと扱わなければならないからだ。
反動結構あるのよ、アレ。
脇に抱えて撃つとしても、相当頑張らないと連射するほど銃口が上に上がってしまう。
それを制御出来てるだけで、私からすれば褒めれる部分だ。
欠点をあげるとするなら、少し防御に意識が回り過ぎている気がする。
せっかくインファイト用の警棒まで持っているのだ。
もっと積極的に仕掛ける場面も欲しい所かな。
監督枠:山梨 綺羅
・監督枠として入ってきた1人目。
……いやまあ、ストライカーは倍率の高い人気兵科だけどさ。
監督枠が全部ストライカーってどうなのよ。
まあ愚痴は置いとくとして、新潟:田所のリーダーだったかな。
何かアリスが『猫と脳筋の犠牲者』とか言ってたけど。
彼女は高機動ストライカーの1人だが、ガトリングではなく新規武器であるロケットランチャー持ちだ。
しかも両手にロケットランチャーというある意味、物凄い攻撃的な感じである。
ロケットは弾速も早いから、高速移動で飛び出して撃ってスグ逃げるという『ヒット&アウェイ戦術』が持ち味ね。
欠点をあげるとするなら、せめて接近武器を持つべきかな。
ロケット砲しか持っていないから近距離戦闘や乱戦が非常にやりにくいと思う。
スタイルとしては面白いし、射線が取れる広い場所でも戦えるタイプなので面白い選手だ。
監督枠:池上 聖華
・監督枠2人目。
彼女は高知代表:桜ノ宮のエース選手。
両肩にサブアームを利用したロケットランチャーが2つ。
両腕に腕部2連ロケットを装備。
両手に大型マシンガンを2丁。
両足に3連ロケットを装備。
背中には大型迫撃砲。
もうこれでもかというほどの重武装ストライカーである。
最初見た時は『これ動けるの?』って本気で思ったよ。
私でもまともに動かす自信が無いといえる装備で、普通に動いているのだから凄いよ……色々と。
両肩のロケットは5発装填で連射可能。
しかもある程度感覚で動かせるようにしているらしく、両肩ロケットと両手マシンガンや両腕ロケット&両足ロケットとの一斉射は、そりゃもう凄かった。
見た目が超派手。
なんでこれであの人気投票選ばれなかったのか?って言いたくなるほど。
そう思って人気投票を見ればストライカー部門10位だったよ。
ウチが対戦した時も、まあとにかく撃ちまくってくるから近づけなかった。
……最終的には桃香の砲撃で仕留めたけど。
背中の迫撃砲は、桃香のようなピンポイント型ではない。
広範囲に低威力弾をばら撒くことで地味にダメージを蓄積させたり設置物を破壊したりする牽制用だ。
完全に固定砲台のような何か。
インパクトがあるし、初見でこれが中央で大暴れすればかなりの牽制にはなると思う。
ただ接近されるとどうしようもないというか、動きがやっぱり鈍足過ぎるのが欠点。
監督枠:温井 幸
・監督枠3人目。
彼女は埼玉の御神女子から。
またこれを見ることになるのか~と思って眺めているのは、ビーム砲だ。
LEGENDでは一部リアル未実装の兵器でも一定の基準をクリアすれば実装される。
まあ所詮データの世界なので、机上の空論だろうが成立すればOKなんでしょう。
両手持ちの大型ビーム砲を構えて背中に背負った大型タンクからエネルギーを銃にチャージ。
そして発射すると一瞬で拳ほどのビームが目標を撃ち抜いた。
彼女は両肩に肩用シールドを装備しており、防御を固めてビーム砲で一撃というスタイルである。
ウチと戦った時は、初見殺し感があって1人やられてしまったがネタが解れば怖くはない。
ひたすら後方から撃ってくるブレイカーみたいなものだと思えばいいのだ。
ゴリ押しで追い込んで最後は馬鹿鳥によって倒した相手。
ブレイカーと違いヘッドショットを狙う必要はない。
胴体のど真ん中を撃ち抜けば一撃必殺となる。
ある意味ヘッドショットを狙うよりお手軽だが、チャージに10秒ほどかかる。
そして発射する際は、腰の後ろについているアンカーを地面に撃ち込まないと撃てないという点。
グングニルに比べれば動き回れてポジション変更出来るため気楽である。
それでも色々と条件が厳しい。
彼女を運用したいのなら完璧な防御布陣を敷いてから、比較的安全圏から一方的に撃たせるという形になるでしょう。
私は、一通り記入を終えると見やすいように選手別にデータを整理する。
ここから誰が選ばれるのかは分からないけど、私は私の仕事をするだけ。
「さて、あと1日あるし頑張るかな」
私としては、久しぶりに何も考えず自分のことだけに集中出来て満足だった。
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